大統領就任式から見えたこと、恩赦を受けたアート関係者、ダイバーシティの達成をどのように測るか?など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

In Art Beat News Main Article 1 by Kosuke Fujitaka 2021-01-25

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、1月16日〜22日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「トランプからバイデンへ」「アート業界内のダイバーシティ」「コロナの影響」「できごと」「おすすめの音声インタビュー、本」の5項目で紹介する。

トランプからバイデンへ

◎大統領就任式から見えたこと
バイデン大統領就任式で詩を朗読した若干22歳のアマンダ・ゴーマンは12月末に打診を受けて、苦労しながら少しずつ詩を書いていたが、約半分を書いたところで1月6日の議事堂乱入事件が起こり、その夜に一気に書きあげた。彼女を推薦したのはファーストレディのジル・バイデンで、以前、米国議会図書館でゴーマンが行った詩の朗読を聞いたのがきっかけだという。この記事ではゴーマンにインタビューしながら就任式にいたる過程を追ったもの。
このような若者に大統領就任式という大舞台を任せることができ、しかもイベント会社とか代理店ではなくてファーストレディが推薦して、結果として若者が素晴らしい詩を書いて素晴らしいパフォーマンスで朗読したという全体の構図にアメリカは底力のようなものを感じた。ふとオバマ大統領就任の際の感覚がよみがえる。ちなみに、就任式で詩人が詩の朗読をするというのははじめてではなく、1961年のケネディ大統領の就任式が最初で、その後クリントンが2回、オバマが2回、そして今回のバイデン。当然のごとくみな民主党の大統領。このことからもアメリカで詩というものがじつはとても大切にされているんだなと、本当に久しぶりに気持ちのいい驚きを感じる瞬間であった。
https://www.nytimes.com/2021/01/19/books/amanda-gorman-inauguration-hill-we-climb.html

◎ネオンサインの正体が発覚
ニューヨークの国連ビルの対岸クイーンズ側にカウントダウンする大きなネオンサインが出ていたのだが、トランプが大統領として在任する日をカウントダウンしていたもの。じつはそのサインを掲げていたのはマシュー・バーニーのスタジオで、彼が他の数人と作ったものだったそう。就任式の日にカウントダウンが終わって真っ黒に。
https://news.artnet.com/art-world/matthew-barney-trump-countdown-clock-1923039

◎恩赦を受けたアート関係者
トランプが在任最後にスティーブ・バノンをはじめ143人に恩赦を与えたが、その一人が、巨大アートディーラーファミリーのナーマド家のヘリー・ナーマド(Helly Nahmad)だった。トランプタワーのワンフロアに自宅を構え、そこで100億円以上が動く違法ギャンブルを取り仕切っていたことで2014年に逮捕されていた。
https://news.artnet.com/art-world/trump-pardons-helly-nahmad-1938216

◎名画の中のバーニー・サンダース
大統領就任式で出席者が晴れ舞台に着飾る中、あまりにも「普通」の防寒ファッションで一気にネット上のミームになったバーニー・サンダース。アート業界でもマリーナ・アブラモヴィッチやジョセフ・コスース、エドワード・ホッパーなどの作品にコラされた画像が駆け巡ったが、それらのまとめ記事。
https://www.artnews.com/art-news/news/bernie-sanders-art-history-memes-1234581892/

アート業界内のダイバーシティ

◎ダイバーシティの達成をどのように測るか?
やっと全米の美術館でダイバーシティ推進責任者のポジションが作られ始めた。職員や理事会にマイノリティ人種を増やすこと、展覧会プログラムの多様性を増やすこと、組織内に人種差別的なパターンがあれば是正することなどチャレンジは多岐にわたる。ただ、成果を数字で測るのが難しい。特に小さい組織ではそもそもそのポジションの予算を見つけるのが困難。また一人そのポジションを採用すれば課題は解決されるわけではないなどチャレンジは多い。人事部内に留まるのではなく、組織トップの直下でやらないとうまくいかないとの専門家の指摘。
https://www.nytimes.com/2021/01/17/arts/design/diversity-directors-arts-hiring.html

◎初の黒人女性が就任
グッゲンハイム美術館の副館長兼チーフキュレーターに初の黒人女性であるナオミ・ベックウィズ(Naomi Beckwith)が就任することに。前任者は人種差別的な振る舞いがあったという告発を受け、本人はそれを否定し、第三者による調査でも差別的振る舞いがあったとは認められないという結論であったものの辞任していた。
https://www.artforum.com/news/guggenheim-appoints-naomi-beckwith-deputy-director-chief-curator-84913

◎ガゴシアンの新キュレーター
若き批評家アントワン・サージェント(Antwaun Sargent)がガゴシアンギャラリーにキュレーターとして参加。これまでにファッション業界における黒人写真家に躍進についての本を書いたり、様々な雑誌に執筆したりしてきた。今後は主に黒人作家をフィーチャーする展覧会やトークのキュレーション、ギャラリーが発行するマガジンでの執筆などを担当していく。
https://www.artnews.com/art-news/news/antwaun-sargent-gagosian-director-curator-1234581898/

