公開日:2022年2月16日

【速報】あいち2022記者会見。奈良美智、塩田千春などアーティスト77組が一挙発表

今年7月30日に開幕する国際芸術祭「あいち2022」。その参加アーティスト77組が本日発表された。愛知県各所を会場に、現代美術、パフォーミングアーツ、そして教育普及事業にあたるラーニングを展開する同フェスティバルは、前身である「あいちトリエンナーレ」を経てどのようなヴィジョンを示すだろうか? 記者会見の様子をお届けする。

ミット・ジャイイン Peopleʼs Wall 2019 Photo by Jim Thompson Foundation Courtesy of the artist and Jim Thompson Foundation

多様な文化的背景と
手仕事に注目する芸術祭

本日、国際芸術祭「あいち2022」の記者会見が愛知芸術文化センターとオンラインで開催された。今回発表されたのは、現代美術部門の参加作家55組。昨年発表済みの22組とあわせ、77組が揃ったかたちだ。今年3月にさらに数名が加わるほか、パフォーミング・アーツ(キュレーター:相馬千秋)とラーニング・プログラム(キュレーター:会田大也、山本高之)の詳細も3月以降に発表されるという。

奈良美智、バリー・マッギー、シアスター・ゲイツ、ガブリエル・オロスコ、塩田千春など、国際的に人気と評価の高いアーティストも多数ラインアップされるが、印象的なのは陶芸や手芸といった手仕事にかかわる創作活動を行う作家、アフリカやアジアなどの先住民族にルーツを持つ作家が積極的に選ばれていることだ。

芸術監督の片岡真実

芸術監督の片岡真実は、会場となる一宮市、常滑市、有松地区における工芸の歴史について触れ「会場となった地域に根付く手仕事の伝統と、世界各地の伝統のあいだでどのような対話が可能かを探りたいと思っている。また、近年の現代アートの世界では先住民の表現、手仕事への再評価も高まっている。その国際的な動向も反映した」と語った。

31の国と地域から参加するアーティストの現時点での男女比は、男性44組、女性32組、コレクティブ1組。全体の約60%が今回のための新作を発表するという。

それでは、会見内で紹介された会場とそれぞれのコンセプト、そして気になった参加作家を紹介していきたい。

象徴としての「STILL ALIVE」
【愛知芸術文化センター】

愛知芸術文化センターは、今回の大きなテーマである「STILL ALIVE(まだ生きている)」を多角的に解釈するための場となる。「STILL ALIVE」は2014年に亡くなった河原温の作品シリーズから取られたタイトルだが、彼が属するコンセプチュアル・アートの源流の探索、モダニズムのヨーロッパ以外の地域での展開、詩などの文字を使った表現、パフォーマンス・アートと現代美術の関係性などが展開するという。

「I AM STILL ALIVE(私はまだ生きている)」と打った電報を世界各地から送る河原温の「STILL ALIVE」シリーズから約60点を展示するほか、コンセプチュアル・アートの作家として人気の高いマルセル・ブロータースの作品も愛知県美術館のエントランス部分で展開される予定だ。河原と同世代の塩見允枝子や、後続する世代の奥村雄樹やローマン・オンダックの作品から、河原が提示した存在や時間の問題について思考を巡らせることもできるだろう。2011年の東日本大震災の経験から言葉を紡ぐ詩人・和合亮一による新作にも注目したい。

河原温 ソル・ルウィットに宛てた電報、1970年2⽉5⽇ 《I am Still Alive》(1970‒2000)より LeWitt Collection, Chester, Connecticut, USA One Million Years Foundation
ローマン・オンダック 事象の地平⾯ (Event Horizon) 2016 オールボー近代美術館蔵 Photo by Andy Keate Courtesy of the artist and Kunsten Museum of Modern Art Aalborg

