公開日:2021年2月5日

「スラヴ叙事詩」騒動に決着、ポンピドゥー・センターが3年以上の閉館へ、映画のようなアート詐欺など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、1月23日〜29日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アートと経済政策」「引き続きコロナ禍でのアートシーン」「できごと」「アートマーケット」「オススメの展覧会」の5項目で紹介する。

3年以上の閉館が決まったポンピドゥー・センター 出典:Wikimedia Commons(Suicasmo)

アートと経済政策

◎アーティスト支援にもなる新たな法律
ニューヨーク市郊外の富裕層向け別荘地のサウスハンプトンで、1ヶ月以上空いた店頭には地元アーティストの作品を展示しなければならないという法律ができた。地主が家賃を安くして貸すよりは高く保って閉めておくためにシャッター街になってしまうことへのカウンター施策。これは、税金を使わずに問題(シャッター街)を解決しそうないい立法の使い方(インセンティブ設計)ではないだろうか。ここでコストを負うのは閉めておくのが経済的に合理的だと個別最適に判断していた地主だが、ただ、そういう地主が増えすぎてシャッター街になってしまうと地主にとっても長期的には地代下落につながるのだから、街を活性化する意味でも、アーティストを支援する意味でも、結果的には地主にとってもいい政策なのではないだろうか。
https://news.artnet.com/art-world/pandemic-left-storefronts-small-town-vacant-now-mayor-requires-landlords-fill-local-art-1939442

◎著名アートコレクターの死と作品のゆくえ
去年10月に亡くなったサムソン会長の李健熙(イ・ゴンヒ)は有名なアートコレクターで20の韓国の国宝を含む主にアンティーク1万2000点(約1000億円相当)を保有していた。その大半は美術館に入りそうだが、遺族の巨額の遺産相続支払いのためにロスコ、ジャコメッティ、ベーコンなど西洋絵画が売却される見込み。これら巨匠の西洋絵画はオークションで売却され、主に韓国外に流出しそうであるが、それは韓国にとっての大きな文化損失であるとして、相続税をアート作品現物でできるように税改正されるべきだという声があがっているという。現状現金以外では不動産と有価証券しか認められていないとのこと。ちなみにアメリカでもアート現物での納税はできなさそうだが、いい作品であれば美術館に寄贈することで、美術館が評価した評価額分で税額控除はできるはず。
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20210124000125

引き続きコロナ禍でのアートシーン

◎美術館の再オープンを求める声明
ヨーロッパの多くの国ではコロナの第2波の影響で美術館などの文化施設が再閉鎖されている。スイスの美術館の館長達が連携して、美術館は市民の精神的な健康にとって必要であり、美術館が衛生面で必要な措置をとり、地元からの来館者だけであればコロナ感染の大きなリスクはないとして、美術館の再オープンを求める声明を出した。
https://www.artnews.com/art-news/news/swiss-museum-directors-demand-lockdown-end-1234582259/

◎美術館のリストラは続く
コロナで閉館中のシカゴ現代美術館が初めてのリストラを発表した。特定の部署ではなく美術館全般に渡る正規職員の11%にあたる17人が対象だという。またパートタイムの職員の半数もリストラの対象。11月から2度目の閉館中だが3月2日に再開予定とのこと。
https://www.chicagotribune.com/entertainment/museums/ct-ent-mca-lays-off-11-percent-staff-0123-20210122-t4cqdqjpdvcozlh6wax4bkxcne-story.html

◎オランダのアートフェアは9月に再延期
オランダのマーストリヒトのアートフェアTEFAF(The European Fine Art Fair)はすでに3月から5月に延期されていたが、さらに9月11日に再延期。すでに延期されているバーゼルの1週間前の開催予定に。春に行われていたニューヨークのTEFAFは2022年まで延期。
https://www.artnews.com/art-news/market/tefaf-2021-schedule-updates-1234582275/

◎ニューヨークの2つのフェアは9月に延期
Armory Showと同時期の3月にニューヨークで開催されていたIndependent Art Fairも9月開催に変更。場所もダウンタウンのフェリーターミナルを改装した結婚式などのイベント会場であるCiprianiに。3割ほど規模縮小だが、フェアからのコミッションワークのみの展示にすることで、2014年にスタートした際の壁のほとんどない実験的なアートフェアIndependent Projectsのときのような、エッジのたった感じを取り戻すとのことで楽しみではある。
https://news.artnet.com/market/independent-art-fair-2021-1939955

◎ギャラリースペースをフェアのメイン会場に
今年のニューヨークのOutsider Art Fairは延期することなく、規模を縮小するかたちで1月29日から2月7日まで開催。また形式もフェア会場ではなく、市内の4つのギャラリーと一つの特設会場での開催。$15の入場パスをオンラインで購入する必要がある。NADAも同様にギャラリースペースを使う形での擬似的なフェアはコロナ以前から開催していた。
https://www.nytimes.com/2021/01/28/arts/design/outsider-art-fair.html

