マリメッコの「花」を創造した女性の人生を追って。ドキュメンタリー『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』が2023年3月公開

マリメッコのデザインはどのようにして生まれたか？

北欧を代表するデザインブランド「マリメッコ」。ケシの花をモチーフとした「Unikko（ウニッコ）」など、同ブランドを代表するデザインの多くを手がけたのがマイヤ・イソラ。38年間で500を超える驚異的な数のデザインをマリメッコに提供した彼女の創作の軌跡を、愛する娘・クリスティーナや家族に送った手紙と本人の日記、娘の証言、当時の様子を映すアーカイブ写真や映像、アニメーションを交えて構成したドキュメンタリー『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』が、2023年3月3日から全国順次ロードショーされる。監督は本作が2本目の長編ドキュメンタリー作品となるレーナ・キルぺライネン。

1927年にフィンランド南部の農家の末っ子として生まれたマイヤは、第二次世界大戦下を生き抜き、終戦と同じ年の45年に17歳年上の商業芸術家と結婚。翌年には19歳でクリスティーナを出産するが、すぐに離婚すると母の助けを得てヘルシンキの芸術大学へ進学する。離れて暮らす娘と手紙でやりとりしながら制作に打ち込むマイヤは、大学内のコンテストに出品した作品を通してのちのマリメッコ創業者であるアルミ・ラティアと出会い、デザイナーと経営者としての長いパートナーシップを結ぶことになる。

旅を愛し、また恋することを愛したマイヤは人生において3回の結婚・離婚や様々な出会いを経験しながら、自身の創作を続ける。58年に手がけた「装飾シリーズ」の人気を経て、マリメッコはアメリカへ進出。ジャクリーン・ケネディが購入したドレスを着て雑誌の表紙を飾ったことも成功を後押し、マリメッコは世界的な人気を獲得していく。

驚くのは、現在のマリメッコの象徴ともいえる「Unikko」などの花のモチーフを、経営者のアルミは、花はそのままが一番美しいのであって「ファブリックのモチーフにすることは許さない」と主張していたことだ。しかし、マイヤは花のデザインのみを集めた「花シリーズ」をアルミに見せることで、その考えを180°変えてしまう！ 彼女の作品の力・表現の説得力の強さがうかがえるエピソードだ。

映画では、3度目の離婚後に出会ったエジプト人演劇研究者や気象学者との出会い、娘との共同制作など、2001年にマイヤが亡くなるまでの旅と出会いと創作の軌跡が語られる。

マイヤと彼女の作品への思いを、レーナ・キルぺライネン監督はこのように語っている。

マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部でもあります。子供の頃、家のリビングルームに ”Kataja”（マイヤ・イソラが手掛けた「自然シリーズ」の一つ）のカーテンがあり、カーテンが作り出す穏やかな雰囲気が大好きでした。私は都会で育ちましたが、両親はフィンランドの地方出身で、夏には田舎で過ごしました。この”Kataja”のカーテンは、私にとって都会と田舎を隔てる緩衝材のようなものでした。大人になってから仕事の関係で別の都市に引っ越すことになり、勤務先が用意したアパートは最上階の小さな1ベッドルームで、反対側の建物に面した大きな窓がありました。建物のコンクリートとの間に暖かさが欲しくて、マイヤ・イソラの "Lyhty "のファブリックのカーテンをつけました。さまざまな色合いの赤の "Lyhty “は、新しいアパートが自分の家になった感覚をもたらしてくれました。

多くの人にとって親しみのあるデザインが、一人の女性の人生、旅、家族、自然との関わりから生まれ出でたかわかる、一作になるはずだ。