公開日:2026年10月30日

メトロポリタン美術館で開催された献茶式。ナカヤマン。《蓮葉の 繁る池水 所無み 旅空なる 人が宿さず (NØT) FLASH》レビュー(評:中村公彦)

ニューヨークのメトロポリタン美術館で、日本の陶芸に焦点を当てる「The Infinite Artistry of Japanese Ceramics」展が、2027年8月8日まで開催中。同展の関連プログラムとして行われた、現代アーティストのナカヤマン。によるパフォーマンスのレビューをお届け

ナカヤマン。「蓮葉の 繁る池水 所無み 旅空なる 人が宿さず (NØT) FLASH」(2026)パフォーマンスの様子

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メトロポリタン美術館に現れた献茶式

2026年6月7日、ニューヨークのメトロポリタン美術館の地下講堂にて、小さな献茶の儀が執り行われた。

講堂の床に敷かれた置き畳まで、すり足で登場した墨色の着物姿の男は、正座すると、帯に挟んだ紫色の帛紗(ふくさ)を抜き取り、それで茶器をひとつずつ丁寧に拭くことで、清めていく。男は茶釜のお湯を汲み、黒茶碗を清めると、不浄な水は、静かに建水に捨てられる。会場に並べられた椅子に着座する観覧者は、少し見下ろすような姿勢で、一連の点前を見守り、さらに男の頭上に設置された定点カメラの映像が会場前方のスクリーンに映し出されることで、事細かな動作が遠くからも確認できる。

ナカヤマン。「蓮葉の 繁る池水 所無み 旅空なる 人が宿さず (NØT) FLASH」(2026)パフォーマンスの様子

ついに男は、茶杓で黒茶碗に抹茶を落とすと、お湯を注ぎ、茶筅で茶を点てる。仏前や霊前に供える茶は、茶筅で攪拌はしない、お茶湯がより一般的ではあるが、それでもここまでは、献茶式の体裁を保っていた。問題は結末である。緊張感のある点前の末に点てられた、特別なお茶の献じられた先にあったのは、ガンプラ(『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデル)である。そしてその隣には、なぜか真っ赤な薔薇の花びらが一片。さらに、畳際には、「GG」のロゴと「FAKE/NOT」の文字が入ったGUCCIのスニーカーが置かれている。開場時から、すでに講堂の前方に設置されていた簡易的な茶室空間において、これらのオブジェクトは、際立った存在感を放っていた。点前座のすぐ横に配置された杉蛤板の上に配置されたガンプラは、この献茶の儀の正客のようだ。ひょっとしたら、ガンプラにも八百万神(やおよろずのかみ)が宿り、神は茶の席では悪目立ちしそうなGUCCIのスニーカーでやってきたということだろうか?

ナカヤマン。「蓮葉の 繁る池水 所無み 旅空なる 人が宿さず (NØT) FLASH」(2026)パフォーマンスの様子

じつは、ここまで記述してきたのは、《蓮葉の 繁る池水 所無み 旅空なる 人が宿さず (NØT) FLASH》(2026、以下《蓮葉の〜》)と題された、献茶式の形式をとったパフォーマンス作品であり、一連の儀式的な身ぶりを披露していた男は、現代アーティストのナカヤマン。(1974年京都市生まれ、海外ではYAMAN NKYMN名義で活動)だ。同作は、メトロポリタン美術館の日本ギャラリーで開催されている展覧会「日本の陶芸の無限の芸術性(The Infinite Artistry of Japanese Ceramics)」(1月19日〜2027年8月8日、5回の展示替えあり)に合わせて同美術館で開かれたトークイベントの締めくくりに披露された(*1)。

「The Infinite Artistry of Japanese Ceramics」(メトロポリタン美術館)会場風景 画像提供:メトロポリタン美術館

本稿では、ナカヤマン。の近年の芸術実践を概観したうえで、トークイベントで交わされた議論と、日本ギャラリーでの展示を参考に、《蓮葉の〜》の分析を試みる。加えて、本作を米国における日本の茶飲文化の受容史に文脈付け、とりわけ120年前にニューヨークのフォックス・ダフィールド社から記念碑的な英文著作『茶の本』を上梓した岡倉覚三(のち天心、1863〜1913)と比較検討することで、米国での日本文化発信活動が今日まで抱える、いまだ決着がついていない課題をいくつか提示したい。

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