できごと

◎映画のようなアート詐欺
映画のようなアート詐欺の話。名の知れたポルトガルのコレクター家族・グルベンキアン一族の遠縁の人と結婚し、その名字で信頼を得てアートアドバイザーを名乗っていた女性が、草間彌生の大きなかぼちゃ作品を香港のアドバイザーへ売却を持ちかけて約1.5億円をだましとった。作品はスイスの倉庫にあるということで作品の存在も確認できたため、香港のアドバイザーはまず前金で1000万円ほど払った。作品のちょっとした傷の修復も頼むと、ちゃんと修復されたことも確認できたので、残金を支払った。その後香港に到着するのを待っていたが、いくら待っても来ない。最終的には、草間作品のオーナーが詐欺師のグルベンキアンからお金が払われないため、別の人に売ったことがわかった。彼女はイギリスで刑事告発されたが、すでに祖国のドイツに逃れていて、最終的にはポルトガルで逮捕された。記事を読むといろいろな詳細が本当にドラマチックで映画化もできそう。
https://www.townandcountrymag.com/society/money-and-power/a35046374/angela-gulbenkian-art-fraud-scandal/

◎新たな理事長が任命、再生へ
資金難の解決にリベラの壁画を売却しようとして大きな批判に晒されていた美大San Francisco Art Instituteだが、壁画を市が歴史的建造物に指定したことで阻止され、理事長が辞任。新しく写真家の理事長が任命され、資金集めをしながら再生を目指すことに。
https://www.artnews.com/art-news/news/sfai-board-chair-resigns-pam-rorke-levy-1234582006/

◎ポンピドゥー・センターが3年以上の閉館へ
パリのポンピドゥー・センターが2023年終わりから2026年いっぱいまで建物の修復のために3年以上閉館することが決まった。半分閉館して半分修復していくという案も検討されたが、結果的に長い時間もお金もかかることで、結局全館閉館に決定したよう。総額250億円以上の予算。
https://www.artnews.com/art-news/news/centre-pompidou-renovation-closure-1234582131/

◎アジア系アメリカ人やアジアにルーツを持つ作家の研究機関が誕生か
スタンフォード大学のカンターアートセンターが、近年評価が高まっている日系アーティストのルース・アサワの作品をはじめとする寄贈を受けたことをきっかけにアジア系アメリカ人やアジアにルーツを持つ作家の研究機関 Asian American Art Initiativeを立ち上げることを発表。ルース・アサワは最近アメリカの美術館やオークションでも人気が高まっているが、日系とはいえ意外と日本では知名度が低いようで、東京のクリスティーズで2015年に展示されたぐらいのよう。
https://news.stanford.edu/2021/01/25/cantor-arts-center-launches-asian-american-art-initiative/

◎犯罪者との関わりと影響
ジェフリー・エプスタインとの関わりで自身が創業した投資会社アポログローバルマネジメントのCEOを辞任したレオン・ブラック。アートコレクターとしても有名で、最近のMoMAの拡張に40億円以上寄付し、現在のところMoMAの理事長の任にあるが、この件を受けてどうなるか。エプスタインには最終的に節税の指南などの見返りに150億円ほど支払ったことが判明したが、違法性は無いという。
https://www.artnews.com/art-news/news/leon-black-leaves-apollo-global-management-1234582125/

◎「スラヴ叙事詩」騒動に決着
アルフォンス・ミュシャの巨大な連作「スラヴ叙事詩」20枚すべてがやっと恒久的な展示場所に収まることに。寄贈を受けた際に市が約束していた恒久スペースが建設されないことで孫が市と争っていたが、建築家トーマス・ヘザウィックがデザインするプラハの複合施設内に恒久スペースがつくられ、2026年から展示されることに。
https://www.theartnewspaper.com/news/art-nouveau-pioneer-alphonse-mucha-s-slav-epic-finds-a-home-at-last-and-it-s-designed-by-thomas-heatherwick/

アートマーケット

◎ボッティチェリがアーティストレコードを更新
コロナの影響でアートマーケットが心配されているご時世だが、1月28日のニューヨークのサザビーズのオークションで、サンドロ・ボッティチェリの《Young Man Holding a Roundel》が約96億円で落札された。通称“Rockefeller Madonna”が2013年に約10億円で落札されたこれまでのアーティストレコードを大幅に更新。ロシア系とアジア系のバイヤーが競った結果ロシア系のバイヤーが落札。
https://news.artnet.com/market/old-masters-2021-sothebys-report-1939728

◎2020年の動向まとめ
Artsyが行ったギャラリーへの調査によると、2020年には大半のギャラリーが活動をオンラインにシフトし、半分以上のギャラリーがオンライン上で新規の若手コレクターに出会ったという結果。ただ、1割弱のギャラリーがスペースを閉め、多くの中小規模のギャラリーがリストラで人を減らしたとのこと。その他にも興味深い調査結果がたくさん出ている。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-galleries-made-connections-new-young-collectors-2020

◎ポケモンカードの初版セットが高額落札
英語版ポケモンカードの1999年の初版バージョンのセットがオークションでなんと4200万円以上で落札。1999年のもので、未開封の36パック396枚のセットだそう。
https://news.artnet.com/market/pokemon-auction-1938984

オススメの展覧会

◎直立像だけを集めた展覧会
謎のモノリスの熱狂は過ぎたが、ニューヨークのチェルシーでは、古いものでは10世紀のものから現代アートまでの直立像だけを集めた展覧会「Between the Earth and Sky」がカスミンギャラリーで開催中。フマ・バーバ、ウゴ・ロンディノーネ、トム・サックス、ジェイムス・リー・バイアスなど人気の作家を集めたもの。ギャラリーのサイトのInteractive Walk Throughから展覧会の様子を3Dで見ることができる
https://www.nytimes.com/2021/01/28/arts/design/monolith-mania-gallery-kasmin.html

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。