公開日:2020年12月7日

今年のPower100、原爆実験をテーマにした個展、モノリスは誰の手によるもの?など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、11月21日〜12月4日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「トップニュース」「コロナ禍でのアートのアップデート」「モノリス」「できごと」「おすすめの本、ビデオ」の5項目で紹介する。

Googleマップがとらえた「モノリス」。写真中央の影がそれにあたる

トップニュース

◎毎年恒例のPower100が今年も発表
イギリスのアートメディア「ArtReview」が、アート界での影響力をランキング化したPower100を発表。1位はBLM。黒人アーティスト、キュレーター、コレクターも多数ランクイン。秋以降のニューヨークのギャラリー、美術館の展覧会を見ていても違和感のないランキング。2位は次のドクメンタをキュレートするジャカルタの作家集団ruangrupa、4位は#MeTooこれまでと比べてがらっと上位が入れ替わった印象。
https://artreview.com/black-lives-matter-tops-2020-edition-of-artreviews-annual-power-100/

◎コロナを受けての悲観論は減少
国際博物館会議によって世界900ほどの博物館・美術館を対象にコロナの影響の調査第二段が公表された。5月の初回よりは悲観論が後退したようで、廃館の可能性を考えているところが13%から6.1%に減少。ただ調査期間が9/7〜10/18と欧米が再閉館に入る前の時期でまだまだ状況は流動的。
https://news.artnet.com/art-world/icom-report-museum-closure-1927069

コロナ禍でのアートのアップデート

◎年内一杯閉鎖へ
アメリカのメリーランド州でもコロナ患者が再増加しており、ボルチモアのウォルターズ美術館とボルチモア美術館の2つが年内一杯閉鎖に。すでに年内の再閉館の決定していたフィラデルフィア美術館に続く決定。
https://www.baltimoresun.com/coronavirus/bs-md-walters-art-museum-closing-2020-covid-20201124-gbp7coeqy5b77hxt3l2saoet5e-story.html

◎各地の再開状況
フランスでは11月28日からコマーシャルギャラリーは再開できるように。美術館は12月15日から再開。レストランなどはなんと1月20日まで閉鎖。ドイツは12月いっぱいは状況が変わらない様子。イギリスは12月3日より地域の状況によっては再開できるようになる。
https://news.artnet.com/art-world/lockdown-france-germany-uk-1926531

◎テートの大規模リストラ
イギリスに4つの美術館を擁するテートでもリストラ。全従業員の12%にあたる120人を削減予定。今のところ早期退職などの自主的な退職でこれを実現予定だが、来年に強制リストラに踏み切る可能性もあるという。今年800万人の入場者を予定していたが100万人に留まる見込みで、大きく入場料収入が落ち込むのが原因。
https://hyperallergic.com/605479/tate-will-cut-12-of-workforce-eliminating-120-full-time-jobs/

◎美術館を救うためのファンドレイズ
イギリスの美術館がコロナの影響で財政難に陥るなか、アニッシュ・カプーアをはじめとするアーティストが作品を提供してファンドレイズしている。目標は100万£(約1億4000万円)。特典は5£から、カプーアのプリント作品は4000£(約55万円)。サイトはこちら
https://hyperallergic.com/603570/as-uk-museums-struggle-major-artists-step-in-to-help/

◎空き店舗を活用
ニューヨークの空いた店頭を、テナントが入るまでポップアップアートスペースにするChashamaというプロジェクトはこれまで25年続いている。コロナで店舗の廃業、撤退が続き、さらに空きが増えているなか、動きを加速させ2021年1月までに1.5倍の60スペースに拡大予定とのこと。
https://www.amny.com/news/new-york-city-arts-organization-helps-arts-and-businesses-set-up-shop-in-vacant-storefronts/

◎「すべての(舞台)芸術団体は(デジタル)メディア企業にならなければならない」
コロナの影響でアメリカの劇場のほとんどは再開の目処が立っていないなか、「すべての(舞台)芸術団体は(デジタル)メディア企業にならなければならない」状況になったとして、様々なデジタル配信の試みを多角的に紹介する記事。デジタルで見たオーディエンスの43%がこれまで劇場でそのプロダクションを見たことがなかったという調査結果など示唆に富む情報を指摘。現状はとても厳しい状況であるのは間違いないが、今回の経験で、将来コロナが終わっても劇場とデジタルのコンテンツ的・オーディエンス的な融合が起こりそうで、全く新しいものが生まれてくる可能性もあり楽しみでもある。
https://variety.com/2020/legit/news/digital-theater-pandemic-broadway-1234836759/

モノリス

◎モノリスは誰の手によるもの?
11月18日に発見された謎が解けないユタのモノリス。ミニマリストのジョン・マクラッケンの作品では?と疑われているが、ディーラーのデイヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)は「そうに違いない」、マクラッケンの息子は「その可能性があるかもしれない」、友人作家達は「絶対違う」と証言している。Google Earth によると2016年ごろに建てられたようでこれは2011年に亡くなった作家の死後のできごと。(11月27日時点の記事)
https://www.nytimes.com/2020/11/27/arts/design/john-mccracken-utah-monolith.html

◎モノリスが続々発見
モノリス騒動はまだまだ続く。11月27日の夜に何者かによってユタのモノリスが撤去されたが、後日、アウトドア・スポーツ愛好家の2人が砂漠の土地に多くの観光客が押し寄せることを懸念して撤去したことを発表。なんとルーマニアにも同形状のモノリスが11月27日に発見されたが、12月2日に何者かに撤去される。そして12月2日には米国のカリフォルニアで別のモノリスが発見され、3日に撤去された。謎は深まるばかりだが、上記の記事でマクラッケンの作品である可能性を指摘していたディーラーがモノリスの写真を詳細に吟味した結果、このモノリスが機械でつくられたもののようで、全て手で作っていたマクラッケンのものではないとして前言撤回。未だに3体のモノリスが、誰の手によるもので、何の目的かも謎につつまれている。(12月4日時点の記事)
https://www.vox.com/culture/22062796/monoliths-utah-california-romania

