公開日:2023年5月11日

妖怪、鬼、地獄……異界とその住人たちに出遭う旅へ。「異界彷徨―怪異・祈り・生と死―」が大阪歴史博物館で開催中

妖怪の表象だけでなく、信仰や風習を知る文物なども展示

展覧会フライヤー

かつてあった異界と人との関わりを知る

いにしえから、人々は自分たちのいるところとは異なる世界、すなわち「異界」を意識して暮らしてきた。鬼や天狗といった超常的な存在を畏怖し、我が身にふりかかる災いをひたむきな祈りで避けようとする。そんな人々の営みにつながる異界の表象を取り上げる展覧会「異界彷徨―怪異・祈り・生と死―」大阪歴史博物館で開催中だ。会期は4月28日から6月26日まで。

天狗像 江戸時代後期~明治時代 大阪歴史博物館蔵(中尾堅一郎氏寄贈)

かつては(あるいは現在も?)人間にとって人知の及ばない現象は、異界の住人が引き起こすものであり、人々はそれを畏怖し、他界に属する神や仏へのひたむきな祈りによって災いを退けようとしてきた。また、新たに生まれる命を喜び、成長を祝い、また死者を手厚く弔う際にも、様々な儀礼を行うなど、この世ならざる世界、すなわち異界は私たちの生活を基層で支える概念なのだ。

本展では、館蔵品を中心に、民間信仰にかかわる器物や祈願品などの民俗資料をはじめ、祭祀具や副葬品などの考古資料、他界観や神仏、妖怪などをあらわした絵画資料や歴史資料など、異界にまつわるあらゆるジャンルの資料を紹介している。

中国では凶兆を示す流星を指す言葉だったが、日本では、飛行能力をもつ有翼の障魔となり、さらに山中での怪異や山神信仰、修験道における山伏などの性格が習合した天狗。病魔を祓うとされ、京都などの家屋の軒先に飾られている鍾馗(しょうき)などは、今日も親しみのある異界の住人たちだろう。

朱鍾馗図 丹羽桃渓筆 文化8 (1811) 大阪歴史博物館蔵(松村恭一氏寄贈)

濱松歌国の著書『願懸重宝記(がんかけちょうほうき)』は、大坂や周辺地域における病気平癒や諸願成就に霊験ある神仏と祈念の方法などがまとめられており、「目が痛む」と悩む男性に八幡神の神使である鳩をかたどった土人形が手渡される情景などが描かれている。

また大坂の豪商・鴻池家に伝来した婚礼道具のなかには、鉄の持つ霊力と刃の切断力が呪力の根幹となり退魔の力があると信じられる刀剣や、災害や病気などを避けるために護符を入れた守袋が含まれ、当時の人々の願いや信仰のかたちをうかがうことができる。

『願懸重宝記』(部分) 文化13 (1816) 大阪歴史博物館蔵
守刀・守袋 江戸時代後期~明治時代 大阪歴史博物館蔵(鴻池善右衞門氏寄贈)

重い罪を背負った者は死後、地獄道に堕とされ永遠に責め苦を味わう。その恐怖を描いた地獄図なども、想像力をかきたてる。暮らしのなかの様々な状況からあらわれ出ずる異界を、人々はどのようにとらえ、交渉し、対応してきたのか。現在の社会からは遠くになってしまった異界に思いを馳せ、様々な視点を交えながら考える契機となる展覧会だ。

地こく変(部分) 菅楯彦筆 明治41 (1908)

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