最終更新:2022年3月24日

国内初、カラーフィールド代表作が集結。DIC川村記念美術館「カラーフィールド色の海を泳ぐ」展レポート

カナダのデイヴィッド・マーヴィッシュ・ギャラリーから約40点が初来日。巨大なキャンバスに描かれた色彩と、じっくり向き合う。

会場風景より、左からフリーデル・ズーバス《捕らわれたフェニックス》(1982)、《アルタモント》(1974)

カラーフィールド・ペインティングの作品が約50点が集う、国内初の展覧会「カラーフィールド色の海を泳ぐ」展がDIC川村記念美術館で開催されている。会期は9月4日まで。

会場風景より、アンソニー・カロ《赤いしぶき》(1966)

カラーフィールド・ペインティング(以下、カラーフィールド)は1950年代から60年代にかけてアメリカで発展した抽象絵画の動向。巨大なキャンバスに、色彩(=カラー)を用いて、場(=フィールド)を描く作風を指す。もともとは批評家クレメント・グリーンバーグがバーネット・ニューマンの絵画を評するために用いた言葉であったが、色彩を強調した抽象絵画に広く使われることになった。

今回の展覧会のために、世界有数のカラーフィールド作品のコレクションを誇るカナダのデイヴィッド・マーヴィッシュ・ギャラリーからおよそ40点が初来日。DIC川村記念美術館のコレクションも交えた約50点で展覧会が構成された。以降では展覧会の章立てに従いつつ、作家ごとに紹介していこう。

1. 色の形

第1章「色の形」では、主に作品の〈形〉に関心を持った作家3人が紹介される。もちろん〈形〉と一口にいっても、作家の関心や作風は大きく異なる。だが少なくとも、彼らは〈形〉を追求した作家であり、そのために色を利用したという点では共通していよう。

ジャック・ブッシュはカナダ出身の画家。《赤い柱 #2》(1963)や《はためく旗》(1968)といったタイトルが示すように、日常のなかで目に留まったものから着想を得て制作していた。キャンバスに広がる暖かい色味が目を引く。

ブッシュの絵画が実在するモチーフを想像させるいっぽうで、ケネス・ノーランドとフランク・ステラの作品からは〈形〉それ自体、すなわち幾何学への強い関心が伺える。

ケネス・ノーランドはキャリア初期の作品《あれ》(1958-59)や《春の涼しさ》(1962)では同心円を描いていたが、その後モチーフはV字型、帯状へと変化。《向ける》(1976)ではキャンバスが変形し、ついに《扉ー内と外》(1987)では描かれる支持体がキャンバスではなくなる。

会場風景より、左からケネス・ノーランド《あれ》(1958-59)、《春の涼しさ》(1962)、《馬車》(1964)
会場風景より、左からケネス・ノーランド《中線を超えて Ⅰ》(1968)、《向ける》(1976)、《扉ー内と外》(1987)

第二次大戦後の代表的な抽象画家として知られるフランク・ステラもまた、キャンバスを長方形に限定しない。ステラがストライプへ強い関心を抱いていたことが伺える《トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)》(1959)《タンパ》(1963)《デード・シティ》(1963)において、キャンバスの形状はストライプの方向に従っている。後年の《モールトンヴィル Ⅱ》(1963)《モールトンボロー Ⅱ》(1966)ではストライプは消え、キャンバスは色分けされた多角形や直線の構成に従って変形されている。

アンソニー・カロはカラーフィールドの画家と交流を持った彫刻家だ。溶接した鉄で構成され、ヴィヴィッドに色付けされた抽象彫刻で知られている。本展では、ホワイエ、1章、2章に合わせて4点が配されている。

会場風景より、手前はアンソニー・カロ《交差》(1965)、奥は左からフランク・ステラ《モールトンヴィル Ⅱ》(1966)、《モールトンボロー Ⅱ》(1966)、《デード・シティ》(1963)、《タンパ》(1963)、《トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)》(1959)

2. 色と技法

第2章「色と技法」では、カラーフィールドの画家たちの描き方に焦点が当てられる。

カラーフィールドが抽象絵画の動向である以上、絵を見るだけでは主題が判然としないものも多い。「何を描くか」というより、「いかに描くか」に作風の違いが表出することは、必然だろう。本章で紹介される4作家の技法に注目すると、その違いは絵画の〈運動性〉に関わることになる。