できごと

◎美術館職員が組合化の動き
ボストン美術館の職員が労働組合化を圧倒的賛成多数で決定。過去2年の間にグッゲンハイム美術館やロサンゼルス現代美術館などが組合化しており、フィラデルフィア美術館の職員もその計画中であるとのことで、アメリカの美術館職員の組合化が活性化している。
https://news.artnet.com/art-world/mfa-boston-union-1925848

◎銀行とアートコレクション
美術館などが苦境に陥っているなか、欧米の銀行によるアートコレクションの勢いは翳っていない。18世紀のスペインの銀行によるコミッションから現在までの銀行コレクションの歴史、買い方(ほとんどプライマリーで作品あたり2500万円未満)、その活用の仕方までまとめた記事。
https://www.bloomberg.com/news/features/2020-11-19/big-banks-have-massive-corporate-art-collections-here-s-why

◎フェイク招待メールにご注意を
2022年開催予定の第15回目のドクメンタへの参加を求めるフェイク招待メールがアーティスト、キュレーターなどアート関係者に送られているようで、ご注意を!とのこと。
https://artreview.com/artworld-hit-by-fake-documenta-invitations/

◎原爆実験をテーマにした個展
戦後40年に渡ってアメリカ国内で続けられた原爆実験をテーマにしたカーラ・デスペイン(Cara Despain)の個展が南ユタ美術館で開催中。2月27日まで。国防の名の下に国民にも情報開示されないまま犠牲者を出しながらも繰り返された実験とその黒い歴史を詳らかにするもの。
https://hyperallergic.com/603740/cara-despain-from-dust-southern-utah-museum-of-art/

◎アーティストによる会員制バー
ブルックリンのクリントンヒルに4人のアーティストが会員制バーSatellite Art Clubをオープン。展覧会、パフォーマンスが行われる上、バーでお酒が飲める。アートとの関わりを書いて会員申し込みができる。会費は年間25ドルと安く設定されている。また参加作家はバーのシフトでお金を稼ぐこともできる。
https://news.artnet.com/art-world/satellite-art-bar-opens-brooklyn-1923956

◎ギャラリストが新たなスタイルのスタジオをオープン
上海でジャン・ペイリーなどの作家を擁するRen Spaceのギャラリストが新しくハイテクプロダクションスタジオを来年開設。大きなスペースで巨大な金属3Dプリンティングや、ロボットを使った大掛かりな製造などができる施設を作家に提供。つくられた作品の所有権の一部をスタジオがもつかわりに、製造費も負担し、作品の流通を独占契約で行う。
https://news.artnet.com/art-world/high-tech-art-production-studio-shanghai-1926736

◎白人至上主義者にNO
30人以上の建築家、アーティストが建築家のフィリップ・ジョンソンは白人至上主義者だったとしてMoMAとハーバード大学に名前を外すよう要請。彼がナチズムに傾倒していたこと、人種差別的な発言をしていたことは記録に残っているという。
https://hyperallergic.com/605116/architects-ask-moma-to-remove-philip-johnsons-name-citing-racist-legacy/

◎中国アートオークションマーケットの現在
2019年の中国アートオークションマーケットの分析。世界での中国アートの売上と中国内でのアートの売上共に前年比1割減で2010年以来の低水準だった。中国の成長率の低下とアメリカとの摩擦、香港の政治摩擦などが理由。若いコレクターの勢いはあり、近現代作品の売上は比較的好調の様子。
https://cn.artnet.com/en/chinese-art-auction-market-report/

◎絵画が移動可能になるまで
場所にとらわれないデジタルアートが盛んになりつつある昨今だが、絵画がmobile(移動可能)になったのは16世紀後半のベニスでキャンバスが導入されて以来だと、その社会的、歴史的背景を説明する記事。当時オランダでは木のパネルが使われていたが、高湿度のベニスにはキャンバスがあっていたと。
https://hyperallergic.com/603477/the-rise-of-mobile-art-from-the-renaissance-to-the-digital-anthropocene/

おすすめの本、ビデオ

◎2020年のアート本
NY Timesの4人のアート批評家が選ぶ2020年のアート本30冊弱。4人それぞれで傾向は違うが、全体としてマイノリティ、女性、脱植民地に焦点を当てたものが多い。日本に関するものとしては写真家のTakayによるヨウジヤマモトの写真集が入っている。
https://www.nytimes.com/2020/11/26/arts/design/best-art-books-2020.html?referringSource=articleShare

◎ゲリラ・ガールズの活動を振り返る
85年に結成されて以来アート業界の性差別や人種差別などをストリートで糾弾するビルボードやパフォーマンス活動をしてきたゲリラ・ガールズの30年以上の活動を振り返る本が出版された。いつも同じメンバーだと思い込んでいたが実は60人以上が活動していたとは。
https://hyperallergic.com/602766/guerrilla-girls-art-of-behaving-badly-chronicle-books/

◎メキシコシティのアートシーン
アメリカの公共放送局PBSが昨今のメキシコシティのアートシーンについて今年2月のアートフェアZona Macoを起点に取材したビデオ。政情不安や保守的な社会、政治との衝突はあるが、発展途上国のメキシコというイメージは過去のものであると印象付ける現代アートの勢い。コロナ前の状況で今の雰囲気はちょっと違うかもしれないが興味深い。
https://www.pbs.org/newshour/show/how-mexico-city-became-a-global-center-for-contemporary-art

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。