四密のアートシーン:「平成美術 : うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019」展をレポート

京都市京セラ美術館「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)1989–2019」展をレポート

poster for Bubbles / Debris: Art of the Heisei Period 1989–2019

「平成美術 : うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019」

関東:その他エリアにある
京都市京セラ美術館にて
37日後終了

In Art Beat News Main Article 1 by Art Beat News 2021-01-25

平成とはどんな時代だっただろう? 大きな災害やポップカルチャー、バブル経済やリーマンショック──30年間の出来事を振り返れば、悲喜交交の映像コラージュのように様々なシーンが浮かび上がるってくる。そんな混沌の平成を映し出すアート作品がいま、京都市京セラ美術館平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)1989–2019」展に集まっている。

美術評論家の椹木野衣を企画・監修に迎えた本展では、平成の美術を複数のアーティストたちによる「密」な集合的活動の集積として捉え、14作家グループによる作品群と1作家グループの資料展示から振り返る。

本展タイトルの「うたかたと瓦礫(デブリ)」は、バブル経済の崩壊と東日本大震災(福島原発事故)を念頭に、鴨長明『方丈記』と磯崎新『瓦礫(デブリ)の未来』からキーワードを引いているとして、椹木は次のように語る。「随筆『方丈記』に描かれる平安時代の末の状況は、平成の混沌の時代に似ているんです。この随筆の中から“うたかた”などのキーワードを引用しています。ここに集まるアーティストからは“アーティストコレクティブ”という言葉ではとらえられないような無常感を見ることができます。あくまで川のよどみに浮かぶうたかた(泡沫)なんです。現れたり消えたり、災害の中で翻弄される泡」。

作家グループは活動時期に基づいて1期「うたかたの時代(1989-2001)」、2期「うたかたから瓦礫(デブリ)へ(2001-2011)」、3期「瓦礫(デブリ)の時代(2011-2019)」の3区分に分けて整理されている。「会場は渾然としていますが、コラボレーションの多い1期や、一過性プロジェクトや研究会が多い3期など、それぞれ特徴が違う。集合的な形態にも移ろいがあることがわかるように選んでいます」。

こうして選ばれた作家グループは、平成に活動した数多のアーティストの中でもとくに「境界から逸脱するアーティストたち」だという。

会場の入り口には、椹木が「この壁は、ベルリンの壁の崩壊が起点なんです。平成が生み出したこの壁に私たちは直面していて、それを今後乗り越えるか解体するのかはわからない」と語る幅約15メートルにおよぶ黒板の年表「平成の壁」が立ちはだかる。美術作家の集合的な活動と、社会や美術の動き、災害や経済の浮き沈みとともに振り返る年表(壁)の向こうには、激動の平成の幕開け。1期「うたかたの時代(1989-2001)」では、Complesso Plastico、IDEAL COPY、テクノクラート、DIVINA COMMEDIAにフォーカスする。

この1期には、すでに活動を休止し作品を見ることのできないアーティストたちの作品が多く集まる。たとえば、平野治朗と松蔭浩之からなるComplesso Plastico(1987-1995)は音と映像によるインスタレーション作品で注目を集め、1990年にヴェネチア・ビエンナーレに招聘されたアーティスト。展示作品《C+P 2020》は本展のために再制作されたインスタレーションで、1988〜90年の初期作、映像、記録写真などによって再構成され、世紀末を迎える都市の表象としてディストピアの趣を持った90年代初頭の潮流を伝える。

いっぽう、飴屋法水を中心としたアートユニットのテクノクラート(1990-1996)は、機械とバイオテクノロジーを用いた身体的かつコンセプチュアルな作品が特徴。本展の展示作品《Dutch Lives》(2020)は、菌類、ウイルス、体液などを用いた伝説的パフォーマンスの記録映像や資料などで構成され、90年代の過激な熱気が伝わってくる。

アメリカ同時多発テロ事件に始まり、リーマンショックが世界に未曾有の経済危機をもたらした2000年代。2期「うたかたから瓦礫(デブリ)へ(2001-2011)」では、GEISAI、Chim↑Pom、contact Gonzo、東北画は可能か?、DOMMUNEを紹介(カオス*ラウンジは資料展示のみ)。

「瓦礫(デブリ)」がもっとも視覚的に示されているのは、ビルの残留物がハンバーガーのように堆積して「ビルバーガー」となったChim↑Pomの作品群だろう。

そして、東日本大震災、福島第一原発事故、拡大するテロリズム、多発する自然災害などのキーワードが並ぶ3期「瓦礫(デブリ)の時代(2011-2019)」では、パープルーム、「突然、目の前がひらけて」、クシノテラス、國府理「水中エンジン」再制作プロジェクト、人工知能美学芸術研究会[AI美芸研]の作品が並ぶ。

展示室中央の大きな橋は「突然、目の前がひらけて」によるもの。本プロジェクトは武蔵野美術大学と朝鮮大学校の学生であった市川明子、土屋美智子、灰原千晶、鄭梨愛(チョン・リエ)、李晶玉(リ・ジョンオク)の5人が両校の交流展に際して両者を隔てる塀に橋を架けたというもので、橋に加え、メモ、記録写真、模型などが展示されている。

上記の橋の上に登れば高い位置から本展の会場をざっと俯瞰できるが、そこから目に入るのは、直線的な導線と規則性をあえて排除した会場構成。各集団の活動の集積が、時代の流れをたゆたう泡のようにも、時代の破片として散らばった瓦礫のようにも見えてくる。

本展の企画がスタートした約2年前だというが、そこからコロナ禍に突入し状況は大きく変化した。コロナ禍は「平成の壁」を解体、あるいは崩壊させることになるのだろうか? 椹木は今何を考えているのかを聞いた。「三密という言葉がありますが、この会場には三密が可能な時代の美術が集まって、さらにその美術を集合させたいわば四密の空間になっている。密を避けなければならない外と、四密の内で大きな乖離ができ、入口と出口の世界が大きく移り変わっている。そこでこそ何かを考えたいです」。

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