公開日:2012年11月1日

Ayami Nishimura インタビュー『AYAMI NISHIMURA by RANKIN MAKE UP』

疾走感あるCYBERな都市の姿をメイクアップで描く

©Rankin

レディ・ガガ、カイリ・ミノーグ、マドンナ、エリザベス女王──。世界的なポップ・アイコンからセレブリティまで数々の著名人とともに名を連ねるふたりのアーティストによるコラボレーション展が、DIESEL ART GALLERY で開催されている。

映画『エイリアン』やレントゲン写真からインスピレーションを得たメイクアップ。このカバー作品が最も大変な撮影だったという
映画『エイリアン』やレントゲン写真からインスピレーションを得たメイクアップ。このカバー作品が最も大変な撮影だったという
『AYAMI NISHIMURA by RANKIN MAKE UP』
それは、ロンドンを拠点に活動する日本人メイクアップアーティスト Ayami Nishimura とイギリスを代表するフォトグラファー Rankin だ。Rankin は、1992年、ジェファーソン・ハックと共に Dazed & Confused magazine を設立したことで知られる。先日8月20日に出版された『AYAMI NISHIMURA by RANKIN MAKE UP』は、ファインアートをバックグラウンドにもつメイクアップアーティスト、アレックス・ボックスとの『Alex Box by Rankin』(2009年)に続いて、彼がメイクアップを撮りおろしたビューティシリーズの第二弾となる。

今回は、本展のためにロンドンから来日した Ayami Nishimura に、彼と出会ったきっかけであり、メイクアップアーティストとしてのキャリアを躍進させることになった Dazed & Confused magazine にまつわる話から、写真集の撮影エピソードをはじめ、いまの彼女の関心を聞く。

「彼はいま、このビューティシリーズの3冊目に取りかかってるはずですよ。」
写真集を眺めながら、彼女は楽しそうに Rankin とのエキサイティングな撮影エピソードを話し始めた。


──『AYAMI NISHIMURA by RANKIN MAKE UP』はAyamiさんにとって一冊目の写真集となりますが、撮影枚数は全部で100点以上にもわたると聞きました。お二人はどれくらいの期間をかけてこのプロジェクトに取り組んだのでしょうか?
Ayami: 2年ぐらいかけていますね。でも実際に Rankin と一緒にスタジオで撮影した期間は15日間ぐらい。以前に雑誌用に撮ったもので、誌面に載らなかったものも収録しています。一日にまとめて3、4本を撮影した日もありましたね。彼は雑誌や広告の撮影をすごくたくさん抱えてるんですが、その合間にこういったプロジェクトをいろんな人とやってるんです。Rankin は忙しいのが好きなワーカホリックで(笑)。

──撮影スタジオはどのような雰囲気なのでしょうか?
Ayami: 普通ですよ(笑)。楽しい感じで。とりあえず、何時から撮影を始めるのか彼に聞いて、私はその何時間前からメイクアップの準備を始めればいいか計算して、その時間に撮影スタジオへ向かって。私も彼も手早いですよ。
今回のプロジェクトは、時間があまり取れないことが課題だったから、家でアシスタントと一緒に撮影で使うプロダクトを選んで、事前にやることを全部決めていって。それでもその場で変わるんですけども、やっぱりこれはいまいち……とかひとつずつスタジオで試してたら時間の無駄だから。こういう風にするっていうのを彼にメールで伝えて、レファレンスもあったら前日に送ったりして。

──もともとは東京で美容師として仕事をされていたそうですが、どのようなきっかけでロンドンへ渡り、その後なぜメイクアップの分野に転向されたのでしょうか?
Ayami: もともとは、まだ地元の兵庫にいた頃、バイトで美容院のチラシを配ってたことがきっかけで、それから興味をもって美容の分野に入りました。上京し、美容師の仕事を始めて、それからヴィダルサスーンのアカデミーで学びたいって思って、ロンドンへ渡ったんです。最初は半年ぐらいと思ってたんですけども、もう20年ほど経ちました。半年はあっという間で 、英語は思ったより話せなかったし、もう少しいようと思ったらどんどんと帰国が延びていって。イギリスがあっているみたいで。

日本では出会う機会がなかったんだけど、ロンドンって、学生やアマチュアで写真をやってる人が多くて、ヘアドレッサーをやってると話すと「今度撮影やるから手伝って」って言われて。それでモデルのヘアをしに行ったら、メイクをやる人が誰もいないんですよ。それで、やってみようかな、って——メイクアップの分野へ転向したのは、それが始まりでした。雑誌をめくりながら、見よう見まねで始めたんです。13、4年前になりますが、その頃はサロンに勤めていて、まだヘアとメイクアップの両方をやってたのですが、メイクがいいなって思い始めてた頃に、そのサロンが移転することになって辞めることにしました。いまは全然ヘアはやっていないのですが。

