公開日:2024年2月29日

第74回「芸術選奨」受賞者を発表。美術は2部門に増え、蔡國強、須藤玲子、石川真生、宮本佳明が大臣賞

「メディア芸術」部門に井上雄彦と田村由美、「大衆芸能」部門に藤井フミヤ、「映画」部門に岩井俊二

蔡國強、石川真生

美術は2部門に増加

2月28日、令和5年度(第74回)芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞が発表された。

「美術A」部門では文部科学大臣賞に蔡國強、須藤玲子、新人賞に安藤正子、大巻伸嗣、「美術B」部門では文部科学大臣賞に石川真生、宮本佳明、新人賞に梅田哲也、西澤徹夫が受賞した。

本賞は、毎年、芸術各分野において優れた業績を挙げた者やその業績によって新生面を開いた者を選奨し、芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞をおくるもの。演劇、映画、音楽、舞踊、文学、美術A、美術B、メディア芸術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論の12部門にて実施。受賞者には賞状と、大臣賞には120万円、新人賞には80万円の賞金が贈られる。

今回からの変更として、美術分野は表現方法の多様化に伴ない、映像、メディアアート、その他新傾向の作家を対象に加え、美術A・美術B部門に区分するかたちで部門が増やされた。

文部科学大臣賞の贈賞理由は以下の通り。

◎蔡國強(現代美術家)
受賞対象:「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」展の成果

国際的に高く評価されている蔡國強氏は、火薬で屏風に描いた作品を発表した1991年の個展「原初火球」展を、その後に展開する各プロジェクトの重要な出発点と位置付けている。本展では、この30年前の作品から近年のネオンを使用したキネティック・ライト・インスタレーションまでを同一会場内に展示し、自身の活動の軌跡と未来への展望を示した。特集展示「蔡國強といわき」は、作家としての形成期を過ごした日本への想いを伝えている。

◎須藤玲子(テキスタイル・デザイナー)
受賞対象:「須藤玲子:NUNOの布づくり」展ほかの成果

布は本来、何かを纏うために作られた素材(支持体)であるが、須藤玲子氏の「布」はそれ自体が綿密に構築された立体造形である。氏は、氏を支えるチームNUNOや各地の工房、職人と共に実験を繰り返し、布そのものを主役に表現の可能性を探る。2.5mの巨大な鯉のぼりを大量に中空に泳がせる一方で、小さな布片をびっしりと並べて体感させる。2019年香港のCHATに始まった個展の欧州凱旋帰国展となる当概展は、日常のささいな発想から生じる過程を、素材、道具、素描、映像、音と布で会場構成した。テキスタイルが、新旧の技術や感性の融合であると同時に人々の生活を護るサスティナブルな社会性の象徴となり得ることを示した。

◎石川真生(写真家)
受賞対象:「石川真生 私に何ができるか」の成果

戦後、アメリカ統治下の沖縄に生まれた石川真生氏は、1970年代から半世紀にわたり、土地と生そのものを沖縄で生きる人間として撮り続けている。人々の生き様が圧倒的な写真の力で生々しく集積された作品群は、国内のみならず国際的にも高い評価を受けている。2023年には、東京では初となる初期代表作から最新作まで一堂に会する大規模個展「石川真生 私に何ができるか」が開催された。2014年からは、琉球国時代から現代までの歴史を紡ぎながら、住民たちとつくりあげる創作写真とも呼ばれる大作のシリーズ「大琉球写真絵巻」に取り組み、闘病の中にあっても写真家として「私に何ができるか」を実践し続けている。

◎宮本佳明(建築家・早稲田大学教授)
受賞対象:「入るかな?はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地」の成果

宝塚市立文化芸術センターでの「入るかな?はみ出ちゃった。〜宮本佳明建築団地」は、宮本佳明氏が設計してきた建築作品群のそれぞれ一部分を実寸大模型で紹介する企画展であった。「震災の記憶」をとどめる「ゼンカイ」ハウスでも知られる氏の「建築とは記憶の器である」という考えは、従来の建築展を大胆かつ創造的に逸脱する手法によって、広く一般の観客に届く魅力を獲得した。建築家としての思想と矜持を柔軟にひらいてみせた姿勢は、説得力を持って評価された。

ほかに、「映画」部門の大臣賞に映画監督・岩井俊二と俳優・佐藤浩市、新人賞に俳優・池松壮亮と映画監督・鶴岡慧子。

「メディア芸術」部門の大臣賞にマンガ家・アニメーション監督・井上雄彦とマンガ家・田村由美、新人賞に株式会社SCRAP 代表取締役社長・加藤隆生とアニメーション作家・和田淳。

画家としても活動する歌手の藤井フミヤは「大衆芸能」部門の大臣賞を受賞。


*石川真生 インタビュー「写真は私の人生すべて」

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