公開日:2021年4月27日

主要美術館がようやく開館へ、オラファー・エリアソンの注目展示、ワクチンを接種して特典ゲットなど:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、4月17日〜23日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「美術館が再開しつつあるアメリカ」「できごと」「アートマーケット」「オススメの展覧会とビデオ」の4項目で紹介する。

アメリカ自然史博物館にある巨大シロナガスクジラの展示模型 出典:Wikimedia Commons(Shank27)

美術館が再開しつつあるアメリカ

◎収容人数制限の緩和へ
ワクチンの接種がすすんできたこともあり、コロナ関連数値が落ちてきたNYで、4月26日から美術館や映画館などの収容人数制限が緩和される。去年8月から開館されている美術館は25%だったものが50%に、今年の3月に25%で再開した映画館は33%まで引き上げられる。
https://gothamist.com/arts-entertainment/ny-museums-zoos-will-increase-50-capacity-movie-theaters-33-april-26th

◎ワクチンを接種して特典ゲット
1回以上ワクチンを接種した人の割合が半数にせまるニューヨーク。これからは接種に無関心な人々、接種を希望しない人々にも接種を喚起していかないといけないフェーズに。人気のあるアメリカ自然史博物館の巨大シロナガスクジラの展示模型の下がワクチン接種会場に。そこでワクチンを受けると特別なステッカーがもらえる。
https://news.artnet.com/art-world/can-get-vaccinated-whale-american-museum-natural-history-1960203

◎主要美術館がようやく開館へ
ワシントンDCローカルのルールではすでに美術館などは開館可能だったが、なかなか重い腰が上がらなかった連邦政府下のスミソニアン。国立航空宇宙博物館やハーシュホーンなど主な博物館や美術館、動物園がやっと来月5月に順次オープンしていくことになった。またスミソニアンに歩調をあわせてナショナルギャラリーも5月14日に開館。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/smithsonian-national-gallery-reopenings/2021/04/22/414b818e-a2ce-11eb-85fc-06664ff4489d_story.html

◎美術館をスーパーマーケットに改装
ロックダウン中のイギリスでは少なくとも5月19日までは美術館などは閉館中。生活必需ビジネスは営業できることに目をつけ、アーティストのCamille Walalaがロンドンのデザイン美術館のミュージアムショップを特別スーパーマーケットに改装してオープン。そこでの売上は収入が減った美術館の予算の一部にあてられる。
https://news.artnet.com/art-world/london-design-museum-supermarket-1960132

◎美術館の虫対策
パンデミックがはじまり閉館になった世界中の美術館では、虫害になやまされているところが多いという。人気がなくなって静かになり暗い美術館は格好の住処になる。LAのゲッティでは、絹や毛の布を食べてしまう蛾が増え、のべ6000時間をかけて対処しているという。意外と原始的な虫よけのトラップから、掃除の仕方など対処の詳細を紹介する記事。
https://www.latimes.com/entertainment-arts/story/2021-04-22/getty-museum-covid-closure-moth-remediation

できごと

◎ピカソ絵画、1枚だけ劣化が激しい理由
ほぼ同時期に描かれ、同じモチーフの4枚のピカソの絵画は、これまで同じ環境におかれてきたが、なぜか1枚だけ劣化が激しかった。スペインの科学省の助成で世界中の専門家を集めた3年間の研究の結果、その1枚だけキャンバスがきつめに編まれ、ベースの膠の層が厚く塗られており、湿気による絵の具の変化により、内部でより大きな圧力がかかったことで、ひび割れにつながっていたことが判明。
https://www.theartnewspaper.com/news/picasso-degradation

◎ストリートアートの保存に技術的な光明
ストリートアート壁画の上にグラフィティが描かれることはよくあることだが、その上から描かれたレイヤーだけを除去する化学技術が開発されたという。これまでも、壁画の上に特別なコーティングをして、その上の落書きを除去しやすくするなどの方法があったが、これは別のアプローチで、さらに壁画の保存などがしやすくなるという。
https://news.artnet.com/art-world/cleaning-vandalized-street-art-1960146