塩⾒允枝⼦ スペイシャル・ポエム全集/本 1976

パフォーマンスと美術の視点では日本出身の作家の存在感が光る。今回最年少の参加作家となる1996年生まれの小野澤峻は、複数の玉を自在に操るジャグリングの経験を活かしたパフォーマティブなインスタレーションを展示。今年のヴェネチア・ビエンナーレへの参加が決まっている笹本晃は、パフォーマンスとインスタレーションを組み合わせた新作を発表するという。セクシュアリティやジェンダーに関わる規範からの逸脱を扱う百瀬文、巨大な吹き抜けを有する愛知芸術文化センターの建築構造を人体にたとえた新作を発表するミルク倉庫+ココナッツも要チェックだ。

百瀬⽂ Jokanaan 2019 愛知県美術館蔵

ケアと祈り
【一宮市】

織物の街として知られる一宮市では、旧一宮市立中央看護専門学校などを会場に、ケア、祈り、ウェルビーイングといった心のテーマを扱う作品群が登場する。

アール・ブリュットの分野で知られる升山和明は、かつてあったデパートの外観をモチーフにカラフルなコラージュを展示。映画やアニメのキャラクターに自ら扮するシンガポール出身のミン・ウォンは、台湾出身のユ・チェンタとともにコラボレーションユニット西瓜姉妹(ウォーターメロン・シスターズ)を結成し、LGBTQやアイデンティティへの関心をポップに表現するという。そして、オーストラリアの先住民族コミュニティで暮らすケイリーン・ウイスキーは、民族の伝統文化とポップカルチャーを融合させ「みんなで楽しもう!」というメッセージを送るとか。

ケイリーン・ウイスキー セブン・シスターズ・ソング(Seven Sisters Song) 2021 ビクトリア州⽴美術館蔵 Courtesy of the artist, Iwantja Arts and Roslyn Oxley9 Gallery

同エリアでは建築的な楽しみも多い。迎英里子とレオノール・アントゥネスが展示するのは、丹下健三の設計で知られる一宮市尾西生涯学習センター墨会館。2019年の森美術館での個展の記憶が鮮烈な塩田千春は、一宮を象徴する景色である、工場の「のこぎり屋根」からインスパイアされた新作を制作中だ。

塩⽥千春 不確かな旅 2016/2019 個展「魂がふるえる」森美術館、東京 Photo by Sunhi Mang Courtesy of Mori Art Museum JASPAR, Tokyo, 2021 and Chiharu Shiota

陶芸の街と移動の記憶
【常滑市】

平安時代からの焼き物の産地、海運の要衝として知られる常滑市では、「やきもの散歩道」からINAXライブミュージアムへと続くエリアを舞台に、陶芸とアート、産業と労働の関係、移動や、強いられた移住などのグローバルなテーマが扱われる。

ベナン出身のティエリー・ウッスは、綿栽培、奴隷貿易とそこからの自立を扱う作家で、自らが所有するプランテーションで綿を栽培し、それを素材に作品を制作してきた。今回はそれを常滑に持ち込み、愛知の綿の文化との対話を試みるという。今年のヴェネチア・ビエンナーレ参加作家でもあるコロンビア出身のデルシー・モレロスは、はちみつやスパイスでできたクッキーを土に埋め、豊穣を願う先住民の儀式を参照したインスタレーションを展開。2004年に常滑に滞在し、以来何度も同市を訪れているというシアスター・ゲイツは、今回から新しいプロジェクトをスタートするという。田村友一郎など、リサーチから作品を立ち上げる作家たちの多い常滑市。アーティストと地域の関わりから生まれる新たな恵みを楽しみにしたい。

デルシー・モレロス ⼤地 Enie -ウイトト族の⾔葉で- 2018 Photo by Ernesto Monsalve Courtesy of the artist

