公開日:2012年1月13日

アリソン・ショッツ『Geometry of Light』

美しい光と色が変化する展覧会

展示風景
ニューヨークを拠点に活動している彫刻家アリソン・ショッツの個展が、エスパス ルイ・ヴィトン東京にて12月25日まで開催されています。日本で正式に紹介するのは本展が初めて。ショッツの作品は、グッゲンハイム美術館、ハーシュホーン博物館と彫刻の庭、サンフランシスコ近代美術館、ホイットニー美術館などいずれもアメリカを代表する美術館に所蔵されていて、ロンドン、ストックホルムなどの海外でも紹介されています。

ルイ・ヴィトン表参道の7階にあるこのスペースは、全面ガラス張りという、アートスペースとしては珍しい開放的な空間構成で、東京の街並みが見下ろせるロケーション。ショッツはその自然光あふれる空間を活かしたインスタレーションを展開しています。

スペースに入るとまず眼に飛び込むのは、展覧会のタイトルにもなっている《Geometry of Light》。透明なアクリル板のフレネルレンズを数珠つなぎにして、ギャラリーいっぱいに広げています。そこに四方から飛び込む光や風景が反射し、様々な様相を呈します。作品は静的ですが、見る位置や時間帯によって、見え方は動的に変化します。屈折、反射、ホログラフィといった光の原理や性質を私たちの前に顕にしてくれます。

《Diffraction Spiral》2011, 二色性アクリル、アルミニウム 216×31×31 cm, courtesy of the artist
また、美しい螺旋を描く《Diffraction Spiral》の虹色の光線を四方八方に放つ佇まいは、きれいな模様を纏った法螺貝を海の底で見つけたような気持ちにさせます。フランスの詩人ポール・ヴァレリーは、著作『人と貝殻』の中で海岸を歩きながらふと拾った巻貝を考察しています。私たちは貝殻は自然物だということを知っていますが、それを除けば、それが本当に人工物なのか自然物なのかの判断がつくのでしょうか。秩序だった単純な構造のようでありながらも複雑で、人間の手では再現不可能な貝殻。私たちの創造の限界(際)をみせる貝殻。ヴァレリーは人工物と自然物を、対立ではなく人知とそれを超えた余白ではないかと位置づけています。

もちろんそれは自然が人工物に勝るという単純な話ではありません。自然物を考察することで、私たち人間の創造の根源にあるものまたその限界を探ろう、それにより私たち自身のあり方を描こうとしているという野心的な試みのようです。
ショッツは「宇宙は何から成るのかという質問は、彫刻やアートが何であるかということの基本であるように思えるのです」とコメントしています。その発言からは、世界が存在する秩序としての物理学を意識しているように読み取れます。それはヴァレリーの貝殻の考察が物語っている、余白としての自然を喚起させる発言です。アクリルやピアノ線などの工業製品を用いながら、光や時間を見せるショッツ。私たちは、人工物の向こうにある自然に触れる時に何を見、何を感じることができるのでしょうか?宇宙という秩序をどうやって感じることができるのか。ショッツの試みはアートという人間の営みによって感じることのできる自然を通して、私たち自身を映し出す鏡を出現させることかもしれません。

yumisong

ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → <a href="http://yumisong.net">http://yumisong.net</a>