公開日:2020年6月22日

コロナ禍でも生身の芸術体験を:ヨコハマトリエンナーレは7月17日に開幕

5つのソース(キーワード)に注目。会期は7月17日〜10月11日、全作家数は50〜60組以上、作品は67点以上(予定)

6月22日、「ヨコハマトリエンナーレ2020」のオンライン記者会見が行われた。トリエンナーレの会期は7月17日〜10月11日。

登壇者は、帆足亜紀(同トリエンナーレ組織委員会事務局 プロジェクト・ マネージャー)、逢坂恵理子(同トリエンナーレ組織委員会副委員長)、蔵屋美香(同トリエンナーレ組織委員会副委員長)、松元公良(開催本部長)、そしてビデオ出演のラクス・メディア・コレクティヴ(アーティスティック・ディレクター)。

オンライン記者会見の様子。左から帆足亜紀、逢坂恵理子、蔵屋美香、松元公良

 

コロナ禍で国際芸術展を行うチャレンジ

新型コロナウイルスの影響で、アーティスティック・ディレクターのラクス・メディア・コレクティヴをはじめ、参加作家である海外アーティストたちが来日できない今回のヨコハマトリエンナーレ。そうした中でも開催を決めた理由について、逢坂は2つの理由を挙げる。

まずは、実空間で芸術作品を体験する意義だ。「コロナ禍では様々な文化施設がオンラインでコンテンツ発信をし、その可能性を広げてきたが、生身の人間がその場に足を踏み入れ、作品を感じ、反応し、考えるという実体験が大切でそれが人間のバランスをとる。なので世界の国際芸術展に先駆けてトリエンナーレを開催することにしました」。

そして次に挙げるのが、アーティスト支援の目的だ。「アーティストの創作活動を中断させることなくヨコハマトリエンナーレを開催することがアーティスト支援にもつながると思ったからです。これまで行なっていたようなアーティストトークやギャラリートークなど多くの方が集まる事業は今までのようには開催することができませんが、3密対策を徹底しながらトリエンナーレ自体を開催することにしました。これは大きなチャレンジです」。

作品の設営はインストラクションやビデオ会議、写真のやりとりを通じて進行。海外からの作品輸送も現時点で予定通り行われているという。

 

5つのソース(キーワード)

蔵屋美香からは、ラクス・メディア・コレクティヴが掲げる5つのソース(キーワード)の説明や作品の見どころが紹介された。「ラクス・メディア・コレクティヴの3名はひとつの大きなテーマを掲げるのではなく、5つのソース(キーワード)をもとに、アーティストや観客が考えながらゆるやかに流れるような展覧会をつくっていこうと述べています」。5つのソースは以下の通り。

1:「独学」自らたくましく学ぶ
2:「発光」学んで得た光を遠くまで投げかける
3:「友情」光の中で友情を育む
4:「ケア」互いを慈しむ
5:「毒」否応なく存在する毒と共存する

この中で蔵屋が注目するのは、新型コロナウイルス以後の世界を予測したかのような「毒」のキーワード。「世界の各所、人と心の中に“毒”はありますが、それらを排除するのではなく、共存しようという考えです。彼らが考えた“毒”の発想元は、太陽に含まれる微量の放射線です。一部のサンゴは放射線から身を守るために、美しい色とかたちの殻を発達させるからです。“毒”の中でどのように自分を輝かせることができるかは、新型コロナウイルスとともにいる私たちにも同じことが言えると思います」。

そしてラクス・メディア・コレクティヴはビデオメッセージが寄せられた。「残念ながら私たちは今、移動することができません。 お互いに物理的に離れざるを得なくなってしまったこの時期に、コンセプトを深めるために選んだソースという5つのテキストにもう一度立ち戻り、ソースにある考え方がアーティストたちの作品づくりによって押し広げられ、発展していることを確認することができました」「この展覧会では、“内”と“外”を固定する境界線を崩していきます。そして、凝り固まった知覚の領域に変化をもたらすべく、広く、誰もが同じ立場で作品を鑑賞する体験へとみなさんをお誘いします」「この展覧会は異なる規模の動作が連なるように企画されています。それは、人類(種)、風景、エコロジー、地政学的揺らぎとしての人の歴史、親密さの描写、それから、時折、人間の居住と非人間(non-human)のそれとを混同してしまうような動きなのです」。

ビデオ出演したラクス・メディア・コレクティヴ

 

注目の展示作品

会見では4点の注目作品が発表された。今回、横浜美術館の大きな吹き抜けホールでは、きらきら光るガーデンスピナーの中にピストルなどのモチーフが紛れ込んでいるニック・ケイヴの《回転する森》(2016)が展示される。そして、見た目は美しいが強い毒性を持つ植物をテーマとしたインゲラ・イルマンの《ジャイアント・ホグウィード》(2016/2010)、人の姿、植物、装飾文様などが絡み合って描かれたレーヌカ・ラジーヴの《裏切られた無垢なる者》(2019)、シリコンやウレタン、ゴムなど柔らかい素材で構成されるエヴァ・ファブレガス《ポンピング》(2019)など。

《ポンピング》は健康器具が着想元となっているが、ラクス・メディア・コレクティヴは本作に人間の腸を連想したという。「最近の研究で、腸の中にたくさんの菌が住んでることが判明しました。自分ひとりのものだと思っていた腸はじつは何万人の別の生き物と生きていく場所で、内側だと思っていたのものが外に開かれているということです。このように、目の前から別のものを連想して世界を広げることが観客のみなさんに期待されているのだと思います」。

今回のトリエンナーレに参加する全作家数は50〜60組以上、作品は67点以上を予定している。

エヴァ・ファブレガス《Pumping》(2019) ヨコハマトリエンナーレ2020 参考画像

開催にあたっては、新型コロナウイルス感染防止対策も徹底される。チケットは、日時指定の事前予約制(1時間あたりの体験人数は会場ごとに140人を想定)。来場者はマスクの着用が義務付けられ、サーモグラフィによる検温も行われる。また出品作品のうち触れるものに関しては検証して対応中だという。

展覧会を紐解くソースブックは公式ウェブサイトで公開中のため、トリエンナーレを訪れる前後に読むことをおすすめしたい。

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