最終更新:2022年2月17日

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が森美術館でついに開幕! 独自の方法で社会に介入してきた17年の軌跡とは

「公共」の概念を鑑賞者とともに考える、現在進行形のプロジェクトとしての展覧会をレポート。

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場にて、Chim↑Pomメンバー(左より、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求、エリイ、卯城竜太) 撮影:西田香織

回顧展であり、新たなプロジェクトでもある

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」森美術館で2月18日に開幕する。会期は5月29日まで。

2005年に結成されたChim↑Pomは、エリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求の6人によるアーティスト・コレクティヴ。様々な方法で社会に介入するプロジェクトを国内外で発表し、大きな注目を集めてきた。本展は、Chim↑Pomのこれまでの活動を網羅的に見せる、最大の回顧展となる。企画担当は近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)。

会場入口。左が「くらいんぐみゅーじあむ」

森美術館館長の片岡真実は、記者会見で本展について以下のように説明する。
「森美術館はこれまで日本及びアジアの中堅作家の活動を網羅的に見せる個展を開催してきており、本展もその一環です。Chim↑Pomはその体当たりな方法が時に物議を醸してきたが、本展ではそういった面も改めて展示で見せる工夫をしている。コロナ禍などを経て様々な分断が浮き彫りになったこの時期に本展を開催するのは、まさに時機を得たもの。ひとつ劇薬のような作品もあるが、Chim↑Pomが目指しているものを皆さんにお伝えできればと考えています」。

近藤はChim↑Pomについて「卓越したアイデアをもとにそれを実行・実現する行動力や、ユーモアや皮肉を含めたメッセージ力を持ち、アートシーンで独自のポジションにある」と紹介。東日本大震災以降、社会的な活動を行うアーティストが増えたという文脈や、近年は国際的な活躍が目覚ましいという点でも、本展開催は的確なタイミングだと説明した。

東京や広島、東日本大震災の被災地などを舞台に、Chim↑Pomがアーティストとして行ってきた社会への介入。それは、予期せぬかたちで人々の前に現れ、賞賛とともに困惑や軋轢を生み出したこともあった。ときに全力の悪ふざけのような過激さでもって意図的に既成概念や社会構造に挑戦してきたChim↑Pomが、大企業が管理運営する国内有数の美術館で個展を行うとなれば、そのプロセスにおいて両者に様々な折衝があったことは想像に難くない。だからこそ、本展がどのような実践の場として立ち現れるのか、多くの人々が開幕を心待ちにしていることも事実だろう。内覧会に参加するプレスの数の多さからも、Chim↑Pomへの社会的な関心の高さが感じられた。

Chim↑Pomメンバー(左より、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求、エリイ、卯城竜太) 撮影:西田香織

本展は、10のセクションと共同プロジェクト・スペースで構成される。セクションは、「都市と公共性」「道」「Don’t Follow the Wind」「ヒロシマ」「東日本大震災」「ジ・アザ―・サイド(向こう側)」「May, 2020, Tokyo」「エリイ」「金三昧」「くらいんぐみゅーじあむ」で、Chim↑Pomがこれまで継続的に取り組んできたテーマや現在の問題意識を反映している。

そして本展の大きな特徴は、森美術館の外にサテライト会場のようなかたちで「ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペース」が用意されていること。これは、本展準備期間中に作家と美術館のあいだで生じた立場や見解の相違をきっかけとし、表現の自由をはじめとする社会的課題について専門家を招いて語り合うことを目的に作られたスペース。また3作品の展示も行われている。場所は美術館から30分ほどの距離で、訪れるには森美術館特設カウンターでの申し込みが必要だ(詳細は公式サイト参照)。

ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペース 外観

「これまで僕が見てきた森美術館の展覧会のなかでも、相当にチャレンジングな展示になったと思う」と語るのは、メンバーの卯城だ。「本展は美術館との対話があって実現した。(展覧会のキャッチコピーで)『日本で最もラディカルなアーティスト・コレクティブ』と書かれていて、『そうかな?』と自分では思うんですけど(笑)。今回、共犯関係を結べたのは森美術館だからだと思っているし、感謝しています。この展覧会は回顧展ではあるけど、それがひとつのプロジェクトになるといいなと考えています」。

二層構造、驚きの展示空間

それでは森美術館内の見どころをダイジェストで紹介したい。

まず会場を訪れて最初に目に入るのは、「くらいんぐみゅーじあむ」という託児所だ。メンバーに子供ができことも大きなきっかけとなり、子連れで外出する際に経験する様々なバリアから着想を得て始動したプロジェクト。運営資金はクラウドファンディングを実施して調達する。リターンにはオリジナルのぬり絵なども用意されているので、ぜひサイトを確認してほしい。

