公開日:2022年11月23日

東京都人権部が上映を認めなかった飯山由貴作品の都議会議員向け上映会が開催。議員らは都議会で本件を問う姿勢を明らかに

東京都人権プラザで開催中の飯山由貴「あなたの本当の家を探しにいく」展の附帯事業として企画された作品《In-Mates》の上映会が、東京都人権部の判断で見送りになったことを受け、作家らが都議会議員向けに作品の上映会を開催。

飯山由貴 In-Mates オンライン編集版 2021 26分46秒 スチル:金川晋吾

関東⼤震災時の朝鮮⼈等の虐殺事件を扱った映像作品の上映企画を都が問題視

東京都人権プラザで開催中のアーティスト飯山由貴の展示に際し、附帯事業として企画された映像作品の上映会が東京都総務局⼈権部より禁止されたことを受け、上映予定だった飯山氏の作品《In-Mates》の都議会議員向け上映会が11月22日に行われた。

東京都議会内の会場には立憲民主党などの議員7名が集まり、作品の上映、飯山氏らによる説明、質疑応答などが行われた。登壇者は、飯⼭由貴(アーティスト)、FUNI(ラッパー/詩⼈) 、外村⼤(東京⼤学教員)。人権部の職員も参加した。

都議会議員向け上映会の様子

問題が起きたのは、東京都人権啓発センターが指定管理者を務める施設である東京都⼈権プラザの主催事業として開催されている、飯⼭由貴の企画展「あなたの本当の家を探しにいく」(8⽉30⽇〜11⽉30⽇)。本展では飯山氏の映像作品3点が展示されているが、開催前には附帯事業として、飯山氏らが《In-Mates》の上映とトークを行うイベントを企画。しかし東京都総務局⼈権部は開催を認めなかった。《In-Mates》は26分46秒の映像作品で、1945年に空襲で焼失した精神病院・王⼦脳病院(東京)に⼊院していた朝鮮人患者の診療録に基づくドキュメンタリー調の内容。詩⼈で在⽇コリアン2.5世であるFUNIが診療録をもとにパフォーマンスを行う様子などが収められている。

東京都の判断について飯山氏は、本作が関東⼤震災時の朝鮮⼈等の虐殺事件や在⽇コリアンの歴史を扱うものであることに人権部が懸念を示した結果であり、差別的な判断だとして問題視。10⽉28⽇には記者会見を開き、本件を世に問うていた。また中止された作品の上映を求める署名活動も行い、22日の時点で2万9000人を超える署名を集めている。

記者会見の詳細はこちら:東京都⼈権部が飯山由貴のアート作品を検閲か。小池百合子都知事の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への態度も影響した可能性

東京都議会

「なぜこの映像がダメなのか?」。野党議員らは都議会で都の判断問う姿勢を明かに

都議らに向けた作品の上映後、飯山氏は、10⽉28⽇の記者会見後も東京都人権部からは連絡がないと説明。いっぽうで東京都が本件の説明として記者クラブなどに向けて配布した資料の存在を明らかにし、その内容に対する問題点を指摘した。

質疑応答では議員から事実確認の質問などが行われたほか、作品を見て「なぜこの映像がダメなのか? 事実を歴史として伝えることもできないのか」という都の判断への疑問や、「率直な感想としては難解な映像だと感じた。しかし附帯事業のイベントとして解説付きでこの作品の視点も提供するということであれば、展覧会の一歩先を示すものになり、よかったのではないか」、「近年は北朝鮮のミサイル発射に伴い、在日コリアンへのヘイトも増えている。本件についても改めて問題視していきたい」などの感想があがった。立憲民主党の五十嵐えり都議らは今後、東京都議会の総務委員会や本会議での代表質問などで本件をただしていくという。また会派「グリーンな東京」の漢人あきこ都議は文書質問などを行い、本件について発信していく姿勢を示した。

また都議や記者から、上映会に参加した人権部職員に対していくつか質問が行われたが、「直接の所管ではないので回答はできない。意見は持ち帰る」との回答に終始した。

在日朝鮮人史の研究を行い、《In-Mates》にも出演している外村氏は、「なかなか残りにくい人の声を聞くということが、人権行政なのではないか。(在日コリアンらマイノリティは)つらいから声を上げている。そこを聞くことが人権行政として重要なのではないか」と語り、勉強会や意見交換など自身にできることがあれば協力したいと人権部の職員に呼びかけた。

人権行政のあり方が改めて問われることとなった本件。今後の都からの応答なども注視したい。

【追記】
2023年3月20日、本件をめぐり美術評論家連盟は「飯山由貴氏《In-Mates》上映不許可に対する意見書」を公益財団法人東京都人権啓発センター理事長と東京都知事に送付。しかしその後、送付先に間違いがあったことが判明し、訂正のうえ改めて送付された。
美術評論家連盟ウェブサイト

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。