公開日:2021年3月9日

美術館の再開に向けた動き、2020年にもっともググられたアート作品、まだあなたはアーティストでいたいですか?など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、2月20日〜3月5日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「美術館の再開に向けた動き」「アート業界にクリプト旋風」「できごと」「アートマーケット」「おすすめ展覧会とビデオ」の5項目で紹介する。

イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館 出典:Wikimedia Commons(Photo by DAVID ILIFF. License: CC BY-SA 3.0)

美術館の再開に向けた動き

◎イギリスでの美術館は5月7日に再開か
ロックダウン中のイギリスだが、首相の発表によると美術館・博物館は5月7日から再開される予定で、ギャラリーは4月12日から再開可能とのこと。コロナが収まってきたことにともなった段階を追った再開の一部で、ギャラリーはフェーズ2、美術館などはフェーズ3に属するため。
https://www.artforum.com/news/british-museums-to-begin-opening-may-17-85144

◎ドイツでは4ヶ月の時を経て再開へ
過去4ヶ月閉鎖されていたドイツの美術館にも再開の兆し。3月8日から、コロナ陽性者数が過去7日間で10万人につき100人以下の地域から制限付きで美術館などが再開できることになった。これはレストランなどよりも先の再開で、美術館関係者にも驚きだったよう。
https://www.theartnewspaper.com/news/german-museums-can-open-from-8-march

◎美術館では引き続きコロナ対策
先日テキサスの州知事が3月10日より、州内でマスク着用義務を撤廃してすべてのビジネスを通常通り再開することを発表したが、州内の主な美術館はこれまで通り、マスク着用や、入場者数制限、ソーシャルディスタンスなどのコロナ対策処置に変更を加えず開館していく模様。
https://www.artnews.com/art-news/news/texas-pandemic-restrictions-lifted-museums-1234585382/

◎美術館の収入・支出・コロナの影響
アメリカの美術館の会計、つまり収入(事業収入、運用益、寄付、助成金)と支出(人件費、その他維持費)について解説しながら、コロナがいかに影響を与えたか、どういうふうに変わっていきそうかについて分析した長文記事。
https://www.artnews.com/art-news/news/united-states-art-museum-financing-1234584930/

アート業界にクリプト旋風

◎NFTの現状を冷静に概説
Beepleによる10秒のビデオクリップが約7億円で売れたり、Nyan Catが6000万円以上で売れたりとアート業界では大騒ぎになっているNFT(画像などの電子ファイルそのもの、もしくはその保存場所をブロックチェーンに組み込むことで代替不可でユニークなものにすることができるトークン)の現状を冷静に概説する記事。
https://www.artnews.com/art-in-america/features/nft-art-1234585590/

◎作品の購入はビットコインやイーサリアムでも受け付け
ダミアン・ハーストの新作プリント“The Virtues”は、武士道における徳からタイトルをつけられ、桜の花がモチーフの作品だが、購入の支払いにビットコインとイーサリアムを受け付けるとのこと。メジャーなアート業界ではほぼ初めての試み。
https://www.artnews.com/art-news/news/damien-hirst-prints-cryptocurrency-1234584977/

できごと

◎ホイットニー美術館でも解雇の動き
NYのホイットニー美術館が15人のレイオフ。去年8月から美術館は開いているが、来場者数が大きく落ち込んでおり、想定を大きく上まわる23億円以上の損失を見込むため。これは昨年4月の76人のリストラから2回目のもの。
https://news.artnet.com/art-world/whitney-museum-lays-off-15-employees-1945672

◎白人至上主義者への対応
MoMAの建築部門の長年のキュレーターで巨匠建築家のフィリップ・ジョンソンが白人至上主義的であったことはよく知られており、MoMAの展示室に彼の名前が冠されていることに批判が上がっていた。批判への一つの対応として、開催中の建築と黒人の歴史を振り返る展覧会「Reconstructions: Architecture and Blackness in America」の間、名前を展示作品で隠すことになった。
https://hyperallergic.com/625843/moma-will-temporarily-cover-philip-johnsons-name-after-architects-denounce-white-supremacist-ties/

◎タレル最大規模のインスタレーション
マサチューセッツ現代美術館にて5月29日からジェームス・タレルの長期の回顧展が開催され、これまでで最大規模の天井から空を見上げるインスタレーション「Skyspace」がつくられるという。コンクリートの給水塔を再利用したもので1987年にはじめて現地を訪れたタレルが構想したものが実現されることになった。
https://www.artnews.com/art-news/news/mass-moca-james-turrell-skyspace-1234584972/

