公開日:2022年5月1日

今月の読みたい本!【5月】アイヌの美術、ホッパー、エコロジー、演劇、坂田阿希子×皆川明の料理本など

アート、映画、デザイン、建築、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『もっと知りたいアイヌの美術』

山崎幸治 著  
東京美術 2000円+税 3月30日発売

「第1部 アイヌ民族の歴史」「第2部 アイヌ民族の美術」から成る本書は、アイヌ民族が日々のくらしのなかで制作し使ってきた「もの」を通して、その造形をみつめ直す入門書。アイヌ絵や蝦夷細工、歌と踊りといった口承文芸から木彫りの熊、民藝運動とのかかわりまで、様々な美術・道具を図版とともに紹介。著書は先住民族の展示、アイヌ工芸の振興、海外アイヌ・コレクションについても研究を行う、北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授。

『芸術する人びとをつくる―美大生の社会学―』

喜始照宣 著
晃洋書房 4600円+税 3月30日発売

教育社会学を専攻する筆者が、「美大生」調査をもとに執筆した1冊。「美大生とはどのような人たちで、かれらはどのような境遇から美大へと進み、どのようなものの見方や考え方を身につけているのか、そして美大とはどのような環境なのか」(「まえがき」より)という疑問から出発し、調査データを社会学的な視点から読み解く。そして日本の教育社会のなかで、芸術家が生み出されていく過程を描き出すことを試みる。

『エドワード・ホッパー作品集』

江崎聡子 著  
東京美術 2800円+税 3月31日発売

いまなお愛され続けるアメリカ美術の巨匠エドワード・ホッパーの最新画集。作品約100点を収録。アメリカ視覚文化、アメリカ美術およびジェンダー研究を研究する気鋭の著者が、「疎外」や「孤独」の観点から語られがちなホッパーに新鮮な視点を吹き込む解説を執筆。

『こどもと大人のためのミュージアム思考』

稲庭彩和子 編著 伊藤達矢、河野佑美、鈴木智香子、渡邊祐子 著
左右社 1800円+税 4月13日発売

子供と大人がともに文化やアートに出会い、楽しむことを応援する「Museum Start あいうえの」は、上野公園近隣に位置する9つの文化施設が合同で行うラーニングプロジェクト。このプロジェクトの詳細を写真とともに記録したのが本書だ。年間に約3千人、これまで約3万人の子供や大人と一緒にモノをじっくり見てきたという学芸員をはじめとする担当者たちによるコラム・論考や、参加者の生の声を収録。さらに一條彰子、山口周、落合陽一のインタビューでは、子供の頃からどのようにミュージアムで学びを得てきたかなども語られていて興味深い。「モノをよく見て思考を深める、ミュージアムならではの体験」=「ミュージアム思考」が開く可能性とは何か、本書を手がかりに考えてみるのもいいだろう。

『演劇の公共圏』

クリストファー・バルミ 著
藤岡阿由未 訳 春風社 3273円+税 4月15日発売

ミュンヘン大学教授、同大学演劇学科長の筆者による演劇論。「公共圏」をキーワードに、古代ギリシャから現代までの民主主義の議論の場において、演劇が「制度」としてどのような役割を果たしてきたのかを論じる。オーストリアで外国人排斥を掲げる極右政党が政権入りしたことを背景に、人々を巻き込み過激なパフォーマンスを行ったクリストフ・シュリンゲンジーフや、ブラックフェイス、SNSと炎上など、現代的な諸問題と深く関わる多様なケーススタディをもとに、演劇・政治・社会の諸相に迫る。

『おいしい景色』

坂田阿希子 皆川明 著
スイッチパブリッシング 2000円+税 4月15日発売 

料理家・坂田阿希子と、デザイナー・皆川明(ミナ ペルホネン)によるとっておきのひと皿。雑誌『SWITCH』の人気連載「おいしい景色」をまとめた本書は、坂田が作るハンバーグやマカロニグラタン、ナポリタンといった多くの人にとって馴染み深い料理に、皆川が自らのコレクションから器を選り出して合わせた、まさに「おいしい景色」の写真でいっぱい。たとえば「たまごサンド/安藤雅信さんの空の器」「鶏の唐揚げ/織部焼二つ菊文の油皿」とタイトルを見るだけでもその組み合わせのこだわりにワクワク。未収録のレシピ全20品も収録。

『低空飛行 この国のかたちへ』

原研哉 著
岩波書店 2300円+税 4月15日発売

現代日本を代表するデザイナー原研哉が日本各地の選りすぐりのスポットを紹介するサイト「低空飛行」。そのブログ連載が単行本に。原自身が場所の選定、写真、動画、文、編集のすべてを手がける「低空飛行」は、「日本の風土や文化などについて咀嚼するための基礎研究のようなもの」と位置づけられ、さらに本書は「そこでの経験を踏まえ、本書では日本の新しい産業ヴィジョンとして観光に焦点を絞り、グローバルな文脈の中で日本が世界に提示し得る価値を探ります」という(ウェブサイトより)。日本の風土について重ねられた思索と、未来への提言が凝縮された1冊。

