公開日:2021年3月16日

話題のNFTのメリット・デメリット、中国グラフィティ事情、時代の変化とギャラリーの終焉など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、3月6日〜12日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「NFTの大旋風」「メトロピクチャーズに幕」「できごと」「おすすめの本、ビデオ」の4項目で紹介する。

ニューヨークのクリスティーズ 出典:Wikimedia Commons(David Shankbone)

NFTの大旋風

◎NFT作品が約75億円の高額落札
クリスティーズが10日間に渡って行っていた初のNFTのオンラインオークションで、アーティストのBeepleによる5000枚のイメージを使った作品「The First 5,000 Days」が3月11日になんと約75億円で落札された。Beepleのオークションレコードは2月25日のNifty Gatewayでの別のビデオ作品「Crossroads」の約7億円だったが、約週間で10倍に跳ね上がった。
https://www.artnews.com/art-news/market/beeple-makes-69-million-1234586424/

◎オンラインオークションは注目コンテンツに?
クリスティーズでの10日に及んだ当該オンラインオークションは約75億円で最終的に落札されたが、その最後の落札の瞬間をなんと2200万人以上が見ていたとクリスティーズが発表した。オンラインオークションそのものがコンテンツになりつつあるのか。
https://economictimes.indiatimes.com/magazines/panache/a-record-22-mn-people-tuned-in-to-watch-auction-of-beeples-digital-collage/articleshow/81461305.cms

◎話題作品の落札者は誰?
クリスティーズでのBeepleのNFT作品の落札者が、仮想通貨TRONの創設者のジャスティン・サンだと一部報道があったが、彼は最終的に競り負けて、匿名の別の人物が落札したそう。サンはもっと上の金額を入札する用意があったが、ウェブ上でそれが受け付けられなかったと。
https://www.theartnewspaper.com/news/chinese-tech-entrepreneur-lost-beeple-s-nft-when-his-usd60m-bid-was-sniped-and-computer-said-no-when-he-tried-to-pay-usd70m

◎NFTは美術館の救世主になるか
狂乱のNFT、多数の論説が出ている。こちらは、財政難に苦しんでいる美術館がNFTで新たな収益源をつくれるのではとする論。NBAのように、美術館も収蔵作品のデジタルコピーをグッズのように美術館公認のNFTとして売ることを提案。ネックはNFTがベースにしているブロックチェーンのイーサリアムの計算にかかる「ガス」代とよばれる手数料が数百円から高いときには5000円程度かかり、少額のNFT取引に向かないこと。
https://news.artnet.com/opinion/op-ed-digital-collectables-museums-1950808

◎NFTの問題点を指摘
もう一つ、アート業界からのNFT分析記事。NFTの活況の理由として、コロナで人々がデジタルワールドに押し込まれていること、株式市場をはじめとする金融資産が全般的に上がっていること、そしてビットコインなどの暗号通貨の高騰などをあげている。既存の有名作家ではケニー・シャーフがいち早く参入していることも触れられており、高い環境負荷や大きな価格変動などNFTの問題点もうまくまとまっている。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-collectors-nfts

◎NFT作品のコレクターを紹介
クリスティーズのオークションの前の記事ではあるが、やはり高額でBeepleのNFT作品をNifty Gatewayなどで買った二人のコレクターを紹介する記事。想像されたことだが、一人は昔からの暗号通貨の投資家で、もう一人は元クリプトのマイナー(仮想通貨の取引のための計算処理を行う代償に仮想通貨の一部を得る採掘者)。
https://www.artnews.com/art-news/news/nft-early-collector-beeple-1234586132/

メトロピクチャーズに幕

◎時代の変化、ギャラリーの終わり
シンディ・シャーマンが所属するNY、チェルシーにある老舗ギャラリー、メトロピクチャーズが40年の歴史に幕を下ろして今年いっぱいで廃業することを発表。コロナ禍に入ってメジャーな画廊ではガビン・ブラウンに続く2軒目で、大きな反響をもって受け止められている。時代が変わりギャラリービジネスが大型化し、マネジメントの仕事ばかりになったことが理由だという。
https://www.artnews.com/art-news/news/metro-pictures-closing-new-york-gallery-1234585909/