まずはステイニングという、絵具をキャンバスに染み込ませる技法によって、静的な印象を与える2人の作家を見ていこう。

ヘレン・フランケンサーラーはアメリカの抽象表現主義で活躍した女性画家。ステイニングの発案者である彼女の作品は、制御できない絵具の浸透を用いることで、実在する風景のような郷愁を感じさせる。

会場風景より、手前はアンソニー・カロ《三つ葉》(1968)、奥は左からヘレン・フランケンサーラー《アンワインド》(1972)、《ドライビング・イースト》(2002)

フランケンサーラーの影響を受け、ステイニングを用いたモーリス・ルイスの絵画はより柔らかな印象を与える。《無題(イタリアン・ヴェール)》(1960)は、画面に広がる黒の背後に、様々な色が染み込んだ形跡がある。キャンバスに浸透した絵具は量感がなくなり、感光したフィルム写真のような淡さを見せる。

モーリス・ルイス 無題(イタリアン・ヴェール) 1960 マグナ(アクリル)、カンヴァス 190.5 x 243.8cm オードリー & デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵
会場風景より、左手前からモーリス・ルイス《秋の終わり》(1960)、《無題(イタリアン・ヴェール)》(1960)、《ギメル》(1958)

ステイニングの作家が穏やかでゆったりとした印象を与えるいっぽうで、色が躍動感に満ちた作品もある。

フリーデル・ズーバスは新素材のアクリル絵具マグナを用いた画家。展覧会ポスターにも起用されている《捕らわれたフェニックス》(1982)は、暖色の筆跡がフェニックスの跳躍を思わせる。画面左側や右下部の寒色は海や空だろうか。タイトルも相まって、抽象画でありながらもわずかに主題を見出すこともできる。

会場風景より、左からフリーデル・ズーバス《捕らわれたフェニックス》(1982)、《アルタモント》(1974)

筆跡の躍動感が特徴的なズーバスに対して、ラリー・プーンズは異なる技法でダイナミクスを演出した。《雨のレース》(1972)は絵具が乾く過程で生じるひび割れや、絵具を投げつけてできる飛沫や滴りを利用した作品。《レグルス》(1985)では絵具の量感が際立つ。躍動感を超えて、むしろ生物の粘液のような、グロテスクさすら感じさせる。

ラリー・ブーンズ 雨のレース 1972 オードリー & デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵 © Larry Poons / VAGA at ARS, NY / JASPAR, Tokyo 2022 G2749
会場風景より、左奥はジュールズ・オリツキー《高み》(1966)、右手前はラリー・プーンズ《レグルス》(1985)

3. 色から光へ

最後のセクションで紹介されるのはロシア出身、アメリカで活動したジュールズ・オリツキー。技法と道具を駆使することで色の問題に徹底的に向き合った画家だ。絵具を混ぜ合わせると明度が下がり黒に近づくのに対して、光は混ぜ合わせると白くなる。オリツキーは着彩の研究の果てに、物質性が削がれた光を思わせる絵画を実現した。

《高み》(1966)は工業用のスプレーガンを用いることで、霞が漂うような印象を与える作品。メタリック絵具が使用された《呼びかけ》(1984)や《アントニーとクレオパトラ》(1989)は地球上の風景を離れ、宇宙から惑星の地表を見下ろしているかのようだ。

ジュールズ・オリツキー 高み 1966 オードリー & デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵 © Jules Olitski / VAGA at ARS, NY / JASPAR, Tokyo 2022 G2749
会場風景より、左からジュールズ・オリツキー《オーディネーション・コマンド》(1983)、《アントニーとクレオパトラ》(1989)

美術史のなかでは「カラーフィールド」とまとめられている作品であっても、作家の関心や技法に注目するとその印象は大きく異なるだろう。いま一度、展覧会タイトルに付された「色の海を泳ぐ」を思い出してみよう。本展はカラーフィールドの大きなキャンバスのなかを、あるいはキャンバスから隣のキャンバスへ、遊泳するようにじっくり眺めることができるこの上ないチャンス。ぜひ訪れておきたい展覧会だ。


AD

浅見悠吾(編集部インターン)

浅見悠吾(編集部インターン)

1999年千葉県生まれ。2021年6月からTokyo Art Beat エディターインターン。現代美術を中心に勉強中。現在、東京工業大学大学院在籍。

AD

AD