公開日:2022年12月20日

水戸芸術館現代美術ギャラリーで「ケアリング/マザーフッド」展が2023年2月からスタート。「ケアしあう」関係性から社会を見つめる

青木陵子、石内都、出光真子、碓井ゆい、ラグナル・キャルタンソンら15組が出展

二藤建人 誰かの重さを踏みしめる 2016-2021 Courtesy of LEESAYA

誰もが相互に依存しながら生きている社会で

水戸芸術館現代美術ギャラリーで、近年話題になることの多い「ケア」の概念を扱う展覧会「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術―いつ・どこで・だれに・だれが・なぜ・どのように?―」が開催される。会期は2023年2月18日から5月7日

ラグナール・キャルタンソン 私と私の母 2010 Courtesy of the artist and Luhring Augustine, New York, and i8 Gallery, Reykjavík

哲学者のエヴァ・フェダー・キテイが「どんな文化も、依存の要求に逆らっては一世代以上存続することはできない」と述べ、政治学者のジョアン・C・トロントが民主主義におけるケアの概念について「人間はみな脆弱な存在であるからこそ、ケアを受け取り、ケアをするという関係性の中で生きるケアを中心に据えた世界が必要である」と説いているように、様々な社会集団は自分以外に関心を向け、気を配り、世話をし、維持し、あるいは修復するといったケアにかかわる活動の実践と関係性によって支えられている。

しかしながら、生産性や合理性を追求してきた近代社会においては、社会の維持に必要な、ケアする人としてのエッセンシャルワーカーの存在は軽んじられ、長く周縁化されてきた。例えばその一つとしても捉えうるのが、家庭における「母」と言えるかもしれない。ケアは母子関係や家庭内労働に限定されない行為として誰もが当事者であるのはもちろんだが、実態としてケア労働の担い手として多くの割合を占めるのは、いまなお女性だ。そういった問題意識に立って、社会におけるケアを「ひとり」から「つながり」へとひらくことを試みるのが、この展覧会の取り組みと言えるだろう。

展覧会では、1960年代から70年代の第2波フェミニズムの動きに共鳴し、「ケア」に関わる行為を家庭内へと抑圧することに異議を唱えたマーサ・ロスラーミエレル・レーダーマン・ユケレスの初期作品などが出展。

ホン・ヨンイン アンスプリッティング 2019
本間メイ Bodies in Overlooked Pain(見過ごされた痛みにある体) 2020

歴史や政治の中心的存在として語られることのなかった家庭や工場で働く無償または低賃金の労働者に眼を向け、葛藤を抱えながらも互いに意思疎通を図ることで分断を乗り越えようとするホン・ヨンイン。「女性特有の痛みはなぜなくならないのか?」という問いをきっかけに妊娠・出産をする身体と社会や習慣によって植えつけられる痛みの関係を考察する本間メイ

時間と記憶をまとうものとしての「布」をとらえてきた石内都は亡き母と向き合うためその遺品と、子どもの着物に縫い込められた生への祝福や人々の願いへとカメラを向ける。また、マリア・ファーラは、異郷で「目に見えない静かな存在」として社会を支えながら、新たな「つながり」のなかに生きる移民労働者の意志と誇りを、洋の東西を織り交ぜた多彩なスタイルと鮮やかな色彩で描く。

二藤建人 誰かの重さを踏みしめる 2016-2021 Courtesy of LEESAYA
青木陵子 「三者面談で忘れてるNOTEBOOK」(2018)の展示風景 Take Ninagawa、東京 撮影:岡野圭

同展には、このほかにも青木陵子AHA![Archive for Human Activities /人類の営みのためのアーカイブ]出光真子碓井ゆいラグナール・キャルタンソン二藤建人リーゼル・ブリッシュヨアンナ・ライコフスカユン・ソクナムの全15組が登場する。ケアの倫理が提示する、特定の状況や他者とのつながりにおける「自己と他者の境界の曖昧さ」やその過程で生まれる「葛藤」、あるいは自己の変化といった人間の心の機微をとらえた豊かな表現と接する機会となるだろう。

リーゼル・ブリッシュ ゴリラ・ミルク 2020

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