公開日:2015年10月10日

アフター90年代のアートプレイヤー特集 Vol. 1 飯岡陸 / キュレーター

1990年代生まれで共有する感覚はあるのか?気鋭の若手3名に聞いた!

2015年は10年代を前後にわける節目の年。政治の上では大きな嵐が吹き荒れ、世間では炎上問題がたびたび取りあげられた。1990年代生まれ(アフター90年代)は、現在15~25歳。国会前で街頭行動を牽引する学生達がいる一方、若い作家達について個人性やゲーム性が強まってきているとする指摘もある。かくいう筆者も91年生まれ。冷戦体制とバブル崩壊後の世界に生まれ、ネットの進化とともに育った我々とは一体”何者”か?同世代のキュレーター、ディレクター、アーティストからそれぞれアフター90年代の作家について印象を伺った。

――今年6月16日より東雲にあるG/P galleryでの『THE EXPOSED#9 passing pictures』にて90年生まれ前後のアーティストを集めて飯岡さんはキュレーションしましたが、このメンバーになった理由を教えていただけますか?

飯岡: まずTHE EXPOSEDという展覧会は「拡張する写真」をテーマに若手作家を紹介する目的で開かれているものです。今回の展示はシリーズの9回目にあたる展示で、ゲストキュレーターとして企画をさせていただくことになりました。シリーズであることから前提となっていたことがまず2点、画像や写真に関連する展覧会であることと、若手作家を紹介することです。そういった前提に私自身の興味を加味し、90年前後生まれの4組の作家をお誘いすることとなりました。Passing Picturesという言葉は造語です。展覧会ではキュレーションのテーマを「物質化されたイメージと身体」としています。イメージというものに対して身体をぶつけていこうとしているけれど、イメージは物体ではないのですり抜けていってしまう、あるいはそれでもぶつけようとする。Passing Picturesを直訳すると通過する写真映像という意味ですが、「身体のすぐそばを」通過する写真映像という意味で名付けました。ここでは身体が起点になっていることが重要でした。

『THE EXPOSED#9 passing pictures』 会場風景 撮影/三野新
『THE EXPOSED#9 passing pictures』 会場風景 撮影/三野新

――展覧会を拝見し、デジタルイメージという要素を見受けました。まず、本企画ではアフター90年代について考える大きな視野として「インターネットと共に成長してきた最初の世代」だということを仮定させて下さい。ウェブ上に初めてのHPが登場したのが91年で、1つの細胞が爆発的に増殖していくように現在ではHPの数は10億件を突破し、インターネットはまさに生活に浸透しきっていると言えます。この視野からアフター90年代を語ることはできますか?

飯岡: どうなのでしょう。例えば1995年は日本におけるインターネット元年と言われますが、私は1992年生まれなので、物心ついた頃からコンピュータやインターネットに触れてきました。本やお聞きした話で補完するしかないのですが、コンピュータやインターネットが誕生し、普及していく様を体験していた世代にとって、それらは物珍しく、世界を変えるようなものとしてあったのではないかと思います。私にとってむしろそれらは身体化されています。つまり、それらに特に物珍しさを感じることはなく、だからこそとりたて強調するものではなく、日々の生活や同時代の社会状況のあくまで一つでしかないように思います。
私の実感と社会的背景と連動させて考えるとすれば、現代においてインターネット元年から20年ほど経ち、インターネットにユートピアを見る、といった視点は勢いを失っているように感じます。それと同時にインターネットの普及を背景にした、例えば「シミュラークル」や「表象との戯れ」などの言葉で言い当てられてきた作品の実効性が薄れているように思うのです。そうした中で、映像理論などで注目があつまっているように、モニターの手前側の画面と身体の直接的な関係を巡る問題であったり、物質と身体を巡る問題ということに実感を持っています。アフタートークでも身体論をベースに研究をされています伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツセンター准教授, 美学)をゲストに迎えさせていただきました。

山内祥太《Steve Oles がこちらをみている! 》
山内祥太《Steve Oles がこちらをみている! 》
製図ソフトウェアである「スケッチアップ」の画面内に作者が入り込み、画面内世界と身体的に関わる。

――90年代生まれ以降のアーティストがまだそこまで多い状況でないとのことですが、同世代の作家に対してはどのようなイメージを持っているのでしょうか?
PUGMENT《My clothes》
PUGMENT《My clothes》
My clothesは次の過程から作られる。(1)最新のパリコレクションショー映像から服の画像を抽出し、紙に印刷する。(2)印刷された画像を元に紙の服を作る。(3)紙の服を着て、鏡の前でセルフポートレートを作る。(4)セルフポートレートから服の画像を抽出し、布に印刷する。(5)印刷された画像を元に布の服を作り、紙が破れている箇所にあたる部分を縫い綴じる。