◎ダビデ像の精巧なレプリカ
ミケランジェロのダビデ像のこれまでで一番精巧なレプリカが3Dプリントで制作された。今年10月開催のドバイ万博に展示される。アクリル樹脂で成形され大理石の粉が表面にのせられるもので、実物の10分の1の重さとのこと。
https://www.straitstimes.com/life/arts/michelangelos-david-gets-a-3d-printed-twin

◎アート倉庫業界の統合再編
アート倉庫業界の統合再編がおこっているという。ともにNYベースのライバル。CrozierがロンドンのMartinspeedを買収し、欧米両方の対応ができるようにするのに対し、UOVOがマイアミのMuseo Vaultを買収することでパンデミックなどでNYからフロリダに移住したコレクターへの対応をしていく戦略。
https://www.artnews.com/art-news/news/uovo-buys-museo-vault-1234590549/

◎館長のユニークな住まい
元MoMAのキュレーターで、現LA MOCAの館長であるクラウス・ビーゼンバッハ(Klaus Biesenbach)は、LAの元ミシン工場だったところを空っぽにしてほとんど家具をおかずに1羽のガチョウとたくさんの植物と住んでいるそう。NYのときも、ほとんど家具がない真っ白なダウンタウンのアパートに住んでいたとのこと。
https://www.wmagazine.com/culture/klaus-biesenbach-moca-director-los-angeles-home

アートマーケット

◎380人へのコレクターの調査レポート
ベルリン在住の4人のアート業界者による380人のコレクターへの調査のレポートART + TECH Reportが出ている。8割がオンラインで購入したことがある、サイト上で直接価格を表示することや、またデジタル上だが直接のやりとりでパーソナルな体験を望んでいる人がとても多いなど、興味深いデータがわかりやすいビジュアルとともに表示されるウェブサイト。
https://www.arttechreport.com/

◎ティラヴァーニャの新所属ギャラリー
ギャラリーでカレーを振る舞う作品などで関係性の美学を代表するリクリット・ティラヴァーニャが、ギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーにも所属し、その香港のスペースで展覧会に参加。ニューヨークではこれまで所属していたガビン・ブラウンが廃業になり、代表のブラウン自身がパートナーとしてジョインしたグラッドストーンに移籍したばかり。ツヴィルナー独占ではなく、エリアによって複数のギャラリーと組む戦略か。
https://ocula.com/magazine/art-news/rirkrit-tiravanija-joins-david-zwirner/

オススメの展覧会とビデオ

◎オラファー・エリアソンの注目展示
スイスのバーゼルにあるバイエラー財団美術館ではオラファー・エリアソンが、ビルのガラス窓を取り除くことで外周の池を館内に引き入れたものがそのまま展覧会に。美術館が枠だけになり外に開放した形に。24時間オープン。コロナによるロックダウンで多くの人が屋内にとじこめられた状況に対応した展示だという。いくつかの写真をどうぞ。
https://news.artnet.com/exhibitions/olafur-eliasson-fondation-beyeler-1960155

◎自転車でスタジオをめぐる動画
ポーランドの画家ヴィルヘルム・サスナルがスタジオビジットをユニークに見せるビデオ作品をアントン・カーンギャラリーのvimeoから発表。色々な自転車に乗った作家がスタジオに飾った絵の前を走っていくだけだが、音楽とともになんとなくユーモアがあってひきこまれる。
https://vimeo.com/532408789

Paintings and Bikes from Anton Kern Gallery on Vimeo.

◎ロイ・ホロウェルのドキュメンタリー
Art21の新しいドキュメンタリーは、堕胎、そして出産を経て、自身の身体を抽象絵画に表現してきたロイ・ホロウェル(Loie Hollowell)。どちらかというと身体とは真逆のイメージがあるミニマル作家であるロバート・アーウィン(Robert Irwin)からもインスピレーションを得たというのは興味深い。
https://art21.org/watch/new-york-close-up/loie-hollowells-transcendent-bodies/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。