公開日:2021年1月18日

NYにアートと文化を取り戻す、起業家が体験型アートに投資、コミックアートとして史上最高額など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、1月2日〜8日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「コロナへの対応、コロナの影響」「できごと」「アートマーケット」「オススメの展覧会とレジデンス情報など」の4項目で紹介する。

ジョアン・ミロ《The Birth of the World》(1925)Courtesy the Museum of Modern Art, © 2018 Successió Miró / Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris.

コロナへの対応、コロナの影響

◎NYにアートと文化を取り戻すために
クオモNY州知事がアートと文化を街に取り戻す計画を発表。職を失ったアーティストを救済するためだけでなく、街の再生のためにも不可欠であるとして、公私でパートナーを組んだ新しい組織を立ち上げ、早速2月からソーシャルディスタンスを取りながら楽しめるようなポップアップコンサートなどで1000人のアーティストを動員するとのこと。
https://www.nytimes.com/2021/01/12/arts/cuomo-art-culture-plan.html

◎コマーシャルギャラリーへの助成
フランスではコロナでダメージを受けているコマーシャルギャラリーへの助成として約2.5億円を計上。年間売上が約1000万円から1億円の中小プライマリーギャラリーが対象。フランスでは売上が1億円以上の画廊は約12%とのことで、大半が助成対象に。
https://news.artnet.com/market/france-direct-aid-galleries-1936384

◎Expo Chicago延期
4月中旬に予定されていたアートフェアのExpo Chicago が延期を発表。延期先はいまのところ7月を予定。主なアートフェアでは2021年に入って初の延期決定。2020年は5月に開催予定だったがキャンセルになっていた。
https://www.theartnewspaper.com/news/expo-chicago-art-fair-is-postponed-for-three-months-until-july

◎Frieze NYが参加ギャラリーを発表
開催場所を変更して、規模を縮小する決断をしたFrieze NYは予定通り5月に開催決行予定で、その参加ギャラリーを発表。ニューヨークのギャラリーが多く、残念ながら日本からは参加がないが、大手から中規模ギャラリーまでとても楽しみな顔触れ。
https://www.artnews.com/art-news/market/frieze-new-york-may-2021-exhibitors-list-1234581425/

◎ドクメンタも延期か
5年に一度ドイツのカッセルで開催されるドクメンタ、15回目の次回は2022年の夏に予定されている。だが、コンセプトとして、参加作家が現地で数ヶ月地元と一緒に作り上げるスタイルであるため、コロナ禍の今年の準備にはかなり制限があり、22年の開催が危ぶまれており延期の可能性が高い。
https://www.theartnewspaper.com/news/documenta-15-postponement-increasingly-likely-general-director-says

◎起業家は体験型アートに投資する
コロナで非営利の美術館などでリストラが相次いだが、体験型・没入型のアートスペースを運営する営利企業Meow WolfやFotografiskaでもリストラや閉鎖が発生。ただ、コロナ後を見据えてこの業界には投資資金が投入されており、業界内ではリストラが続いているにも関わらず他の都市などに施設を拡大計画中でもあるとのこと。
https://www.nytimes.com/2021/01/10/arts/design/immersive-art-investors.html

できごと

◎ディエゴ・リベラの壁画が歴史的建造物に指定
先日財政難でディエゴ・リベラの壁画を約50億円でジョージ・ルーカスに売却する可能性が報じられていた美大San Francisco Art Institute。批判が集まっていたが、サンフランシスコ市が全会一致で壁画を歴史的建造物に指定。これで売却がほぼできなくなった。
https://www.nytimes.com/2021/01/12/arts/design/rivera-mural-to-become-landmark.html

◎今年パブリックドメインに加わった作品たち
アメリカでは今のところ著作権は制作から長くとも95年有効だそう。毎年元日をパブリックドメインデーと呼び、96年前(1925年)の全ての制作物の著作権が切れ一斉にパブリックドメインに。その一つがトップ画像にも使われているミロのThe Birth of the World。
https://news.artnet.com/art-world/public-domain-day-2021-copyright-1933796

◎オハイオアーツカウンシルの理事の一人が辞職へ
オハイオアーツカウンシルの理事の一人Susan Allan Blockが、ソーシャルメディア上で、米国議事堂乱入について「No Peace」と支援する投稿したり、次期副大統領のカマラ・ハリスを「Whore(売女)」呼ばわりしたため反発が広がっていたが、1月8日に辞職。2016年に共和党のオハイオ州知事によって任命されていた。
https://hyperallergic.com/614074/ohio-arts-council-board-member-resigns-after-incendiary-comments-on-capitol-attack/