それから暇にしてたから、自宅で髪の毛を切ってあげたりして、生活費をしのいだりしてて。でも不安になることはなくて、なんとかなるだろうと思ってた。友人のネットワークもちょっとずつ広がっていってた頃で、Dazed(& Confused magazine) でファッションエディターをやってたニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)やフォトグラファーのマリアーノ・ヴィヴァンコ(Mariano Vivanco)と知り合って、Dazedの仕事を始めたことをきっかけに、そのネットワークは大きく広がっていきました。

ニコラは日本人とイタリア人のハーフで、最近ではユニクロやレディ・ガガのスタイリングやイメージ・ディレクションをやってる子です。マリアーノはいまも一緒に仕事をしてるんですけど、彼と Dazed で4ページぐらいのビューティーをやったんです。誌面のレイアウトを決めるのに、Dazed のオフィスにだーっていくつも並べてあったのを Rankin がたまたま見て、「これ誰がやったの?」って。それで「じゃあ今度一緒にビューティをやろう」ってなったんですよ。それから彼と一緒にやるようになりました。2005年頃ですかね。

©Rankin
──Rankin は、2011年には新たなマガジンとして HUNGER を立ち上げ、Dazed 創刊から10年経ったいまも、つねに芸術、ファッション、エディトリアルに関する新たな才能を追いかけ続けていますが、彼はどのようなフォトグラファーなのでしょうか?
Ayami: 彼はおもしろい、奇抜なアイデアが好きなんです。私もアレックス・ボックスもそうだけど、そういうのが好きなアーティストと出会うと、一緒にやってみたくなるみたいです。彼はすごくオープンな性格だから「こういうのをやってほしい」と言ってくるときもあるけど、写真集は雑誌に比べてあまり制限がないから私は好きなことを思いっきりやっていいって言ってくれて。アイデアをバンバンだして、思い切りやりたいアーティストが彼は好きみたいですね。

──『Ayami Nishimura by Rankin』には、花や植物がよくモチーフとして出てきますが、どのようなところに惹かれるのでしょうか?
Ayami: 自然の色は思いつかなかった組み合わせがあるからおもしろいんです。昆虫や貝だったり、自然って色がきれい。なかでもバラは一番好きな花で、何回もモチーフに取り入れています。
普段からいろいろ参考にみていますが、本が好きで、最近はそうでもないんですがいろんな写真集を集めていていますね。 昔の写真だったり、日本の歌舞伎メイクはきらびやかですごくきれいって思うんですよ。そういうのも好きだし、着物や食器の図柄も参考になります。

©Rankin

あとは、日本のギャルのストリートファッションが好きで。ガングロが流行りだした頃には私はもうロンドンにいるんですけど、写真を集めててよく見てるんですよね。自分の顔にやろうとは思わなかったけど(笑)。真っ黒な顔に白を載せるのって、すごく奇抜で、素顔が全然わからなくなってる。髪の毛まですごくカラフルな子がいて、そんな奇抜なアイデアにインスパイアされることもありますよ。

©Rankin

Ayami: この作品(画像上)では陰影を色を使って表すことで、ペインティングのようにしてみたかったんです。 シェイディングに緑、ハイライトに黄色をいれて、ブレンドしながら仕上げていって。タイトルをつけるのが好きで、この作品はグリーンだから「wasabi」(笑)。

絶対かわいくなってくんです。色でこういう風に奇抜なことをやってるけど、シェイディングやハイライトとして色を置いていくわけで、テクニックとしてはトラディッショナルなんですよ。奇抜な色を使ってるけど、ルールに沿ったステップアップを踏んでいます。奇抜な色だけど、モデルの顔がきれいになってく。そうじゃないと意味がないから。ブサイクになっていったら困るわけですよ(笑)。

©Rankin

──どの作品もメイクアップだけではなく画面全体が、さまざまな色彩で満たされていていますね。
Ayami: 全体を塗りつぶすというか、埋めていくのが好きです。ヘアや背景を全部いれて、一枚で何かを言っているというか。メイクとヘアだけじゃなくて、ひとつのイメージとして取り組んでいます。

私自身は明るくてきれいな色が好きです。色がもつ、イメージとかフィーリングってありますよね。ピンクとかターコイズ、エメラルドグリーンが特に好きでよく使うんですけど、 明るくて楽しくて、人の目をひく色ですよね。きらきらしたものやグリッターも好きです。ライトをキャッチするから映えるし、ちがう質感を出すことができるからおもしろいですよね。
他にも、ステーショナリーのシールが好きでよく集めていて、よくメイクアップに取り入れています。色もきれいだし、大きさもいろいろあるから使えるんですよ。アフリカのマスクにインスピレーションを受けて、ボディペインティングをシールでやった作品も収録しています。

