公開日:2021年9月20日

京都各所で空間と写真の対話に立ち会う。KYOTOGRAPHIE 2021レポート

京都の暮らしに溶けこむ注目フェスティバル(文・写真:原久子)

京都国際写真祭 KYOTOGRAPHIE 2021」が9月18日に開幕した。

2013年から毎年開催されてきたこの催しの今年のテーマは「ECHO(呼応)」だ。私たちが直面する社会状況、世界の動向など様々な部分に真摯に向き合うテーマ設定も緊張感と期待感をもたらしてくれる。感染症予防対策を十分に行い約1ヶ月の間、京都市内の10ヶ所のメインプログラム会場で18組のアーティストの作品を展観。関連企画であるKG+は公募型のフリンジフェスティバルで、53企画を市内各所のギャラリー等で展開する。

KYOTOGRAPHIE インフォメーション ラウンジ&ブックス (三条両替町ビル)

空間へのアプローチ

9回目を迎えるKYOTOGRAPHIEの魅力は、新しい作品との出会いだけでなく、会場となる場、空間と作品との対話に五感を刺激されることでもある。

ホワイトキューブでの展示はほとんどなく、例えば両足院(建仁寺山内)では池泉回遊式庭園を借景に大書院にてトマ・デレーム《Légumineux 菜光》シリーズのヴェルサイユ宮殿で栽培される古代種の素朴な野菜のポートレイトを観ることになる。庭にある茶室では、こちらは長崎雲仙で恵みを得た野菜の種などを記録した八木夕菜《種覚ゆ》の写真を空間とともに味わえる。

会場風景より、トマ・デレーム《Légumineux 菜光》
会場風景より、八木夕菜《種覚ゆ》

室町通りの誉田屋源兵衛の大店商家特有の広間には、ファッションブランドCHANELと創設者ガブリエル・シャネルに着想を得て描かれた白井カイウ&出水ぽすかが描き下ろしたマンガ『miroirs』とロベール・ドアノー、ベニレス・アボット等が撮った往年のシャネルの写真との大胆な交歓は、これまで見たことが無い不思議な躍動感を持つ回顧のあり方が提示されていた。

誉田屋源兵衛外観
会場風景より、MIROIRS – Manga meets CHANEL Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか
会場風景より、MIROIRS – Manga meets CHANEL Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか
会場風景より、MIROIRS – Manga meets CHANEL Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか

井戸水、湧水を一部京都では大切に今も用いているが、水道は隣接する滋賀県の琵琶湖の水は使われる。長い間、琵琶湖の水を引き入れる疏水の役割は、京都の人々の暮らしを支えてきた。“生命の水”の存在が作品づくりの根底にある榮榮&映里(ロンロン&インリ)は、琵琶湖疏水記念館にて展示を行なっている。疏水の心臓部でもあるインクラインドラム工場内のインスタレーションは精霊に導かれるような幻想的な設えの中で、水と共に私たちが生きていることを感じさせてくれる。

会場風景より、榮榮&映里(ロンロン&インリ)《即非京都》
会場風景より、榮榮&映里(ロンロン&インリ)《即非京都》

徳川家康が築城を始め、大政奉還の表明の場となり、その後明治期には皇室の別邸であった二条城では、ECHO of 2011と題し、リシャール・コラス、片桐功敦、ダミアン・ジャレ&JR、小原一真、四代田辺竹雲斎が、東日本大震災とそれに伴う原発事故から10年目にあたり、オマージュとなる作品が見られる予定だ(一部作品は9月20日より。全作品が揃うのは9月23日となる)。

城、寺院、商家、旧銀行など何百年もの時間を目の当たりにしてきた場で、オーディエンスはテーマであるECHOの意味を今一度考え、感じることになる。

多彩なプログラム

展示のみならずアーティストトーク、シンポジウム、上映会、ワークショップ、キッズプログラム、写真集の販売のポップアップストアなど、会期中を通して楽しめる企画が盛りだくさんに用意されている。トークやシンポジウムはライブ配信やアーカイブ配信など、一部オンラインでの視聴も可能なのが嬉しい。ポップアップストアでは、期間を区切って8社の版元が出店。こちらの企画に付随した展示イベントもある。