◎2020年にもっともググられたアート作品トップ10
2020年にググられたアート作品のトップ10は?1位はやはりダ・ヴィンチの「モナリザ」。2位はピカソの「ゲルニカ」ときて、10位にはヒエロニムス・ボスの「快楽の園」。だいたい順当な作品が並んでいるイメージだが、トップ10全員が白人男性作家であることには少し考えさせられる。
https://hyperallergic.com/625863/from-da-vinci-to-bosch-the-10-most-googled-paintings-of-2020/

◎大富豪コレクターに厳しい判決
スペインの大富豪コレクターが、スペインの文化省が国外持ち出しを許可しなかったピカソの絵を自分のヨットでフランスに持ち出したところを見つかり、18ヶ月の刑期と約60億円の罰金を言い渡された。2020年2月に控訴したところなんと刑期が3年に伸び、罰金が約100億円に増額される結果に。そして今回最高裁にて、作品はスペインに留まることが決定された。絵画自体は約30億円程度と鑑定されており、刑期と罰金は少し大げさすぎる気がしないでもないが、厳しい判決。
https://www.artnews.com/art-news/news/jamie-botin-picasso-portrait-spain-supreme-court-ruling-1234585309/

◎まだあなたはアーティストでいたいですか?
コロナで厳しい状況におかれているアーティストに7つの質問をなげかけ、その答えによって点数を計算し、3つの進路アドバイスを出す厳しい選択についての記事。ユーモラスな質問と回答群で笑える内容であるものの、ベースには厳しい現実が。
https://www.artnews.com/art-in-america/features/hard-choices-quiz-do-you-still-want-to-be-an-artist-1234584786/

◎韓国一の資産家、遺族がアートコレクションを一部売却へ
サムソンの会長・李健煕が去年亡くなった際、韓国一の資産家だったようで、遺産相続税は約1兆円にものぼるといわれている。その捻出のために、遺族はアートコレクションの一部の売却を検討している。目玉は、ジャコメッティの1960年の彫刻作品が約150億円、フランシス・ベーコンの1962年の絵画は約140億円と見積もられている。その他モネ、ピカソ、ロスコ、ウォーホルなど素晴らしい作品の海外流出を防ぐために12の美術団体と8人の元文化大臣が相続税の作品物納を認めるよう政府に要請書を出した。
https://news.artnet.com/market/heirs-considering-selling-samsung-collection-1949413

アートマーケット

◎Brexitの影響で活況を呈するパリ
パリのアートマーケットが活況を呈している。2019年にはオークションの売上が前年比49%アップだったという。FIACをはじめとするアートフェアの成功や、オフィスやお店が閉まった後のギャラリーにとって魅力的な不動産、そして何よりBrexitのおかげとの分析。
https://news.artnet.com/market/paris-galleries-2021-1946896

◎あの俳優が贈った絵画が高額落札へ
ブラッド・ピットがアンジェリーナ・ジョリーにプレゼントしたウィンストン・チャーチルの絵画が競売で約12億円で落札。マラケッシュの風景を描いたもので1943年にF・ルーズベルト大統領にプレゼントされたもの。2011年にピットがニューオリンズのディーラーから約3億円で買い、ジョリーにプレゼントした。チャーチルの絵画は2014年に別の絵画が約3億円で落札されており、今回はそれを大幅に上回るチャーチルのアーティストレコード。
https://www.nytimes.com/2021/03/02/arts/design/angelina-jolie-churchill-painting-auction.html

◎マン・レイのオークション作品は盗品か?
マン・レイの長年の助手が所有していた188点の作品が昨日オークションにかけられ、予想を上回る約7.5億円の売上に。だが、前日にマン・レイ信託財団が、作品の大半が盗まれたものだとして中止を求めていた。クリスティーズは専門家を交えた調査の結果、大半の作品がこれまでも展示や出版物に掲載されてきたものであり、財団からは証拠が出されていないとして、訴えに裏付けがないと結論付け競売を実施していた。
https://news.artnet.com/market/christies-man-ray-sale-1948307

おすすめの展覧会とビデオ

◎Frick Madisonフォトレポート
フェルメールやハンス・ホルバイン、レンブラントなどオールドマスターの名作が並ぶフリック・コレクションが改装で閉館中のため、Frick Madisonとして、以前ホイットニー美術館があったビルを間借りして新しい装いで開館。クラシックな邸宅での展示から一転ホワイトキューブに。その様子をフォトレポートで。
https://news.artnet.com/art-world/frick-madison-photos-1949175

◎リチャード・タトルのレクチャー
少し前の2015年に撮影されたものだが、ポストミニマリズムを代表するリチャード・タトルのレクチャーの様子。詩を朗読するところから始まり、作品の解説、そしてQ&Aでおわるが、終始、彼の作品そのままのような詩的で真摯なトーク。論理的に理解するのはなかなか難しいが、話を聞いているとなんとなく伝わってくる、そんなレクチャー。
https://icamiami.org/program/ica-speaks-richard-tuttle/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。