公開日:2023年7月28日

「東京」をアップデートすることは可能か? 小川秀明をクリエイティブディレクターに迎えたCCBTのこれから

東京・渋谷にあるCCBTが「Co-Creative Transformation of Tokyo(CX)〜クリエイティブ×テクノロジーで東京をより良い都市に変える〜」をテーマに、東京を舞台にクリエイティブな社会実験に挑むことを発表。

2023年6月29日の記者懇談会での小川秀明 Photo by Nacása & Partners

CCBTとは何か?

CCBT(シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT])とは、2022年10月に渋谷に誕生した、アートとデジタルテクノロジーを通じて、人々の創造性を社会に発揮する(=シビック・クリエイティブ)ための活動拠点。幅広い年齢を対象に展覧会、ワークショップ、シンポジウムなどをはじめとする多様なイベントを開催し、東京発信でイノベーションを生み出す原動力となることを目指してきた。

CCBTの外観 撮影:ただ(ゆかい)

CCBTを運営する東京都および東京都歴史文化財団は2023年春より、オーストリアのリンツ市を拠点とするアートとテクノロジーのクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)」と事業連携協定を締結。アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの共同代表である小川秀明を、CCBTのクリエイティブディレクターとして迎えた。

シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]アート・インキュベーション・プログラム 浅見和彦+ゴッドスコーピオン+吉田山「AUGMENTED SITUATION D」 撮影:ただ(ゆかい)

変容のエンジンになるための活動

クリエイティブディレクター就任に際して小川は、CCBTではDX(デジタル技術を社会に浸透させること)にクリエイティブを接合し、人間とは何か?社会とは何か?を問いかけながら東京の都市課題と最先端の創造性を衝突させ、Art for Society(社会のためのアート)の視点からプログラムを展開すると表明。CCBTが変容のためのエンジンとなることを目指している。

たとえばCXの象徴的なプログラムである「アート・インキュベーション」プログラムでは、2期目となる2023年度はAI、Web3、音楽表現・パフォーミングアーツ、ダイバーシティ&インクルージョン、市民参画プロジェクトの5つのテーマで公募を行い、各テーマで上限1000万円の制作費を支援。100組を超えるエントリーからTMPR(岩沢兄弟+堀川淳一郎+美山有+中田一会)、Synflux、contact Gonzo、SnoezeLab.、ELECTRONICOS FANTASTICOS!の5組が選ばれた

さらに「シビック・クリエイティブ」を醸成するために、誰もが参加できるプログラムを展開。様々な課題に対し、未来思考の知識や技術を身につけるためのプログラムを提供し、参加者がそれぞれの行動と思考をアップデートすることで社会を変えていく。

アーティスト・フェローによるワークショップ「Deviation Game ーAIと競争&共創する」(Tomo Kihara+Playfool) 撮影:ただ(ゆかい)

東京を未来の実験区にするために

6月下旬には小川による戦略発表とシンポジウムが行われ、記者懇談会で「Tokyo, Laboratory of the Futures」というコンセプトが発表された。小川は、東京という都市をとらえ直し、街を未来の実験区として複数形の「Futures」を探ることを提案。予測不能な未来を創造的に描くため、市民や世界中のクリエイター・企業が集まり、東京の新しい風景をともに考え、「クリエイティブ×テクノロジーで東京を良い都市(まち)に変えたい」と話した。記者懇談会全編はYouTubeで公開中だ。

2023年6月29日の記者懇談会での小川秀明 Photo by Nacása & Partners

東京をもっとクリエイティブに、もっと良くするには?

同日に行われたシンポジウムは、小川がモデレーターを務め、宮坂学(東京都副知事/CCBTスーパーバイザー)、内田まほろ(一般財団法人JR東日本文化創造財団 TAKANAWA GATEWAY CITY 文化創造棟準備室室長)、市原えつこ(アーティスト、妄想インベンター)が登壇。それぞれ以下のように語った。

2023年6月29日に行われたシンポジウムより。左から小川秀明、宮坂学、内田まほろ、市原えつこ Photo by Nacása & Partners

宮坂は「テクノロジーは生活を便利にするもの。デザインは生活を豊かにし、アートは心を豊かにするものだと思っています。テクノロジーとクリエイティビティがつながることで、都市は潤いを手に入れます。DXとCXを近づけ、行政にもアートやデザインの考え方を取り入れる必要があります」として、東京に「参加できる人」をどう増やせるかはつねに考えていきたいテーマであると語った。

2023年6月29日に行われたシンポジウムより。左から小川秀明、宮坂学 Photo by Nacása & Partners

「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプトに2025年にオープンするTAKANAWA GATEWAY CITYの開発および文化創造棟の開館準備に携わる内田は、「鉄道の始まりの場であった高輪から、未来へ文化をつなぐ、日本らしい伝統を更新する場所を目指しています。東京だけでなく、日本や世界をどうフィジカルに超えていくか。未来だけでなくどれだけ過去を参照できるか。時間と空間をどれだけ広げられるかが未来を考えることにつながります」として、CCBTの活動とも共鳴するTAKANAWA GATEWAY CITYのコンセプトを話した。

2023年6月29日に行われたシンポジウムより。左から内田まほろ、市原えつこ Photo by Nacása & Partners

この日、会場を沸かせたのは市原が発言した、アートは「未来への予防接種」というキーワード。これまで日本の民間信仰とデジタルテクノロジーを融合させたコミュニティ横断型の作品を手がけ、アルスエレクトロニカで賞を受賞したこともある市原は「まったく予測できない未来への耐性をつける存在として、アートがあるのではないでしょうか。東京は日本のなかでもクリエイティブが発達している街です。だからこそ、もっとより良い東京にしていくための問いが必要なのではないでしょうか」として、問うことの重要性を強調した。シンポジウムの様子もYouTubeで公開されているため、気になる方はチェックしてほしい。

コロナ禍や経済低迷で閉塞感が漂う日本。そんななかでも各々が思考を活性化し、新たな未来へのヴィジョンを描くためにもCCBTの活動は注目すべきものだと言えるだろう。

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