ともに縫う、手仕事のポテンシャル
【有松地区(名古屋市)】

400年以上続く絞り染めの織物「有松・鳴海絞り」で知られる有松地区。ここでは布を扱う作家や、市民コミュニティに関わる活動を行う作家が目を引く。

ニット、テキスタイル、手芸などの技法を扱う宮田明日鹿は、様々な街のコミュニティの人たちとともに制作を行ってきた。有松でも同様の試みを行っていくという。女性の手仕事や共同作業に関心を抱くのは、マレーシア出身のイー・イランにも通じ、あるいはチェンマイ(タイ)の少数民族出身のミット・ジャイインがつくり出す布製のバナーが街を彩る風景にもつながっていくかもしれない。受け継がれる手仕事の技術やコミュニティは、世代や地域をつなぎつつ、同時にそれを超えていくポテンシャルを秘めている。柔らかな布や生地を通した世界の広がりを感じられる作品と出会えることに期待したい。

宮⽥明⽇⿅ 「こんにちは! 港まち手芸部です。Vol.4」 2021 Photo by 三浦和也 Courtesy of 港まちづくり協議会
ミット・ジャイイン Peopleʼs Wall 2019 Photo by Jim Thompson Foundation Courtesy of the artist and Jim Thompson Foundation

コロナ禍に考えた
「まだ生きている」の意味

「あいち2022」の特徴的な仕組みの一つに、世界各地のアート関係者9名がそれぞれに作家を推薦するキュレトリアル・アドバイザーのシステムがある。記者会見では、日本から唯一参加している美術家の島袋道浩も登壇。芸術祭への想いをこう語った。

20代のときに3年ほど住んでいたり、はじめての美術館での個展が名古屋市美術館だったりと、愛知とは深い縁があります。アドバイザーとして参加できることに感謝しています。

テーマである「STILL ALIVE」については、いろんなことを考えました。コロナ禍でたくさんの人たちが亡くなっていくなか「まだ生きている」とは、どういうことなんだろうか。そのことを念頭に、私は物故作家を積極的に推薦しました。作家は死んでいても、美術作品はまだ生きているからです。

「今、を生き抜くアートのちから」という言葉からも考えました。そのときに思い出したのが、石川竜一さんとコラボレーションしている冒険家の服部文祥さんです。私にとってのアーティストの定義とは「自分で発見したものを、勇気をもって実行する人」のこと。そういう人はアート以外の分野にもいて、自分にとって服部さんはまさにそういう人。他のキュレトリアル・アドバイザーが日本に来れない状況ですが、唯一日本にいる者として、イキイキした姿の作品を紹介していきたい。どんな展示になるか、今からわくわくしています。

「あいち2022」は7月30日から10月10日までの全73日間の開催となる。コロナ禍の時代を経て、どのようなアート、どのような人の営みと出会えるか。期待して待ちたい。

キュレトリアル・アドバイザーの島袋道浩

参加作家リスト(2020年2月15日現在)
※カッコ内、前者は「出身地・結成地」、後者は「活動拠点」を示す

【愛知芸術文化センター会場】
足立智美(日本/ドイツ)
ホダー・アフシャール(イラン/豪州)
リリアナ・アングロ・コルテス(コロンビア/コロンビア)
荒川修作+マドリン・ギンズ(日本・米国/米国)
カデール・アティア(フランス/ドイツ)
ディードリック・ブラッケンズ(米国/米国)
ロバート・ブリア(米国/フランス・米国)
マルセル・ブロータース(ベルギー/ベルギー・ドイツ・英国)
ヤコバス・カポーン(豪州/豪州)
ケイト・クーパー(英国/英国・オランダ)
パブロ・ダヴィラ(メキシコ/メキシコ)
クラウディア・デル・リオ(アルゼンチン/アルゼンチン)
メアリー・ダパラニー(豪州/豪州)
潘逸舟(ハン・イシュ)(中国/日本)
河原温(日本/米国)
バイロン・キム(米国/米国)
岸本清子(日本/日本)
小寺良和(日本/日本)
アンドレ・コマツ(ブラジル/ブラジル)
アブドゥライ・コナテ(マリ/マリ)
ミシェック・マサンヴ(ジンバブエ/ジンバブエ)
三輪美津子(日本/日本)
モハンマド・サーミ(イラク/英国)
百瀬文(日本/日本)
大泉和文(日本/日本)
奥村雄樹(日本/ベルギー・オランダ)
ローマン・オンダック(スロバキア/スロバキア)
小野澤峻(日本/日本)
カズ・オオシロ(日本/米国)
リタ・ポンセ・デ・レオン(ペルー/メキシコ)
ジミー・ロベール(フランス/ドイツ)
ファニー・サニン(コロンビア/米国)
笹本晃(日本/米国)
塩見允枝子(日本/日本)
和合亮一(日本/日本)
渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)(日本/日本) 
横野明日香(日本/日本)

