公開日:2008年12月10日

ダブル・クロノス展

非日常へといざなわれる体験

大西麻貴、百田有希「都市の中のケモノ、屋根、山脈」
大西麻貴、百田有希「都市の中のケモノ、屋根、山脈」
多摩美術大学の長谷川祐子ゼミが2006年より実施してきた、都市の中で展覧会をつくるというキュレーションの試み。3回目の今年は、白金台にある瑞聖寺を会場としての展示が行われている。参加アーティストは5組6人。学生たちで候補を出し合ってプレゼンテーションを行い、全員一致で選出したという。

寺院の空間は、一歩踏み入れると外の世界としばし遮断され、時間の流れが止まるか、あるいはゆっくりと感じられる場所でもあると思う。といっても、実際に作品が設置されているのは寺院の建物の中ではなく、寺院に続く小道と、車通りの多い目黒通り沿いの展示スペースであり、いわば、俗界と聖域をつなぐ入り口としての意味合いをもった展示となっている。

寺院前の展示スペースでは、高木正勝の「NIHITI」が大画面で上映されている。細胞の感覚に従って制作されたというこの作品を観ていると、宇宙の大きな時間のうねりの中で、人間の生と死も含めた時間が超高速で流れ去り、吸い込まれていくという感覚に襲われる。そして、スクリーン前に広がる水木塁の水がもう一つのスクリーンとなり、ひやりとした水面に高木の映像を映し出す。時折波打ち、うごめく水面は、水という物質自体の生命感を際立たせ、高木の映像と呼応して宇宙の波動を感じさせる。思わず自分の生きている時間軸を一瞬見失い、まるで四次元空間を疑似体験したかのような感覚とでもいおうか。

目黒通り沿いのガラス張りのギャラリーでは、東恩納裕一の明るい蛍光灯のシャンデリアの煌煌とした光が、床一面に広がる大巻伸嗣の極彩色の花に生命感を与えている。それぞれ単体で観た時の強さを維持しながらもまた異なる一面が新しく、印象的。

そしてその隣には、大西麻貴と百田有希による「都市の中のケモノ、屋根、山脈」と題された”建築”が佇む。整然と配置された木の葉で覆われた外壁からは、夕暮れの露でしっとりと濡れた葉の匂いが漂い、中から漏れ出る光と中にいる人の声が暖かく、まるで前からずっとそこに存在したかのように、息づいている。

すべての展示に共通して感じられたのは「生命感」と「時空を超越した感覚」だった(これはあくまで個人的な感想であって、特にこのテーマに沿って選ばれたわけではないわけだが)。俗界と聖域の境目という空間にあってからか、組み合わせによってそれぞれの作品が本来内包している要素が際立たされて感じられたのか、ある特定の場所における展示キュレーションの試みとして、おもしろい試みだったと思う。

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。