
竹村京 May I enter?, all things move[入ってもよろしいですか?うごくせいかい] 2026
現代美術家・竹村京の過去最大規模の個展「竹村 京 うごくせかい」が、水戸芸術館 現代美術ギャラリーで10月12日まで開催中。2000年代の代表作から新作までが揃う。
竹村はこれまで、壊れた品や使われなくなった物、そこに刻まれた個人あるいは社会の記憶に向き合い、布や刺繍によって「修復」を施す作品を制作してきた。本展では、こうした「修復」シリーズに加え、能登半島地震で失われた瓦を扱う作品や、会期中にガラスが落下・破損する新作インスタレーションなど、平面から立体、パフォーマンスまで幅広い手法の作品が公開されている。

最初の展示室で迎えてくれるのは、初期の代表作《A.N.のリビングルーム、地震の予感》(2005)だ。友人の幸せな暮らしを等身大で写し取り、その一部を布で縫い留めた作品で、地震が来ても失われない保管の方法を探るところから生まれたという。

次の部屋には、2000年代から2025年までの「修復」シリーズが台の上に並ぶ。割れたグラス、ひびの入った皿、使い古したブラシ。竹村は役目を終えた品を透ける布で包み、なくなった部分に沿って刺繍する。1点ずつの間隔がゆったりと取られ、視線がひとつずつ止まる。何を選び、どこに置くか。その判断の細やかさも見どころになっている。



竹村がこの手法に「修復」という名前をつけたのはドイツにいたころで、最初につけたタイトルはドイツ語の「Renovierung」だった。建物の改修工事に使う言葉で、これを日本語に訳すときに「修復」という語を選んだという。
ただ、この作風は金継ぎのように壊れた跡を隠さず活かす修復とも少し違う。「ドイツでは金継ぎはできないなと思ったんですね」。と竹村は言う。そこで考えたのが、壊れた品を布で包み、どこが壊れたのかがわかるように光を当てて、仮の状態のまま縫っておくという方法だった。「なかで何が起こったのかというのが見える状態にしておく。そういうことを私は修復と呼んでいるんです」


なぜ元どおりに直さず、仮の状態にとどめておくのか。竹村はその理由をこう話す。「あと何千年かしたら、宇宙人がピッてやったら全部直っちゃうんじゃないか。そこに至るまでに散逸しないようにしておくというのが、ひとつの夢としてあります」