会場風景より、「くらいんぐみゅーじあむ」
会場風景より、「くらいんぐみゅーじあむ」

会場に入ると、いつもの森美術館とはまったく違う、アンダーグラウンドな雰囲気の風景が広がっていて驚く。「都市と公共性」をテーマにしたセクションは、鉄管などによって二層構造になった会場内を鑑賞者が歩くことになる。ここでは、殺鼠剤への耐性を得て都市を生き抜くネズミの姿に自身の姿を重ねたChim↑Pomの代名詞的作品「スーパーラット」の最新版や、カラスの仲間を呼び集めるゲリラアクション《BLACK OF DEATH》(2007/2013)といった初期の代表作を見ることができる。

会場風景より「都市と公共性」の展示
会場風景より、《スーパーラット ハッピースプリング》(2022)
会場風景より、《ブラック・オブ・デス》(2007)

スーパーラットのオリジナルは、捕獲したネズミの剥製に、ピカチュウを模した着彩を施したものだった。卯城は、「今回はオリジナルのデザインでは美術館で展示できないという判断を迫られた」とその内実を明かす。「美術館は努力してくれたが、結果において表現の自由が損なわれたのではないかと考えている。ただ、美術館との対立を見せるだけではなく、共同プロジェクト・スペースでどういったことができるか探っていきたい」。

会場風景より、《ビルバーガー》(2016/2018)

会場風景より、「都市と公共性」の展示
会場風景より、「都市と公共性」の展示

また東京オリンピックを目前に再開発が進む東京の姿を照射した「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」(2016-17)や、《道》(2017-18)、「酔いどれパンデミック」(2019-20)など、都市における公共性を探る近年のプロジェクトも紹介。巨大ゴミ袋に入って自分もゴミになれるという《ゴールド・エクスペリエンス》(2012)も二層構造を突き破るようにして出現、異様な存在感を放っている。

会場風景より、《酔いどれパンデミック》(2019-20)
会場風景より「都市と公共性」の展示
会場風景より「都市と公共性」の展示
会場風景より《ゴールド・エクスペリエンス》(2012)

そして下部空間から階段やスロープを使い上部空間へ。床面が黒いアスファルトで舗装され、広々とした空間が広がるこの「道」セクションは、「今回の目玉のひとつとして、美術館内に道を出現させる」(近藤)という大規模なサイトスペシフィック・インスタレーション。建築家の周防貴之とともに構想・制作された。

Chim↑Pomはこれまでも道というものの公共性をめぐり、国内外で挑戦的なプロジェクトを行ってきた。本展会期中にはこの「道」で様々なゲストを招き、イベントやハプニングが行われる予定だという。内覧会時にはまだプレーンな状態だが、これから鑑賞者とともにこの場所を「育てていく」のだ。

会場風景より「道」の展示

卯城は語る。「美術館にとっては難しい問題だが、美術館の既存のルールや運営方法を問うてみたいという気持ちがありました。美術館に公共性があるのか、この2年間ほど考えてきた。道はそのメタファーになっています。Chim↑Pomのメンバーはこれまでアーティストランスペースを運営してきた経験がありますが、今回は最大規模の美術館との協働。社会や世界にどのように個人が関わっていくことができるのか、それらは誰によって運営されていくべきなのか、美術館が人々にどのように使われているのか。僕たちのプロジェクトが世界にとってサンプルになればいい」。

またChim↑Pomはメンバー自身が文字通り体を張ることで、身体のありようや他者との関係をあぶり出す作品も制作してきた。2009年にはメンバーの稲岡が断食を行い「即身仏」になろうとするプロジェクトが行われ、鑑賞者に見守られながら18キロも減量。その姿をアーティストの西尾康之が彫刻化した。

また《ERIGERO(エリゲロ)》(2005)は、一気飲みコールで煽り煽られながら、エリイがピンクの液体を飲んでは吐くという行為を繰り返す初期のパフォーマンスだ。

会場風景より、西尾康之《稲岡展示居士》(2009)
会場風景より、《ERIGERO》(2005)

災害、平和、境界

東京の街を眼下に眺める展示室では、「Don’t Follow the Wind」を紹介。このプロジェクトはChim↑Pomが発案し、12組の作家が参加。2015年から現在まで、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射能で汚染された福島県の帰還困難区域内で開催されている。つまり“観に行くことができない”展覧会だ。本展ではサウンドインスタレーションとともに、“ここ”から遠く離れた福島へと、来館者の想像をうながす。