コロナの影響

◎美術館がワクチン接種場に
イギリスやイタリアで閉鎖されているいくつかの美術館が、ワクチン接種場として再オープンされはじめた。アメリカでは競馬場やロサンゼルスのディズニーランドなども接種場として使われている。
https://www.artforum.com/news/museums-worldwide-begin-to-reopen-as-vaccination-centers-84924

◎アート・バーゼルは9月末に延期
去年はキャンセルになり、今年6月に予定されていたアート・バーゼルが、まだまだコロナがおさまらず、海外移動が制限されていることを理由に9月末への延期を発表。
https://www.artnews.com/art-news/market/art-basel-june-2021-fair-delayed-1234581877/

できごと

◎Artsyが予想するアートトレンド
Artsyによる2021年アートトレンド第2段は「Craft Figuration(クラフト装飾)」。以前はアートよりも「低く」みられたり、「女性の仕事」のようにくくられていたクラフトが、近年社会の変化とともにアートでも受け入れられてきていた。アフリカ、米国、欧州の10人の作家紹介。
https://www.artsy.net/series/trends-watch-2021/artsy-editorial-trends-watch-2021-craft-figuration

◎新たな青が絵の具に
オレゴン州立大学のラボで200年ぶりに発見された新しい青の顔料「インミンブルー(YInMn Blue)」が一般向けの絵の具として発売された。ただとても高価でアメリカでは唯一扱っている店で40mlが約$180もするそう。いまのところ日本のメーカーは材料が高価すぎることを理由に製品化を見送っている。
https://news.artnet.com/art-world/yinmn-blue-comes-market-1921665

◎BTSのメンバーのアートパトロン活動が表彰
K-POPグループBTSの一人RMが、アートへのパトロン活動が認められて韓国における「art sponsor of the year(2020年を代表するアートスポンサー)」に。去年8月にはハンス・ウルリッヒ・オブリストとの協働を発表したり、去年始めにはアントニー・ゴームリーやトマス・サラセーノの作品を世界中に作っていくプロジェクトを発表していた。
https://artreview.com/k-pop-star-rm-of-bts-named-art-sponsor-of-the-year/

◎「サルバトール・ムンディ」の帰還
2017年のオークションで史上最高値で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」のレプリカが去年にナポリの美術館から盗まれたが、警察が取り返した。じつはダ・ヴィンチの工房作とされるサルバトール・ムンディは現存するだけでも世界に20あり、これはそのうちの一つだそう。
https://www.artnews.com/art-news/news/salvator-mundi-copy-stolen-naples-museum-1234581669/

◎アフリカアートシーンの勢い
ナイジェリアのコマーシャルギャラリーRele Gallery が2月にロサンゼルスに支店をオープンして特に女性の現代アフリカ人作家を紹介していく。すでにナイジェリア最大の都市ラゴスにギャラリーを2軒構えているそうで、アフリカのアートシーンの勢いを感じさせる出来事。
https://hyperallergic.com/615727/rele-gallery-opens-in-los-angeles/

おすすめの音声インタビュー、本

◎ロバート・スミッソンの音声インタビュー
1972年に行われたロバート・スミッソンのオーラルヒストリーのための音声インタビューが新しく公開された。キャリア後半の69〜72年について、制作過程だけでなく自己分析もあり、制作についての告白などが入っている興味深いものだとのこと。飛行機事故で亡くなる1年前のものという意味でも貴重。スミソニアンに属するArchives of American Artのサイトからインタビューの書き起こしがダウンロードでき、音声の一部も聞くことができる。
https://www.artnews.com/art-in-america/features/robert-smithson-late-work-1972-oral-history-archives-of-american-art-1234581499/

◎ロバート・ストーがあけすけに語る
昨年末に『Writings on Art 1980–2005』として1980〜2005年に書かれた批評文をまとめて出版したロバート・ストーへのインタビュー記事。90年代にMoMAのキュレーターでもあった彼がグリーンバーグを批判していたり、キュレーターとしての仕事と彼個人やコレクターのアートに対するtaste(趣味)の衝突について真摯に語っていたり、フィリップ・ガストン展の延期を痛烈に批判していたりと歯に衣着せぬ物言いでとても興味深いインタビュー。ちなみに、ロバート・ストーは2007年のヴェネチア・ビエンナーレでアメリカ人として初めて芸術監督を務めたが、彼がキュレーションしたアルセナーレやイタリア館での展示に、日本人としては加藤泉、束芋、米田知子、藤本由紀夫、森弘治などが選ばれていた。
https://news.artnet.com/art-world/robert-storr-interview-writings-on-art-1938044

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka. 1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。 ≫ 他の記事

コメント

Instagram

人気記事

TABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Tokyo Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Tokyo Art Beat (2004 - 2021) - About - Contact - Privacy - Terms of Use