公開日:2022年9月1日

今月の読みたい本!【9月】戦争と文化、韓国女性映画、アフロフューチャリズム、ポストドラマ演劇、ジェンダーと写真など

アート、映画、デザイン、建築、マンガ、ファッション、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『MAM Documents 004 アレクサンドリアから東京まで:アート、植民地主義、そして絡み合う歴史』

森美術館(企画・発行) 1819円+税 7月20日発売 

2020年12月に森美術館とヒュンダイ・テート・リサーチセンター・トランスナショナルが共催で開催したオンライン型シンポジウムの記録集。アーティストのホー・ツーニェンをはじめ、美術史家、研究者らが登壇した本シンポジウムは、「ポストコロニアル理論を、世界各地の美術館や博物館の周辺で近年注目されている脱植民地主義化(デコロナイゼーション)という観点からさらに掘り下げようとするもの」(片岡真実「イントラダクション」より)。北アフリカから東南アジア、東アジア等における、これまで十分に検証されてこなかった植民地主義の多様な在り方と社会、芸術の関係をときほぐす。本書には各登壇者の発表と、登壇者同士のディスカッション、略歴文献を収録。

『力:美的人間学の根本概念』

クリストフ・メンケ 著
杉山卓史、中村徳仁、吉田敬介 訳 人文書院 3000円+税 7月26日発売

筆者は現代ドイツでもっとも重要とされるフランクフルト学派新世代の思想家。本書は人間にそなわる「力」という観点に立ち、バウムガルテンとカントの美学から、ヘルダー、ニーチェ、フーコーまでの系譜を辿り直す。美学史の刷新を試みる、美的人間学始まりの書。 「美学の最後の言葉は、人間の自由なのである」(本書より)。

『ポストドラマ演劇はいかに政治的か?』

ハンス=ティース・レーマン 著・イラスト
林立騎 訳 白水社 4000円+税 8月3日発売

筆者は今年7月に逝去した演劇学者。1960年代以降のおもに欧⽶の新しい演劇傾向に理論的根拠と⾒取り図を与えた『ポストドラマ演劇』(1999)などで知られ、「ポストドラマ」という概念を創造し国際的に大きな影響をもたらした。本書は日本語版のオリジナル論集で、ブレヒト、ハントケ、イェリネクといったポストドラマ演劇の可能性から「政治的な正しさ」を考える10編を収録。演劇が伝える「内容」だけではなく「形式」の重要さを説く、理論と実践の書。

『戦争と文化:第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相』

大久保恭子 編
三元社 3600円+税 8月16日発売 

第二次世界大戦期において、芸術・文化は政治と緊密な相関関係を結んでいた。そのような戦時下において、それぞれの芸術家はどのような活動を行っていたのか、またフランスにおける文化政策とはどのようなものだったのか。「序章 一九三七年パリ国際博覧会をめぐるフランスの文化政策」「第二次世界大戦期の「フランス性」をめぐる芸術的「地政学」」を執筆した編著者のほか、レミ・ラブリュス、河本真理、松井裕美、礒谷有亮ら6人の美術史研究者による論考を収録。

『石が書く』

ロジェ・カイヨワ 著
菅谷暁 訳 創元社 4200円+税 
8月24日発売

フランスの文学者・批評家であるカイヨワによる、長らく日本語では入手困難となっていた本書が新たな翻訳で刊行。風景石、瑪瑙、セプタリア(亀甲石)といった特異な模様を持つ石は、人々の想像力にどう働きかけてきたのか。石の断面の模様と、抽象芸術が交わる地点とは。「知の巨人」カイヨワが、自らの石コレクションをもとに描き出す。