◎シンディ・シャーマンの移籍
メトロピクチャーズギャラリー廃業のニュースが出て、早速、エースのシンディ・シャーマンの移籍先がハウザー&ワースと発表された。
https://www.artnews.com/art-news/news/cindy-sherman-hauser-and-wirth-1234585989/

できごと

◎芸術文化支援に約500億円
バイデン大統領が200兆円を超えるコロナ追加経済対策法に署名し、法案成立したが、そのうちの約500億円は芸術、文化支援に向けられることがわかった。さらにそのうちの6割はパンデミックに関連したプログラムを直接支援する目的に、残りは既存の美術館や文化施設の支援に向けられる予定。
https://news.artnet.com/art-world/stimulus-package-includes-big-bucks-nea-1950807

◎香港・中環地区の活況ふたたび?
香港の地価が下がったことで、一部の中小規模のギャラリーが中環地区のスペースに戻ってきつつあるという。そのエリアの家賃相場は2019年に比べて3割安になっているとのこと。家賃だけでなくデモが盛んであった時期にかかっていた保険が必要なくなったことも影響しているよう。
https://www.scmp.com/lifestyle/arts-culture/article/3124517/hong-kong-art-galleries-priced-out-central-return-commercial

◎大統領が発表した危険な措置
ブラジルの極右大統領ボルソナロが、コロナ抑制のためにロックダウンなどの制限を設けている州には文化予算を出さないという発表をした。
https://news.artnet.com/art-world/jair-bolsonaro-banned-arts-funding-pandemic-measures-1950328

◎テート・モダンのキュレーターが辞職へ
米英4つの美術館でフィリップ・ガストンの大回顧展が企画されていたが、KKKのイメージが含まれていることが誤解を招きかねないとして延期されることが去年10月に決定。その際に、テート・モダンの担当キュレーターが延期の決定を批判したことで職務停止になっていたが、今回退職することが決まった。
https://news.artnet.com/art-world/mark-godfrey-leaving-tate-1950948

◎中国グラフィティ事情
盛り上がる中国でのグラフィティ事情。監視カメラが張り巡らされた中国では、「グラフィティ行為」は難しくなっているが、グラフィティは街の清掃員にすぐ消されるうえ、軽罪として見られていて警察も血眼にはなっていない模様。ただ、それはグラフィティでの政府批判が重罪でリスクが高すぎるため、グラフィティライターが政治色を避けているからだという指摘も。
https://www.scmp.com/lifestyle/arts-culture/article/3124795/graffiti-china-rise-artists-even-profiting-commissions-they

◎「ポスト・ブラックアート」を代表する作家のひとりの作品が所蔵へ
メトロポリタン美術館がラシード・ジョンソンの大型作品を購入することがわかった。エディション作品の所蔵はあったが、ユニークピースははじめて。現在、ジャクソン・ポロック、サム・ギリアム、ジョアン・ミッチェル、デ・クーニングなど大巨匠達と並んで展示中。黒人作家のコレクション増強の一環。
https://www.artnews.com/art-news/news/metropolitan-museum-of-art-rashid-johnson-acquisition-1234586285/

おすすめの本、ビデオ

◎David Zwirnerの父のインタビュー
メガギャラリーDavid Zwirnerの父親も戦後ドイツでギャラリーを創業し、また初のアートフェアArt Cologneの創業者でもあった。彼が自伝を出版したことに合わせてのインタビュー。戦前からユダヤ人がアートの重要なコレクターであったが、ナチスドイツによるホロコーストのあと、戦後かなりの時間がたってもユダヤ人がドイツに来たがらないことで、後発のアートフェアであるスイスのBaselにアートフェアの競争で大きく出遅れたこと、NYにおいても、やはり長い間ドイツの作家を見せるのが大変だったことなど興味深いやりとり。
https://news.artnet.com/art-world/rudolf-zwirner-interview-1949295

◎NYの注目若手作家
NYの若手作家を紹介するart21の最新のビデオはフィレレイ・バエズ(Firelei Báez)。ドミニカ共和国出身で、ドミニカの民間伝承の人物と、有色人種を動物や怪物と関連付けた植民地時代の分類学者への批判、そして女性の身体などをベースにした繊細で特徴的な絵画を制作。NYのジェームス・コーハンギャラリーに所属。
https://art21.org/watch/new-york-close-up/firelei-baez-an-open-horizon-or-the-stillness-of-a-wound/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。