©Rankin

──顔だけではなくボディもメイクアップのまとになるんですね。
Ayami: たくさんの唇のモチーフをボディペイントした作品(*記事末のYoutubeムービー 0:30を参照) があるんですが、これは一年半前ぐらい前に、パリでYSL(イヴ・サン・ローラン)の大きなエキシビションでアイデアがひらめいたものです。昔っからのドレスなどがすごくたくさん集められた、大きなアーカイブのエキシビションだったんですが、友だちとふたりで見に行って、やっぱりすごいな——と衝撃を受けました。そのとき、唇の柄の一枚のワンピースがあったんです。いろんな色を使ったワンピースだったんだけど、ふたりとも気に入ってしまって。「このワンピースの柄を実際に、メイクでやったらかわいいんじゃないかな〜〜〜!」ってテンションがあがって、インスピレーションがわき出してきて。実際にやるとすると、時間がかかるだろうと思ったから、アシスタントたちと前もって唇のパーツをひとつずつ作っておいてスタジオで撮影したから時間はかかりませんでした。80年代風にしたかったんです。当時のウィスキーの広告のようなライトにしてほしいって Rankin に伝えたら「じゃあ、こういうのは?」って彼が提案してくれて、これいいね、って。

photo: Ken Kato
──今回のDISEL ART GALLERYでの展覧会のテーマ「サイバー」について聞かせてください。
Ayami: ファッションとして、さまざまな色やテクスチャーを取り入れて「サイバーファッション」みたいなことをメイクアップでやりたいと思ったことが始まりなんですが、作品をみると、それだけに限らず、ゴシックやクラブファッションみたいなものを連想すると思います。それら全体を通して、サイバーがひとつのキーワードになっています。まったく関係のないアフリカンな作品も入ってますけど、それもアフリカンサイバーみたいな感じで。

もともとサイバーファッションが好きなんですよ。自分が着るのは好きじゃないんだけど、ラバーやPVCみたいなフェティッシュな素材はセクシーでいいなって。そういう感じのことを黒だけじゃなくて、さまざまな色味やテクスチャーを使ってやってみたかったんですよ。東京は大都会だから「24時間、都市が動いてる!」みたいな。こういうスタイルが合うんじゃないですかね。

──メイクアップとして一番大変だったのはどの作品でしょうか?
Ayami: 写真集のカバーになってるものです。エイリアンや背骨のレントゲン写真を見てて、映画『エイリアン』のデザインをやってるH・R・ギーガーのイラストレーションをなんとかしてメイクアップで表現したかったんですよ。なかなかできなくて、15回くらいなんどもアシスタントと練習しました。

──今回、展示会場では写真だけではなくムービーも紹介していますね。
Ayami: 最近、Rankin のオフィスで見せてもらったばかりなんですけど、私はレイアウトのチェックで写真でばかり目にしていて、被写体のモデルが動くことを忘れていたから新鮮でした。実際は写真撮影のほうが好きなんですけど、ムービーに仕上がったものをみるのはすごく楽しいですね。

Rankin はフィルムのチームも作っていて、スチルが終わった後に記録として動画を撮影しているんですよ。私の撮影もひとつひとつ撮っていて機会があったらメイキングもお見せしたいですね。

──今後もロンドンを拠点に活動を続けていくのでしょうか? これからの目標について聞かせてください。
Ayami: ロンドンももう長いですからね。ニューヨークに拠点を変えようかな、と考えてるんですよ。長くても2週間ぐらいしか滞在したことがないから、住んでみるのはどうかなって。20年間、ずっとロンドンにいるから、来年あたりから拠点を変えようかと考えています。

──ロンドンとニューヨークでは環境やファッションやビューティのシーンは異なるのでしょうか?
Ayami: 環境は変わると思いますよ。ロンドンは活動を始めるのにはいい環境なんですよ。いいデザイナーやフォトグラファー、スタイリストがいるし、新しいアイデアが試せるいい雑誌があるから。ビューティもそういう機会が多いのがロンドンだと思うんです。ただ、なかなかお金に結びつかないこともあります。ロンドンファッションウィークを見ていると、若いデザイナーにスポンサーがつかないことも見受けられて、あまりお金が業界に動いていないように思います。その点、ニューヨークではこういった話を聞かない。ニューヨークへ移っても撮影のメイクアップを続けていきますが、拠点を変えることでコマーシャルの仕事が中心になってしまうのかもしれなくて、やっぱりおもしろいことをいろいろやりたいと思うけど、それが仕事として報酬につながらないと意味がないと思うんですよ。アメリカにも Harper’s BazaarWV magazine だったり、ニューヨークを発信源におもしろいことをやってる雑誌も人もいっぱいいるんですよ。

これからは、パリコレだったり、大きなショウの仕事をやってみたいです。大きなブランドのキャンペーンだったり、そういう人たちに出会ってみたいですね。日本でもいいお話があったらやりたいです。

──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
Ayami: メイクをやってる人やこれからやりたい人だけじゃなくて、とりあえず見ていただければ魔法にかかったみたいな感じで元気になりますから。この機会に見てくださいね。

Rie Yoshioka

Rie Yoshioka

富山生まれ。IAMAS(情報科学芸術大学院大学)修士課程メディア表現研究科修了。アートプロデューサーのアシスタントを経て、フリーランサー。エディター、ライターとして活動するほか、展覧会企画、アートプロジェクトのウェブ・ディレクションを務める。yoshiokarie+tab[at]gmail.com