公開日:2022年1月27日

いまやりたいことは、いま絶対やったほうがいい。「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」展が伝えるメッセージ

ひとつの時代を作った中間子=小池一子の活動から時代とクリエイティブの変遷を見る。

会場風景より

1960年代以降の日本のクリエイティブ領域の黎明期を、コピーライター、編集者、クリエイティブ・ディレクターとして牽引した小池一子(かずこ)。その活動に影響を受け、アート・クリエイティブ業界に足を踏み入れた者は少なくない。

いっぽう、美術館でもギャラリーでもない独自の活動を展開するオルタナティブ・スペース。いまでは日本各地に点在するそうしたスペースの先駆けとなった、日本初のオルタナティブ・スペース「佐賀町エキジビット・スペース」を創設したのも小池だ。

3331 Arts Chiyodaで3月21日まで開催中の「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」は小池の仕事を総括するとともに、同時代の芸術家やクリエイターたちの軌跡にも迫る展覧会になっている。

会場風景より「中間子」エリア

アーツ千代田 3331総括ディレクターの中村政人は、本展について次のように語る。「自分は、小池さんが作ってきたオルタナティブな活動の基盤と道筋の上を我々が走っているような感覚があります。今回の展覧会では、これまで小池さんの生き方そのものが表現であると実感しましたし、展示作品、資料を美術館のような場所で丸ごと保存し、伝えていくべきだと思いました」。

会場風景より「中間子」エリア

展覧会は「中間子」エリアと「佐賀町」エリアの2つで構成。「中間子」エリアでは、クリエイティブ・ディレクター、コピーライター、エディター、翻訳者、世界展開するライフスタイルブランド「無印良品」の創設など、小池のクリエイティブな仕事の数々を紹介し、主にアーカイヴ資料を中心に展覧する。「佐賀町」エリアでは、小池が1983年に立ち上げ2000年に閉廊した「佐賀町エキジビット・スペース」(東京都江東区)で展覧会を行った作家から、森村泰昌、横尾忠則、大竹伸朗ら作家20名による当時の貴重な作品を多数展示する。

なお、「中間子」とは、1949年に物理学者・湯川秀樹が日本初のノーベル賞を受賞した「中間子論」に由来。何かと何かを結びつけて新しい価値を生む小池の仕事の象徴として選ばれた言葉で、2020年の著書『美術/中間子 小池一子の現場』(平凡社)のタイトルにもあるキーワードだ。小池は自分の活動が「中間子」と言われることについて、「“アート”や“デザイン”とその壁を規定しないで仕事してきちゃったっていうのが本音です」と笑顔を見せた。

会場風景より「佐賀町」エリア

「中間子」エリア

まず「中間子」のエリアの展示室1では、「雑誌編集」「編集、執筆、コピーライト」「田中一光との仕事」「演劇、翻訳」「石岡瑛子、山口はるみ、PARCO」などのキーワードで、小池の仕事を紹介。1960〜90年代初頭の広告が持つ力強い洒脱さを感じることができるエリアで、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展(東京都現代美術館、2020)や「和田誠展」(東京オペラシティ アートギャラリー、2021)の一角も思い起こさせる。

会場風景より「中間子」エリア
会場風景より「中間子」エリア

いっぽう、不動の生活ブランドとして国内外で親しまれる「無印良品」の創設メンバーでもあった小池。会場に並ぶ「無印良品」のポスターでは、30年以上経っても変わらないブランドの骨子と言えるようなコピーライティングも楽しみたい。

本展のために制作された特別映像作品「オルタナティブ!」(監督:小松真弓)は、大竹伸朗、金井政明、杉本博司、小柳敦子、森村泰昌らそうそうたるメンバーが小池について語る8分51秒の映像。各々がリラックスした表情をたたえ、小池さんのためならと出演した背景も想像できるような貴重な映像資料にになっている。本映像は「中間子」エリアと「佐賀町」エリアの中間地点で上映されており、このふたつをつなぐ役割も担っている。

会場風景より「中間子」エリア
会場風景より「中間子」エリア

「佐賀町」エリア

佐賀町エキジビット・スペースは1927年建築の食糧ビル講堂を修復し、83年に日本初のオルタナティブ・スペースとして東京・永代橋際に誕生。2000年の閉廊までに106の展覧会やパフォーマンスを実現した伝説的スペースだ。その発端について小池はこう振り返る。

「当時、日本の社会に対する不満がありました。美術館は若い人に対して全然門を開いてなかったし、ギャラリーは商業的なところが目立った。私はアーティストを育てて伴走することのできるスペースを作りたかったんです。1975年、私は三宅一生さんとともに京都国立近代美術館で『現代衣服の源流展』を実現しましたが、その際ニューヨークのキュレーターたちの動きを知る機会に恵まれたんですね。そこからオルタナティブということがもうがっしり私の肝に入ってしまって、佐賀町エキジビット・スペースを始動することに決めました」。

会場風景より「佐賀町」エリア。展覧会ちらしや記録写真などが並ぶ
会場風景より「佐賀町」エリアから、森村泰昌の作品群。手前が《批評とその愛人、マケット》(1989)

「佐賀町エリア」では、このスペースの活動を写真、印刷物、実際に展示された作品などで構成。参加作家には吉澤美香、大竹伸朗、片山雅史、白井美穂、浜田優、横尾忠則、小金沢健人、杉本博司、白川昌生、川俣正、内藤礼らが名を連ねる。

会場風景より、左から白川昌生《Sからの光》(1990)、《Uからの光》(1990/92)

小池はプレス内覧会でこれまでの活動について次のように語った。

「そのつど何か自分が夢中になるものを見つけて、“表現者”という言葉は私にはすごく憧れで、私なりに何かを表現しようと、その時々の仲間と時代との読み合わせのなかでいろんなことをやってきました。私は“こうあらまほし”とよく言いますけど、“こういうふうな生き方ができたらいいな“っていう思いが活動の中心にあったと思うんですね。それは無印良品を発想したときもそうでした。この展覧会では『私たちの時代はこうだったけど、では、いまだったらどんな方法があるかな?』と考えるきっかけになってくれたらと思います。私がやってきた仕事は一つひとつやっぱり小さなことで、それが続いて大きなことになった。それは誰の仕事にも人生にもあることだから、いまやりたいことは絶対いまやったほうがいいよっていうメッセージが届けられたらと思っています」。

本展の資料や作品が物語る時代のダイナミックな脈動、そして小池のメッセージを会場で体感してほしい。

小池一子
会場風景より、岡部昌生《STRIKE-STRUCK-STROKE》(1986)
会場風景より、佐藤時啓×野村喜和夫《光─呼吸/反復彷徨》(1993)

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。