公開日:2021年3月8日

2つの都市が僕にコラージュをさせる。Yabiku Henrique Yudiインタビュー

DIESEL ART GALLERYで個展「MOTION」を開催中のYabiku Henrique Yudi (ヤビク・エンリケ・ユウジ)にインタビュー[PR]

コラージュとは、フランス語で「のり付け」を意味する表現手法のひとつ。美術史上ではパブロ・ピカソがコラージュの手法を用いた第一人者と言われ、ダダイスム、シュルレアリスムなどの芸術運動の中で手さらに醸成されていった。

美術史に根ざしたコラージュ表現があるいっぽう、現代ではパブリックな場所で野生のコラージュを見ることができる。たとえば商業施設のコンクリート壁を軽やかに乗っ取る、けばけばしいグラフィティの集合体や、電柱に何者かが貼り付けた新旧さまざまなステッカー。Yabiku Henrique Yudi(ヤビク・エンリケ・ユウジ)がつくるコラージュ作品は、それらふたつの系譜を橋渡しするようなあり方を見せている。

Yabikuはコラージュの手法について次のように話す。「僕は本当に飽き性なのですが、コラージュは偶然たどり着いた唯一続けられるもの。ひとつのことにこんなに集中していられるのは人生で初めてなんです」。

5月13日までDIESEL ART GALLERYにて個展「MOTION」を開催中のYabikuにインタビューを行った。

会場でのYabiku Henrique Yudi。作品は《Running from myself》(2021) Photo: Xin Tahara

東京とサンパウロ、2つの都市で

Yabiku Henrique Yudi (ヤビク・エンリケ・ユウジ)は1997年ブラジルのサンパウロ生まれ。11歳で家族とともに群馬県に移住し、18歳で単身上京後、文化服装学院にて服飾を学んだ。自身に影響を与えたのは、サンパウロと東京というふたつの大都市だ。

「サンパウロは、暮らす人たちの人種もバラバラで建物も新旧ぐちゃぐちゃだけど、なぜかまとまりがあって美しいんです。11歳にはサンパウロを離れてしまいましたが、混然とした景色の美しさは今でも覚えています。逆に、18歳まで暮らした群馬県は、周りに見えるのは畑だけという地味な生活。その頃にしていたことといえば、普通に学校に通って、家ではポルトガル語を忘れないためにブラジルのスタンダップコメディをYouTubeで見ることくらい。でも、その空白期間があったから東京での刺激を一気に吸収できたのかなと思います。東京は街や人の持つパワーがものすごく強く、最初は焦りも感じるほどでした」。

服飾を学ぶために上京したYabikuだが、「なにか違う」と感じ退学、アルバイトなどをしながら自分の方向性を考える日々を過ごす。そんななか、家の中にあった古本を手に取り偶然始めたのがコラージュだった。

「部屋の中に、以前買った1960年代の洋雑誌があったのですが、当時の誌面のごちゃっとしたグラフィックがいいなと思って。本当に何気なくその雑誌を切り貼りしたのがコラージュを始めたきっかけです」。

会場風景 Photo: HYDRO

そうして2017年から制作するコラージュはしだいにInstagram上で人気を呼び、2019年にはW+K+ Galleryで初の個展「FIRST IMPRESSION」開催。さらに同年、雑誌『Them magazine』でValentinoとコラボレーションしたアートワークを発表するなどYabikuは活躍の場を広げていった。

「僕が今まで人生でやってきたことと同じで、コラージュも全部思いつきで偶然に任せる。ゴールは決めず始めて、貼る、貼る、貼る、ここで終わり、という即興的な感覚。目の前にあるものが集合したときに生まれる美しさが好きで、それはアナログでもデジタルでも変わりません」。

会場風景 Photo: HYDRO

「偶然性」がキーワード

現在、DIESEL ART GALLERYで開催中の個展「MOTION」はYabikuにとって過去最大規模の個展であり、立体作品を含む30点以上の新作が一堂に会している。ひとえにコラージュと言っても、従来の紙のコラージュに加え、デジタルプリント、アルミニウムにシルクスクリーンを施した作品、スケートボードが支持体の作品など、見せ方は多種多様。なかでも目を引くのは、会場でもっとも大きなインスタレーション作品《Hanging Scroll》。InstagramでYabikuの作品を見てきた人々は、そのスケールに驚くかもしれない。

「今回の展覧会では、これまで僕が取り組んできたストリートアートに和の要素を融合することを目指しています。《Hanging Scroll》はパッと見ると和風家屋の縁側のように見えますが、近づいて見て見ると工事現場にあるような鉄材、インドネシア製のトタンなど、ディテールはバラバラにある。平面のコラージュを拡張してインスタレーションとして構成しました」。

本作は、YabikuがプロダクトデザイナーのTOTOKI SAKURAとともに結成したクリエイティブチーム「FELSEM(フェルセム)」名義の作品でもある。造形はTOTOKI、構成と着色はYabikuが担当したというが、両氏はFELSEMでのコラボレーションについて「混沌としたコラージュと、ミニマルなプロダクトデザイン、お互いのスタイルが真逆だからこそ新しいものができるのではないかと思った」として、今後もともにプロダクトや空間デザインを手がけていくという展望を語った。

《Hanging Scroll》の前でのFELSEM。左からYabiku Henrique Yudi、TOTOKI SAKURA Photo: Xin Tahara
会場風景より、FELSEMの「VASE」シリーズ。フラワーベースとして実際に使用できる。 Photo: HYDRO

展覧会のメインビジュアルに使用される「(UN)EXPECTED BEAUTY IN DEVASTATION」シリーズは、大破した車のフロントガラスが大部分を占めるグラフィック作品。本作には、Yabikuの友人が偶然撮影した写真がベースになっており、「偶然起こってしまったフロントガラスの破損だけど、それを見て直感的にイケてると思って作品素材に選びました」と話す。この「偶然」は、Yabkuが頻繁に使うキーワードでもある。

「作品も人生も、偶然の中にすべての可能性がある気がしています。たとえば僕はコロナ禍のような予期し得ないことが起こったとき、落ち着いて偶然に身を任せれば前向きな結論が見つかると思うタイプ。“偶然”はコロナ禍で生きる上で重要な考え方のひとつかなと思います」。

2017年にコラージュを開始し、約4年間の「偶然」で大規模な個展の機会を手元にたぐり寄せたYabiku。最後に、10年後はどのような作品をつくっていたいか、その未来予想図を聞いた。

「いろいろなものがミックスされた巨大なコラージュ作品をつくりたいです。その作品が、自分がサンパウロや東京で見た圧倒的な光景のようなものであれば最高だと思います」。

会場風景より、「(UN)EXPECTED BEAUTY IN DEVASTATION」シリーズ Photo: HYDRO

■展覧会詳細
Yabiku Henrique Yudi「MOTION」
会期:2021年2月13日〜5月13日
会場:DIESEL ART GALLERY

住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F


開館時間:11:30〜20:00(変更になる場合があります)
会場では作品とグッズが販売中。また「MOTION」展をオンライン上で体験できるバーチャルツアーが公開中。詳しくはウェブサイトをチェック。
https://www.diesel.co.jp/art/yabiku_henrique_yudi/

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

Editor in Chief