作品を紹介するだけにとどまらず、作品の背景にある展示をより深く理解するために、写真を写真という狭義の文脈からのみ語るのではなく、民俗学、文化史、社会福祉学他、多角的に論じられる場がつくられているほか、子どもたちへはワークショップだけでなく、「子ども写真コンクール展2021」も開催。フェスティバルをより楽しんでもらうために「KYOTOGRAPHIEキッズパスポート」が配布されている。

作家の発掘と育成

ポートフォリオレビュー(9月18、19日)での作家の育成への寄与だけでなく、公募型の関連企画であるKG+は写真祭と連携し、情報発信されることで、国内外のキュレーターやギャラリストなどとの出会いが提供される。特に、KG+セレクトは審査委員会によって選ばれた9組のアーティストたちが、個展形式の展示を行ない、そこで更にKG+ AWARD2021グランプリが1組選ばれ、次年度の公式プログラムに展覧会参加できる。昨年の受賞者はリャン・インフェイ(Yingfei Liang)で、祇園のSferaで性暴力の被害者への取材を通して、性暴力について問う《傷痕の下》を展示中だ。このように、写真表現の次世代を発掘し、育成することを継続的に実施しようとしている。

リャン・インフェイの展示デザインを担当した山尾エリカも未だキャリアをスタートさせて間もないが、そんな新たな才能の交差もKYOTOGRAPHIEならではの取り組みかもしれない。ほかの会場も島田陽、竹内誠一郎等のような中堅、新鋭の建築家が展示デザインを担当している。

会場風景より、リャン・インフェイ(Yingfei Liang)《傷痕の下》(展示デザイン:山尾エリカ)
会場風景より、リャン・インフェイ(Yingfei Liang)《傷痕の下》(展示デザイン:山尾エリカ)
会場風景より、リャン・インフェイ(Yingfei Liang)《傷痕の下》(展示デザイン:山尾エリカ)

京都の暮らしの中に溶け込む

KYOTOGRAPHIEのイメージカラーは赤、KG+は黄色だ。会場の前にはそれぞれのイメージカラーのフラッグが立てられ、京都の街に点在するこれらの場所で写真を見ながら、京都の街歩きを楽しむことも出来る。京都一のショッピング街河原町のBAL内には展示だけでなく、店舗前にインフォメーションデスクも設けている。

昨年新たな作られたギャラリー、カフェ&レストラン、宿泊施設を併設するDELTAはKYOTOGRAPHIEが持つ常設スペースで、京都御苑に程近い出町桝形商店街の真ん中にある。カフェ内と商店街のアーケードにはンガディ・スマートの作品が並び、同じ商店街にある映画館出町座では上映会も開かれる。

毎年、硬派なテーマを設け挑発的な問題提起を行っているが、大学の多い街でもある京都は教員、学生たちもさまざまな形で参加しており、この試みに刺激を受けている。そして、すっかり京都の暮らしの中にこの祭典が溶け込んでいる。

会場風景より、ンガディ・スマート Ngadi Smart 《ごはんの時間ですよ》(DELTAカフェ内)
会場風景より、ンガディ・スマート Ngadi Smart 《ごはんの時間ですよ》(出町桝形商店街 アーケード)

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021
テーマ「ECHO」(呼応)
会期:2021年9月18日〜10月17日
会場:京都府京都文化博物館別館、二条城二の丸御殿他、出町桝形商店街・DELTA / KYOTOGRAPHIE Permanent Space、琵琶湖疏水記念館(屋外スペース)、両足院(建仁寺山内)、Sfera、HOSOO GALLERY、ASPHODEL、フライングタイガー コペンハーゲン 京都河原町ストア
パスポート:一般4000円、学生2000円(中学生以下無料、障害者手帳を提示された方と同伴者1名無料)
*無料会場あり
*休みが会場ごとに異なるため、事前に必ずMAPを確認のこと
https://www.kyotographie.jp

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