公開日:2023年11月30日

清澄白河、最新アートガイド。緑豊かな清澄庭園からスタートし7軒のギャラリーを訪ねる

清澄白河を中心に、ギャラリーを巡るアートな1日

東京都現代美術館

コーヒーとアートで知られる街、清澄白河。アートを目当てに、エリアの中心地である東京都現代美術館に友人や恋人と足を運ぶも多いかもしれませんが、周辺には魅力的なギャラリーも点在しています。今回は、清澄白河駅から出発し東京都現代美術館へと向かい、菊川駅方面へと抜けるルートで周辺のギャラリーを紹介していきます。

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*都内のエリア別アートガイド記事の一覧はこちらをチェック

HARMAS GALLERY(アルマスギャラリー)

清澄白河駅降りてすぐ、四季折々の野鳥や緑を眺めることができる清澄庭園を横目に、隅田川の方へ。路地裏の住宅地に、ひっそりと構えているのがHARMAS GALLERYです。

フランス語の方言で「荒れ地」を意味する言葉「HARMAS(アルマス)」が冠されたギャラリーは、荒涼とした現実の世界において残っていくべき作品を制作し、美術に対し真摯な態度で挑む作家を扱うことがコンセプト。これまで、東美貴子、片山真妃、今野健太、中村太一、永井天陽、野村和弘、原田郁、保坂毅、村上綾、横山奈美らの個展を開催しています。

デザイナーとしても活動し、アートのことやそれ以外の話題でもウィットに富んだ話をしてくれるオーナーの八木宏基さんは、ギャラリーの運営についてこう語ってくれました。「作家との関係性が重要です。長く付き合える作家と一緒にやっていくこと、作家の表現を尊重すること」 。

HARMAS GALLERY 外観
2021年7月に行われた「視線のあらわれ」展会場風景

HAGIWARA PROJECTS(ハギワラプロジェクツ)

清澄白河駅と森下駅とのあいだ、隅田川のほとりに位置しているのがHAGIWARA PROJECTSです。2013年に初台でスタートし、21年3月に現在の場所に移転した同ギャラリー。国内外の若手作家を中心に、絵画、彫刻、写真などジャンルレスに展覧会を企画しています。取扱作家には、土肥美穂、早川祐太、今井俊介、地主麻衣子、城戸保、松延総司、額田宣彦、ザック・プレコップ、アラン・ビルテレースト、クリスチアン・フッツィンガーらがいます。

作家の共通点として、「クールだと言われることもありますが、造形的な表現を大事にしている作家が多いかもしれません。その分、鑑賞体験の自由度が高いのが面白いと思います」とオーナーの萩原ゆかりさん。

取材時には今井俊介の個展、「Red, Green, Blue, Yellow, and White」が開催。三角形のパターンが描かれた紙を、折り曲げ写しとった作品は色やかたちを自由に使って遊ぶようであり、心に強い印象を突きつけるというより、むしろ自分が能動的に鑑賞できる楽しさがありました。

HAGIWARA PROJECTS 外観
2021年7月に行われた「Red, Green, Blue, Yellow, and White」展会場風景

清澄白河駅から都営大江戸線で二駅先の両国駅も訪れてみましょう。GALLERY MoMo Ryogokuは2003年に六本木で開業し、2008年にここ両国にもオープンした、大江戸線両国駅から徒歩2分の線路沿いにあるギャラリー。

驚きなのが、六本木、両国どちらのスペースも、インストールからレセプションまで家族3人のみで運営しているということ。もともとコレクターだった父・杉田鐵男さんの発起でスタートした本ギャラリーは、大坂秩加、大久保如彌、早川克己、髙橋涼子、池田 幸穂、ジェイ・ムーン、村田朋泰、川島小鳥、小橋陽介といった30代の作家を中心に、20組ほどの作家と協働しています。

「作家と長く付き合っていけること、結婚や出産などライフイベントを尊重することを大切にしている」と語っていた息子の杉田竜平さん。その話ぶりには、ギャラリー運営を支える、作家への温かなまなざしがにじみ出ていました。

GALLERY MoMo Ryogoku 外観
2021年8月に行われた「PERISCOPE」展会場風景

ANDO GALLERY(アンドーギャラリー)

歩みを戻して、東京都現代美術館のほうへ。2008年に開廊したANDO GALLERYは東京都現代美術館にほど近い地にあります。蔦の絡まる倉庫を改装したギャラリースペースは、白を基調とした外観が印象的です。

取材時は、平川祐樹の個展が開催しており、暗転された展示スペースで映像作品を鑑賞しました。白い壁面はもちろん、幅や奥行にも偏りがない文字通りホワイトキューブの空間は、作品と静かに向かい合うにはぴったりです。