◎Forensic Architectureの幻の展覧会
マイアミ大学美術館で去年開催されていたForensic Architectureの展覧会。批判が噴出していた近くの外国籍児童の勾留施設に対する調査そのものを展覧会の一部に予定していたが、展覧会開始後に大学内部の自主規制によって内容が大きく変更に。2月にスタートし3月初旬にコロナで延期されることなく終了。Forensic Architecture創設者は、オープニングにあわせて英国から来る予定だったがビザが降りずに来ることができなくなった。また、担当学芸員は予定していた次の展覧会がボツになり、6月での契約満了後、契約更新されない形で事実上のクビに。
https://www.nytimes.com/2021/01/11/arts/design/forensic-architecture-miami-dade-college.html

◎ケイト・ブランシェットのプライベート・ギャラリー
女優のケイト・ブランシェットは実は有名なアートコレクターでもあるそうで、英国イースト・サセックスの自宅敷地内の小屋を建て替えて作品展示のためのギャラリーを新築する計画をたてていた。そのプロセスの中で、小屋内に保護指定されているコウモリがいることが判明、新築内にコウモリの居場所も作ることで建設許可が出たそう。
https://news.artnet.com/art-world/cate-blanchett-art-gallery-bats-1936503

◎ウォーホル財団の助成金
ウォーホル財団が人種的不平等、警察による不正義、気候変動、コロナによる被害などに取り組む51のアート組織に総額約4億円の助成金を支給することを発表。
https://hyperallergic.com/614505/andy-warhol-foundation-fall-2020-grantees/

◎アート専門の弁護士事務所
弁護士のFrank Lordが独立してNYにアート専門の弁護士事務所を立ち上げたそう。なんと美術史の博士号も持っているそうで稀有なキャリア。美術品の国際的な返還にまつわる法務や、コレクションマネジメント、ギャラリーの契約書などを手掛けるそう。
https://www.theartnewspaper.com/news/art-lawyer-frank-lord-opens-private-practice-in-new-york

◎送金トラブル多発
近年アートの取引がオンライン上で行われることが多くなったり、マーケットが拡大して知らないものどうしでの取引が増えていることで、送金トラブルが増えているとのこと。昨年に大きな話題になった事例として、オランダの美術館とディーラー間のメールがハッキングされ、送金先を変更した偽造請求書がなりすましメールによって送られることで、購入者が3億円以上をハッカーに送金し騙し取られたりといったことも。被害を防ぐためには、間に第3者を挟んでリスクを減らす手もあるし、フィンテックやブロックチェーンの新しいサービスも出てきているが、結局は二段階認証、つまり、メールで請求書をもらったら、その情報が正しいか電話で先方と確認するのが確実だと、、、。身も蓋もないが。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-secure-ways-pay-art

アートマーケット

◎コミックアートとして史上最高額
「タンタンの冒険」シリーズの作者エルジュによって1936年に描かれた表紙絵のオリジナルがパリのオークションで約4億円で落札され、コミックアートとして史上最高額に。色が多すぎて表紙にするには印刷費が高すぎると実際の表紙には使われなかったが、当時7歳だった編集者の子どもにプレゼントされたもの。その子どもつまり編集者の孫達によってオークションにかけられていた。
https://www.theguardian.com/books/2021/jan/14/tintin-cover-art-sells-26m-just-missing-record-comic-book-sale-le-lotus-bleu-herge

◎イギリスの外へと作品大移動
Brexitの締め切りであった去年の12月31日までに、かなりの量のアート作品が英国からEUに移動された。Brexitによって税金や手続きが必要になる前に移動されたわけだ。特に中小規模のディーラーやコレクターが多かったそうだが、少数とはいえイギリスで運営されるギャラリーなど逆にEUから英国に作品を移動した例も。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-01-13/millions-of-dollars-of-artworks-left-u-k-before-brexit-cutoff

オススメの展覧会とレジデンス情報など

◎助成金、レジデンス、コンペまとめ
アメリカやイギリスの1月に締め切りがある助成金、アーティストレジデンスや、展覧会募集、書き手へのコンペなどのまとめ記事。言語のハードルもあり、ものによっては応募者の住所が限定されているもの、またレジデンスなどはビザが必要など制限はそれぞれあるが、中には日本からでも応募できるものはあるはず。
https://hyperallergic.com/613389/opportunities-january-2021/

◎「Asia Society Triennial」レビュー
ニューヨークのアジアソサイエティーで去年10月の終わりからはじまった初のトリエンナーレ「Asia Society Triennial」のレビュー。初開催にコロナが重なったこと、東アジアから中東まで広いアジアとそこにルーツがある米国の作家を紹介というチャレンジングな条件だが、ぜひ見に行きたい。Part1が2月7日までで、Part2が3月16日から6月27日までの予定。会場に足を運べない方にもヴァーチャルツアーが充実している。
https://hyperallergic.com/614473/asia-society-triennial-review-part-one/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。