『ジェンダー写真論 増補版』

笠原美智子 著
里山社 2800円+税 8月25日発売

東京都写真美術館事業企画課長を経て、現在は石橋財団アーティゾン美術館副館長を務める筆者は、1990年代以降、ジェンダーの視点から現代の写真家・美術家の作品を展覧会や執筆活動を通して紹介し続けてきたパイオニア。女性やLGBTQの写真家、現代美術作家たちがどのように社会と対峙したかに迫るテキストをまとめた2018年刊行『ジェンダー写真論 1991-2017』に、新たなテキストを大幅に加えてリニューアルしたのが本書だ。長島有里枝と女性アーティストの状況について振り返る語り下ろし対談「なぜ、私たちは出会えなかったのか。」他、新たな論考や自らの身体の痛みと美術界への本音を綴るエッセイなども収録する充実の増補版。

韓国女性映画 わたしたちの物語

夏目深雪 編
河出書房新社 2250円+税 8月25日

#MeToo運動の高まりとともに、女性監督による作品や多様な女性を描いた作品を多数生み出し、注目を集めている韓国映画。本書はインタビューやコラムを収録し、『私の少女』『お嬢さん』『逃げた女』から最新作『ユンヒへ』まで、躍進する女性監督やシスターフッドを描く女性映画の現在を探る。日本でも人気を誇るペ・ドゥナを「トリックスター」として論じる編著者・夏目深雪のテキストなど、新鮮な視点から韓国映画の新潮流を知ることができるだろう。

『セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を”征服”できるか』

ジェニー・クリーマン 著
安藤 貴子 訳 双葉社 2500円+税 8月25日発売

最新テクノロジーによって21世紀の「性愛」「肉食」「生殖」「自死」はどのように変わるのか。科学と倫理のあいだで揺らぐ生と死をめぐる問いに、華やかなシリコンバレーの起業家たちをはじめとしたプレイヤーを5年にわたって取材した気鋭のジャーナリストが迫る。マーガレット・アトウッドやジョージ・オーウェル、村田紗耶香、カズオ・イシグロ、伊藤計劃、手塚治虫、萩尾望都、スパイク・ジョーンズ、リドリー・スコット、小島秀夫らによるSF小説・映画・ゲーム等で描かれてきた、生命科学や管理社会の果ての世界における人間の可能性に迫る。

アフロフューチャリズム:ブラック・カルチャーと未来の想像力

イターシャ・L・ウォマック 著
押野素子 訳 大和田俊之 解説 フィルムアート社 2400円+税 8月26日発売

オクテイヴィア・E・バトラーからマイルス・デイヴィス、ジャネール・モネイ、マーベルコミックスのブラック・パンサーまで。文学、音楽、映画、美術、コミックスなど、あらゆる表現を横断する「アフロフューチャリズム」という思想について、日本で初めて網羅的に解説する1冊。テクノロジー、未来、宇宙と黒人文化が結びついたムーヴメントである「アフロフューチャリズム」は1992年に批評家マーク・デリーが命名し、現在に至るまだ様々なカルチャーに見ることができる。本書はそのSF的想像力とテクノロジーの精神史に迫る。

『反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』

児玉美月 佐々木敦 著
Pヴァイン 2400円+税 8月31日発売

幅広い芸術分野について批評活動を行う佐々木敦と、映画執筆家・児玉美月による共著。恋愛映画が苦手だというふたりが、日本/海外の映画を恋愛を軸に語りあう。「社会のなかで変化し、多様化してきた恋愛という営み、それをつねに反映してきた数々の恋愛映画」(本書ウェブサイト)とはなんなのか。無声映画時代の名作から、2010年代の日本および海外の映画、『君の膵臓をたべたい』のような人気青春小説や少女マンガ原作、そして2022年の新作まで、幅広い作品が取り上げられている。

【出版社様へ:新刊情報募集】
新刊情報や献本のご送付先については、以下のアドレスまでご連絡ください。
editors@tokyoartbeat.com

Art Beat News

Art Beat News

Art Beat Newsでは、アート・デザインにまつわる国内外の重要なニュースをお伝えしていきます。