オーナーはアート・建築・デザインのプロデュースを並行して行っている安東孝一さんで、絵画・彫刻・インスタレーション・写真・映像など、国内外の若手現代美術作家の作品を中心に紹介。舟越桂、平川祐樹、中沢研、リカルダ・ロッガン、笹井青依、アレキサンダー・ティネイ、ショナ・トレスコットらの作品を取り扱っています。

作品の「形態」のみならず「主題」も重要だと語る安東さん。訪れた際には、作品鑑賞を楽しむのはもちろん作品に潜むテーマを考えてみてはいかがでしょうか。

ANDO GALLERY 外観
2021年6月に行われた、平川祐樹「a film by」展会場風景

広大な敷地の木場公園と東京都現代美術館を抜け北へ歩いていくと、目に入るのがKANA KAWANISHI GALLERYです。

2014年にアートオフィス設立、15年にギャラリーを開廊し、17年春に清澄白河に移転した本ギャラリーは、書籍編集などに携わっていた河西香奈さんが運営。写真などのメディウムを用いて、視聴覚的に新たな解釈を提示することを試みており、取扱作家には、相澤安嗣志、安瀬英雄、藤村豪、藤村祥馬、長谷良樹、飯沼珠実、岩根愛などがいます。

さらに、国内のみならず欧州及び北米地域の現代美術アートフェアに積極的に参加しながら、ギャラリースペースでの個展やグループ展を定期的に企画していることも特徴です。

外からも展示スペースの全体が見える大きなガラス板が印象的なスペースですが、内装と外装は豊島横尾館などで知られる永山祐子建築設計によるもの。2018年に移転オープンした写真専門のサテライトギャラリーであるKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYも同建築設計が手がけており、展示、建築ともに注目です。

KANA KAWANISHI GALLERY 外観
2021年7月に行われた、藤村祥馬 個展「Luck Action」展会場風景

Satoko Oe Contemporary

KAWANISHI GALLERYから清澄白河駅の方へ。江戸時代初期につくられた小名木川のすぐそばにあるのが、2016年に設立し、現代美術を中心に扱うSatoko Oe Contemporaryです。

街の人々や社会の記憶に残る場所として存在する空間を目指し、池崎拓也、池田光弘、岩永忠すけ、鹿野震一郎、升谷真木子、ケサン・ラムダーク、ルカ・コスタ、長谷川繁、丹羽良徳、平田尚也らアーティストと協働しています。

「誤解を恐れずに言うと、提供している内容は大いに違いますが、ギャラリーは八百屋さんとそう変わりないと思っています。だから、町の中で美を提案、提供する商店として存在すること、通りから中を見ることができる路面店であることが場所探しの際に重要でした。ギャラリーは日常と切り離された空間ではありますが、特別な場所ではなくなることを願って活動しています」と語るのはディレクターの大柄聡子さん。筆者が訪れた際に伺った、作家やギャラリーについての質問にも、懇切丁寧にくれました。間口の広いギャラリー入口が示すように、本ギャラリーは訪れた様々な人に対して開かれており、まさにふらっと足を運べる、地元の八百屋のような存在と言えるでしょう。

S.O.C. Satoko Oe Contemporary 外観
2021年7月に行われた「summer show」展会場風景

無人島プロダクション

春には満開の桜も楽しめる大横川沿いを上がっていきましょう。古い木造の長屋が見えてきたら、そこが無人島プロダクションのスペースです。

2006年、高円寺にて開廊したギャラリーは19年までは清澄白河駅近くにありましたが、現在は墨田区江東橋を拠点としています。取扱作家は八谷和彦、八木良太、Chim↑Pom、風間サチコ、臼井良平、朝海陽子、田口行弘、松田修、加藤翼、小泉明郎、荒木悠。


「無人島プロダクションでは、『この年の、いまだからこそ見せたい/見てほしい』をコンセプトに、作家とともに展覧会のプログラムを作っています。どこまでを自分が生きている社会、時代ととらえることができるかを作家が表現して提示すること、そして私たちギャラリーが作家の展示を行うことは、世界を変える、というよりは、見る人の世界(の半径)を少し拡げることなのではないかと考えています。『いま/ここで/この作品を観ている』ことについて、1948年に建てられた木造の旧段ボール工場の空間で思考し感じていただけたらうれしいです」と、ギャラリーディレクターの藤城里香さん。

展覧会コンセプトの構築を重視しDM制作の段階からそのヴィジョンの提示がスタートするなど、展示自体が精巧に形成されています。

無人島プロダクション 外観
2020年2月に行われた、風間サチコ「セメントセメタリー」展会場風景

魅力的なカフェや雑貨屋もすぐに見つかるのがこのエリア。休憩や買い物を楽しみながら、ギャラリーを巡ってみてはいかがでしょうか。


浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。