飯岡: イメージというよりは実際の状態の描写になってしまうのですが、2008年にリーマンショックが起こり、2011年に東日本大震災が起こりました。私は大学に入ったのが2011年の春で、日本のアートシーンが揺さぶられ、弱っていくような時代感とともに美術を学びました。日本の現代美術において重要であったであろう出来事を全て見逃してしまったような気分になりながら(笑)。芸術が社会にとって本当に役に立つのかといった議論や、社会に対してどう芸術がアプローチしていくのかという問題が突如として現れ、良くも悪くも、大きく価値が転回する中で戸惑う美術関係者の方たちから美術を学んだ世代、とも言えるかもしれません。同世代の作家というのは距離が近すぎるためにむしろ特徴をとらえずらく、答えにくいというのが実感です。それは靄や霧のように浮かび上がってくるものであると前提にするならば、むしろ、上の世代の方たちと仕事をすることに意義を感じます。それを踏まえた上で同世代の人と仕事をすることで、初めて同世代のイメージが掴めるのではないでしょうか。今後は同世代の方とも仕事をしつつ、上の世代やこれから出てくるであろう下の世代の方と仕事をさせていただく中で、単に90年代生まれという括りではなく、美術史を超えた広い範囲で時代や社会というものを捉えたいと考えています。
質問に対して別の角度から答えるならば、美術だけでなく、文化全体を範囲に、SNSでバズったり炎上するような事象が常に身近にあります。例えば最近では「ポストインターネット」という言葉をよく耳にしましたが、そういうキーワード、わかりやすい同時代性のようなものはバズらせやすいはずです。でもそれは本当に良いアプローチなのか、といったこととは常に疑問に思っています。そのためにわかりやすい「同世代感」を強く打ち出していくことに抵抗感を覚えている、ということはあると思います。そうではなく、注意深く地道に作家たちのことを見つめ、急ぎ足にならない形で丁寧に時代性みたいなものを取り出したいと考えています。

渡邉庸平《The view from slits is very good》 撮影/三野新
渡邉庸平《The view from slits is very good》 撮影/三野新

三野新《ppa methods》《ppa diagram》
三野新《ppa methods》《ppa diagram》

――「リーマンショック」や「震災」などの変化から立ちなおることは考えますか?

飯岡: 立ち直るというニュアンスはあまりないですね。まだまだ理論的に弱かったり、突っ込みどころもたくさんあると思うのですが、そういった部分を詰めていきながらきちんと今の時代と向き合って活動していくしかない、と思っています。

――それでは、実際にアフター90年代のアーティストの紹介に移らせて下さい。飯岡さんが現在注目しているアフター90年代アーティストはいますか?

飯岡: 事前に用意をお願いされていて、どうしようかと思ったのですが、今までお答えしてきたように、同世代にこだわって活動をしてきたわけではないので、これまで私の関わってきた作家を紹介したいと思います。今回の展覧会に出品してくれた4人(山内祥太(b. 1992)、PUGMENT(b. 1990)、渡邊庸平(b. 1990)、三野新(b. 1987))はもちろん、前回の『回路を抜け出して』という印刷物の企画で仕事をさせていただいた佐藤雅晴(b. 1973)や鈴木光(b.1984)、久保ガエタン(b. 1988)。現在愛知県美術館で展示を行っている飯山由貴(b. 1988)にも注目しています。<※敬称略>

佐藤雅晴《ダテマキ》
佐藤雅晴《ダテマキ》
鈴木光《Mr.S & Doraemon》ヴィデオスチル
鈴木光《Mr.S & Doraemon》ヴィデオスチル
久保ガエタン《briareo》©Kodama Gallery
久保ガエタン《briareo》©Kodama Gallery
飯山由貴《Temporary home, Final home》インスタレーションビュー 愛知県美術館 撮影/松尾宇人
飯山由貴《Temporary home, Final home》インスタレーションビュー 愛知県美術館 撮影/松尾宇人
飯山由貴《何が話されているのか、また何故その発話の形式と内容は、そうした形をとるのか》ヴィデオスチル
飯山由貴《何が話されているのか、また何故その発話の形式と内容は、そうした形をとるのか》ヴィデオスチル


― ありがとうございました。(了)

飯岡陸 / Riku Iioka
1992年生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。現在横浜国立大学 都市イノベーション学府 Y-GSC博士課程前期在学中。 これまでの主な企画に『THE EXPOSED#9 passing pictures』(g/p gallery/東雲, 2015)『Slipping Out of the Circuit 回路を抜け出して』(印刷物, 2015)

<記事内で紹介した作家>

・山内祥太 / Shota Yamauchi
・PUGMENT (www.pugment.com)
・渡邊庸平 / Yohei Watanabe
・三野新 / Arata Mino(www.aratamino.com)
・佐藤雅晴 / Masaharu Sato(www.masaharu-sato.tumblr)
・鈴木光 / Hikaru Suzuki
・久保ガエタン / Gaetan Kubo
・飯山由貴 / Yuki Iiyama(yukiiiyama.flavors.me)

[TABインターン] 荻野智視: 1991年生まれ。日本大学生物資源科学部卒業。TABインターン終了後、月刊誌を発行する出版社へ勤務予定。趣味は絵画と詩の制作。昨年衝動買いした『失われた時を求めて』を読破するのが人生の目標。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。