『フィールド・レコーディング入門:響きのなかで世界と出会う』

柳沢英輔 著
フィルムアート社 2400円+税 4月26日発売 

フィールド・レコーディングは、現代音楽やサウンド・アートの文脈、1960年代末から続くサウンドスケープと環境音楽、90年代では音響派ブームのなかで取り上げられる機会の多かった音楽ジャンルである。同時に、人類学・民族音楽学などの学術の領域での研究手法として、そして電車や野鳥の録音をするような趣味としても広くおこなわれてきた。本著はこうしたフィールド・レコーディングが歩んできた様々な文脈を統合したうえで、その全体像をとらえ直し、歴史、理論、実践方法を知ることができる1冊。フィールド・レコーディングより深く知るためのディスク&ブックガイドや、柳沢英輔×佐々木敦(思考家)×角田俊也(サウンド・アーティスト)による鼎談も収録。

『蓮の暗号 ―〈法華〉から眺める日本文化』

東晋平 著
アートダイバー 2600円+税 4月28日発売 

宮島達男の著書『芸術論』(アートダイバー)の編集者でもある著者による、日本文化論。アニミズムや武士道、禅(ZEN)……そういったキーワードから日本文化が安易に理解したふりをされてしまうことに違和感を持った著者が、今回文化の土台として着目したのが「法華経」だ。「法華思想は過去のものではなく、むしろ現在進行形で日本のアートと文化を貫き、(略)世界に共感と驚きをひろげつつあることを確信した」(エピローグ、P341)。インドと日本をつなぎ、尾形光琳に葛飾北斎、桃山文化や茶の湯、そして宮島達男までを論じる。

『鳥獣戯画研究の最前線』

土屋貴裕 編著
東京美術ピルグリム叢書 3000円+税 4月30日発売 

高山寺に伝わる紙本墨画の絵巻物で、もっとも愛されている国宝と言っても過言ではない「鳥獣人物戯画」。実際には作者も不明で謎多き本作について、日本美術史の未来を担う第一線の若手研究者たちが徹底解明。2007 年から行われた「平成の大修理」後の新知見を踏まえた最新の研究結果が収められている。後半には連続講座、鳥獣戯画研究の最前線パネルディスカッション「徹底討論!鳥獣戯画研究を極める」も収録。

『踊る女と八重桃の花』

長谷川春子 著
共和国 2500円+税 4月30日発売

女性洋画家の先駈けとして知られる長谷川春子(1895〜1967)。その初期の随筆や画業を精選して収録する、没後初の選集。長谷川春子は長姉で劇作家の長谷川時雨のすすめで画家を志し、鏑木清方に日本画を、梅原龍三郎に洋画を学んだ。昭和4年にはフランスへ行きパリで個展開催、女による女のための雑誌『女人芸術』で注目を集め、満州事変、支那事変に際しては特別通信員としてアジア各地の前線へ赴き、太平洋戦争時には女流美術家奉公隊委員長となって活躍。随筆も多く残した。このように当時としては非常に先駆的に活動した長谷川春子とはどのような人物だったのか? 女性作家の歴史的再発見・再評価が様々なかたちで進むいま、その精神に触れる格好の1冊。

『イメージの記憶(かげ): 危機のしるし』

田中純 著
東京大学出版会 4300円+税 4月30日発売

ヨーロッパを中心とした文化史、比較思想史、表象文化論の専門家で、アビ・ヴァールブルクからデヴィッド・ボウイまでを縦横無尽に論じてきた筆者の最新論集。古代から現代までのイメージを、独自の「像即是空、空即是像」たる「かげ」という観念で論じる。「III ホロコースト表象の現在」ではゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》、「V 危機のしるし」では『シン・ゴジラ』からペストまで、現代を考えるうえでも重要な多彩なイメージを扱う。

『新しいエコロジーとアート:「まごつき期」としての人新世』

長谷川祐子 著
以文社  3200円+税 5月9日発売

「人新世」「資本新世」と呼ばれる新しい環境下におけるエコロジーと、現代アートの応答に関するアンソロジー。編著は金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子。本書では地球の存在そのものが危ぶまれる「人新世」をダナ・ハラウェイにならって、SF作家キム・スタンリー・ロビンソンの言葉である「まごつき期 dithering time」として考える。哲学者の篠原雅武や人類学者の石倉敏明、文化研究者の山本浩貴、ブリュノ・ラトゥールによる論考や、『植物の生の哲学』著者エマヌエーレ・コッチャと長谷川祐子の対談などを収録。

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