公開日:2023年1月12日

今月の読みたい本!【1月】崇高、20世紀美術、映画理論、ギャラリーストーカー、織物、漢字ロゴデザイン

アート、映画、デザイン、建築、マンガ、ファッション、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『織物の世界史 : 人類はどのように紡ぎ、織り、纏ってきたのか』

ソフィ・タンハウザー 著
鳥飼まこと 訳 原書房 3600円+税 12月20日発売

人類がはじめて織物にした繊維である麻や、アメリカの黒人奴隷と綿花産業、中国の代表的輸出品だった絹、羊毛とイギリス、そしてレーヨンをはじめとする化学繊維、さらに現代のファストファッションの問題まで、繊維織物と人間のかかわりの歴史を描く。

『いとをかしき20世紀美術』

筧菜奈子 著
亜紀書房 1600円+税 12月21日発売

マンガとイラストで解説する20世紀美術の入門書。ワシリー・カンディンスキー、マルセル・デュシャン、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、ロバート・スミッソンといったアーティストの生涯と重要作品の時代背景などをわかりやすく紹介する。筆者は現代美術史、装飾史の研究者で、イラスト執筆も手がけている。

『崇高のリミナリティ』

星野太 著
フィルムアート社 2600円+税 12月24日発売

気鋭の美学者である筆者が、「崇高」という概念の今日的な意義について、言語や倫理、政治をはじめとする諸問題にも目を向けながら検討していく実践の書。古代から現代までの約2000年に及ぶ崇高の概念の主要な論点の整理と、現代的な「崇高の美学」の複数の可能性を提示する10の断章からなる序論、池田剛介(美術作家)、岡本源太(美学者・哲学者)、塩津青夏(美術史家・学芸員)、佐藤雄一(詩人)、松浦寿輝(詩人・仏文学者)との5つの対談、さらに崇高の概念を学ぶための50冊のブックガイドを所収。

『映画よさようなら』

佐々木敦 著
フィルムアート社 2600円+税 12月24日発売

批評家として様々な表現ジャンルについて旺盛な文筆活動を行ってきた筆者による最新の映画論集。IMAXのような高解像度フィルムフォーマットやVRといった新たなテクノロジー、動画配信サービス、各種SNSといった映像を見ることができるプラットフォームの登場により、「映画」の定義や境界が曖昧になっている現在。そんな映画の変貌に、「歴史/映画史」「受容/メディア」「倫理/ポリティカル・コレクトネス」といったテーマから切り込む。ペドロ・コスタ、アピチャッポン・ウィーラセタクンといったアートファンにも馴染み深い映像作家から、濱口竜介、深田晃司といった現代の日本を代表する監督の作品論、さらにジャン゠リュック・ゴダール論も、逝去を受けて大幅に加筆のうえ収録。

『映画の理論 : 物理的現実の救済』

ジークフリート・クラカウアー 著
竹峰義和 訳 東京大学出版 8200円+税 12月26日発売

ドイツ出身のジャーナリストで映画学者でもあるジークフリート・クラカウアーの主著である『映画の理論』の本邦初訳。1960年に出版された本書は、映画研究において揺るぎない地位を占めている古典かつ金字塔として知られ、「物理的現実を記録し、開示する」映画媒体を一貫性と包括性をもって探究し、その核心へと迫る内容。

『像をうつす : 複製技術時代の彫刻と写真』

金井直 著
赤々舎 3200円+税 12月29日発売

豊田市美術館学芸員を経て信州大学人文学部教授を務める筆者による、彫刻と写真をめぐる1冊。写真術の発明者のひとりであるトルボットの著作『自然の鉛筆』に触れ、写真と彫刻との関係について論じたテキスト「写真と彫刻、あるいは互恵性」で生じた問題意識を、5年にわたる準備や執筆によって展開した。彫刻と写真、メディウムとしてはまったく異なると考えられるこのふたつの共通性や親和性、相互依存について論じ、美術史の新たな視座を開く。

『亜細亜の漢字ロゴデザイン』

ヴィクショナリー 編
堀口容子 訳 グラフィック社 4200円+税 1月6日発売

漢字を用いた使ったグラフィックス/ロゴデザインの作品集。日本、中国、台湾、香港、韓国の漢字ロゴタイプ、ブランド・アイデンティティ、広告、印刷物などを多数紹介する。中国系および日本人デザイナーへのインタビュー記事や、個性的な新作漢字フォントの活字見本なども掲載。同じ漢字圏といえども、地域によって異なるデザインのセンスや個性を堪能することができるだろう。

『ギャラリーストーカー : 美術業界を蝕む女性差別と性被害』

猪谷千香 著
中央公論新社 1600円+税 1月10日発売

若手女性アーティストを中心に、様々な被害が報告されているギャラリーストーカー。たとえば「自分が支えている」と吹聴し、アーティストに執拗に付きまとうコレクターをはじめ、作家の将来を左右する著名なキュレーター、批評家、美術家など、業界内部の権力者によるハラスメント、性被害も後を絶たない。アート業界の構造やマーケットのあり方がいかにしてハラスメントの温床となっているのか、弁護士ドットコムニュース編集部がその実態に迫り、対策を検討する。

『マスターズ・オブ・ライト[完全版]: アメリカン・シネマの撮影監督たち』

デニス・シェファー、ラリー・サルヴァート 編
髙間賢治、宮本高晴 訳 フィルムアート社 3500円+税 1月26日発売

1988年刊行以来、撮影技術を学ぶ世界中の学生、カメラマン志望者、プロの撮影監督たちのバイブルとして今日まで読み継がれてきた本の、最初の邦訳から35年ぶりとなる新版。旧版では未収録だったビル・バトラー(『ジョーズ/JAWS』)、コンラッド・ホール(『明日に向かって撃て!』)、マリオ・トッシ(『キャリー』)、ビリー・ウイリアムズ(『ガンジー』)の章に加え、新たにジョン・ベイリーによるまえがきを収録。アメリカン・ニューシネマ以後の”映画撮影術の黄金時代”を彩る総勢15名の撮影監督たちの証言から、1900年代後半における撮影技術の進化と変化、制作現場での様々な出来事を知ることができる。

『危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』』

朝日新聞社 編
徳間書店 1700円+税 2月2日発売

新型コロナウイルス感染症、ウクライナ侵略、AI問題、気候変動など、混迷する現代社会を『風の谷のナウシカ』を通して考えるインタビュー集。民俗学者・赤坂憲雄、俳優・杏、社会哲学者・稲葉振一郎、マンガ家・大童澄瞳、映像研究家・叶精二、軍事アナリスト・小泉悠、英文学者・河野真太郎、スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫、マンガ家・竹宮惠子らが登場。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。