【一宮会場】
レオノール・アントゥネス(ポルトガル/ドイツ)
ローター・バウムガルテン(ドイツ/ドイツ)
曹斐(ツァオ・フェイ)(中国/中国)
遠藤薫(日本/日本)
許家維(シュウ・ジャウェイ)(台湾/台湾)
石黒健一(日本/日本)
ジャッキー・カルティ(ケニア/ケニア)
近藤亜樹(日本/日本)
小杉大介(日本/ノルウェー)
ニャカロ・マレケ(南アフリカ/南アフリカ)
升山和明(日本/日本)
バリー・マッギー(米国/米国)
迎英里子(日本/日本)
奈良美智(日本/日本)
眞田岳彦(日本/日本)
塩田千春(日本/ドイツ)
西瓜姉妹(ウォーターメロン・シスターズ)(台湾・シンガポール/台湾・ドイツ)
ケイリーン・ウイスキー(豪州/豪州)

【常滑会場】
シアスター・ゲイツ(米国/米国)
服部文祥+石川竜一(日本/日本)
ニーカウ・へンディン(ニュージーランド[アオテアロア]/ニュージーランド[アオテアロア]) 
鯉江良二(日本/日本)
黒田大スケ(日本/日本)
グレンダ・レオン(キューバ/スペイン)
デルシー・モレロス(コロンビア/コロンビア)
トゥアン・アンドリュー・グエン(ベトナム/ベトナム)
尾花賢一(日本/日本)
ティエリー・ウッス(ベナン/オランダ)
フロレンシア・サディール(アルゼンチン/アルゼンチン)
田村友一郎(日本/日本)

【有松会場】
AKI INOMATA(日本/日本)
ミット・ジャイイン(タイ/タイ) 
ユキ・キハラ(サモア/サモア)
タニヤ・ルキン・リンクレイター(米国/カナダ)
宮田明日鹿(日本/日本)
ガブリエル・オロスコ(メキシコ/日本・メキシコ)
プリンツ・ゴラーム(ドイツ・レバノン/ドイツ)
イワニ・スケース(豪州/豪州)
イー・イラン(マレーシア/マレーシア)

国際芸術祭「あいち2022」

開催期間:2022年7月30日~10月10日
時間:各展示会場に準ずる
会場:愛知芸術文化センター・一宮市・常滑市・有松地区(名古屋市)など
入場料:【前売りフリーパス】一般2500円、学生1700円/【前売り1DAYパス】一般1500円、学生1000円/【会期中フリーパス】一般3000円、学生2000円/【会期中1DAYパス】一般1800円、学生1200円
※学生は高校生以上。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者一名は無料(チケット不要)。パフォーミングアーツは別途チケットが必要。

https://aichitriennale.jp/

島貫泰介

島貫泰介

美術ライター/編集者。1980年神奈川生まれ。京都・別府在住。『美術手帖』『CINRA.NET』などで執筆・編集・企画を行う。2020年夏にはコロナ禍以降の京都・関西のアート&カルチャーシーンを概観するウェブメディア『ソーシャルディスタンスアートマガジン かもべり』をスタートした。19年には捩子ぴじん(ダンサー)、三枝愛(美術家)とコレクティブリサーチグループを結成。21年よりチーム名を「禹歩(u-ho)」に変え、展示、上演、エディトリアルなど、多様なかたちでのリサーチとアウトプットを継続している。