会場風景より、「Don’t Follow the Wind」の展示

折り鶴がうずたかく積まれた巨大な山──《パビリオン》(2013-)が出迎える「ヒロシマ」のセクションだ。「ヒロシマ」は2008年頃からChim↑Pomが継続的に取り組んでいるテーマ。《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009)は、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた作品で、現代の日本社会における「平和」への無関心を戯画的に表現したものだったが、同地で大きな議論を呼んだ。Chim↑Pomは被爆者とその関係者に対して事前告知の不徹底を謝罪し、その後はさらなる対話を重ね、市民たちと協働してきた。ここでは映像作品のほか、折り鶴とそのリサイクルにまつわる作品や、原爆の残り火を絵画のように展示する《ウィー・ドント・ノウ・ゴッド》(2018)などが展示されている。

会場風景より、《パビリオン》(2013-)
会場風景より、「ヒロシマ」の展示
会場風景より、「ヒロシマ」の展示

「東日本大震災」のセクションでは、2011年大震災発生直後から、Chim↑Pomが行ってきた震災と津波、原発事故に関する様々なプロジェクトを紹介。渋谷駅にある岡本太郎の壁画《明日の神話》の右下に、福島第一原子力発電所の事故を描いた絵をゲリラ的に設置した《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》(2011)などがある。

会場風景より、「東日本大震災」の展示

「ジ・アザー・サイド(向こう側)」は、2014年に始まったアメリカ-メキシコ間の国境問題をテーマとしたプロジェクト。メキシコにある国境沿いのスラム地域を訪れ、同地の人々の協力を得て国境の壁のすぐ横にツリー・ハウス「USA ビジター・センター」を制作。本展ではこのツリーハウスの再現展示が行われる。国境や、都市の表面と暗部、「Don’t Follow the Wind」での帰還困難区域、そしてコロナ禍での「夜の街」など、Chim↑Pomは「境界」という主題を繰り返し問うてきたと言えるだろう。

会場風景より、「ジ・アザー・サイド(向こう側)」の展示
会場風景より、「ジ・アザー・サイド(向こう側)」の展示
《USAビジターセンター》(「ジ・アザ―・サイド」プロジェクトより) 2017 ジークレープリント 札幌宮の森美術館蔵 Courtesy of ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京) 撮影:松田 修

次の展示室には「May, 2020, Tokyo」という2020年5月の緊急事態宣言下の東京で行われたプロジェクトのセクション、そしてメンバーのエリイに焦点を当てた「エリイ」のセクションが続く。

会場風景より、「May, 2020, Tokyo」の展示

エリイは自身の結婚に際し、デモ申請をしたうえで東京の路上で大々的な結婚パレードを行うといった意表を突く方法で、結婚制度やそれにまつわるイメージを撹乱した。そのときの自身や参加者を書き割りとして表現した展示は圧巻だ。

会場風景より「エリイ」の展示

また海外セレブが発展途上国へのチャリティを行う様をパロディ的に扱いながら、実際に地雷爆破と寄付を行った初期のプロジェクト「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」の展示や、今年刊行した単著『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』(新潮社)の一部を朗読し、死と生への深い考察へと鑑賞者を誘う展示などがある。

会場風景より、「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」(2007)の展示
会場風景より、《サン》(2022)
会場風景より、《サン》(2022)

展示室を出ると、いつもミュージアムショップがある場所に、「金三昧」セクションが展開されている。オリジナルデザイングッズや、どこかナンセンスで使用価値を試すような実験的な「商品」や「作品」を独自で開発・販売するショップのプロジェクトだ。メンバーが移動のために使用してきた「Chim↑Pomカー」も搬入されており、「今後販売する予定」(近藤)だという。

会場風景より、「金三昧」の展示

メンバー、盟友、鑑賞者で育てる展覧会

記者会見で印象的だったのは、建築やデザインの担当者をはじめ、本展に携わった人々の名前を卯城が次々と読み上げた場面。そして「こういう盟友に囲まれてやっているのがChim↑Pomらしいなと思う。これまで様々な人々と協働してきたが、今回はコレクティヴィズムを実感できる展覧会になっているのではないかと思います」と、集団でものごとを作り上げるChim↑Pomのスタイルに言及。「道を育てるプロジェクトで、協働がさらに(鑑賞者も含めて)開かれていけばいいなと思っています」と締めくくった。

本展のタイトルを考案したというエリイも、「(一度)見て終わりではなく、道が変わっていくので、何度も来てほしいです」と語った。

ここから本展がどのように育ち、公共や自由といった現代を生き延びるうえで切実なテーマについて議論が展開されるのか、心から期待したい。

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福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て 、2021年10月より現職。

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