最終更新:2022年1月29日

大阪中之島美術館がついに開館! 超重要作品が一堂に会する「Hello! Super Collection 超コレクション展 - 99のものがたり - 」レポート

40年の準備期間を経て、大阪にオープン! 目玉作品を出し惜しみなく公開する開館記念展をレポート

吉原治良の展示、左より《作品(White Circle on Red)》(1963)、《作品》(1965)、《作品》(1965)

大阪市北区の中之島エリア。アートファンには馴染み深い国立国際美術館のほど近くに、⼤阪中之島美術館が2月2日にオープンする。

本館の構想が発表されたのは1983年。つまり約40年もの準備期間を経て、いよいよ待望のオープンとなる。館長は約30年間にわたり準備に関わってきた菅谷富夫。開館記念として2月2日〜3月21日に「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」開催される。19世紀後半から現在までの日本と世界の優れた美術とデザインを核とする6000 点のコレクションから、珠玉の作品約400点をお披露目するものだ。本展の内覧会の様子を、開館に先駆けてお届けする。

外観

堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島に来ると、まず巨大な黒いキューブ状の建築が目に飛び込んでくる。都市の風景に埋没せず、異彩を放つこの建物が⼤阪中之島美術館だ。設計を担当したのは遠藤克彦建築研究所。5階建てで、1階にはカフェやレストランなどのサービス施設、2階にはチケットカウンターやミュージアムショップ、親子休憩室、アーカイブズ情報室などがあり、4階と5階が展示室となる。この上へ向かって登っていく構造は、お隣の国立国際美術館が来場者を地下2・3階の展示室へと誘うのと対照的だ。

4階の階段横に設置されているヤノベケンジ《ジャイアント・トらやん》

会場入口

いざ、「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」へ入場。
本展は3つの章により本館の収集活動の軌跡と国内第一級の質を誇るコレクションを紹介する。またタイトルにある「99のものがたり」には、「コレクションに親しみを持っていただけるよう、作品にまつわる”99のものがたり”もあわせて紹介。『99』は未完成であることを意味しており、皆さんの100個目のものがたりで展覧会は完成します」(公式サイトより)という美術館から来館者へのメッセージが込められている。

美術館の礎となったコレクターたち

「第1章 Hello! SuperCollectors」は、本館の礎となるコレクションと、そのコレクション形成の歩みを紹介する。本館の構想は1983年、山本發次郎(はつじろう)の遺族より佐伯祐三作品を含む約580点の作品が大阪市に寄贈されたことがひとつの大きな出発点だった。

文化芸術を愛する洗練された大阪商人であり、「蒐集もまた創作なり」という自論を持つ稀代の蒐集家であった山本發次郎。自らの眼にかなうもののみを徹底的に蒐集し、「強烈な個性」を高く評価した。なかでも「線の旨味」を見出した、禅宗高僧が書いた筆跡である墨蹟(ぼくせき)と、佐伯祐三の絵画は、そのコレクションにおいて重要な位置を占める。さらに、書と絵画に加えインドネシアの染織も同じ展示室に並んだ本展の序盤では、山本の審美眼を味わうことができる。

佐伯祐三 郵便配達夫 1928 山本發次郎コレクション
山本發次郎コレクションより佐伯祐三作品の展示
山本發次郎コレクションより、書などの展示
山本發次郎コレクションより《上衣(紺地葉文衣装)》

本展のメインヴィジュアルにも起用されている《郵便配達夫》(1928)を描いた佐伯祐三は、大正・昭和初期の洋画家。パリのモンパルナスで過ごしたことで知られるが、出身は大阪市だ。30歳で亡くなったため画家としての活動はわずか6年ほどだが、その絵画を熱心に収蔵したのが山本だった。それらが寄贈された本館は、佐伯作品のコレクションとして第一級の規模を誇る。本展はそのうち8点を展示。偶然アトリエを訪れた美しい髭の郵便配達員をモデルにした《郵便配達夫》は、病に侵された佐伯が描いた、絶筆に限りなく近い代表作だ。第1章と第2章を担当した本館主任学芸員の高柳有紀子は、「佐伯の8点は、生涯の画業が見渡せる作品をチョイスしました」と語る。

高畠アートコレクションより、モーリス・ユトリロ《グロレーの教会》(1909、左)とキスリング《オランダ娘》(1922、右)
左がマリー・ローランサン 《プリンセス達》(1928、高畠アートコレクション)、右が岡田三郎助《甲州山中湖風景》(1916、田中徳松コレクション)

さらに、初期に寄贈を受けた「田中徳松コレクション」「高畠アートコレクション」も紹介。田中徳松は日新製鋼(現・日本製鋼)の会長を務めた人物で、上村松園などの日本近代絵画を収集、遺族が寄贈した。「高畠アートコレクション」は画商でアート・サロン経営者だった高畠良朋が山本發次郎コレクションの寄贈に感銘を受け、佐伯と同時代のエコール・ド・パリの作品を計画的に収集したものだ。本展ではマリー・ローランサンなどが出品されている。

青木宏峰(大乗) 中之島風景 1923
池田遙邨 雪の大阪 1928

1990年に美術館準備室が設置されると、収集方針に従った本格的な作品収集が開始された。その特徴のひとつは、「大阪と関わりのある近代・現代美術のコレクション」だ。たとえば1920年代の中之島が描かれた作品や、池田遙邨《雪の大阪》(1928)など、ここ大阪の風景を描いた絵画も印象的だ。

島成園 祭りのよそおい 1913

また本展は、島成園をはじめとする近代以降の女性画家にも注意をうながす。「近代以降の大阪では女性画家も活躍していましたが、その存在はしばらく忘れられていました。しかし本館準備室がその存在を掘り起こし、研究、展示を行うことで、知名度が高まってきた。そういった女性画家の作品3点を展示しています」(高柳)。

左が矢野橋村《湖山幽嵒》(1915)、右が山内愚僊 《朝妻舟》(1897)

本章後半には写真のパートが登場。女性写真家の草分けで、アメリカで学んだのちに大阪を拠点とした山沢栄子や、日本最古の写真倶楽部である浪華写真倶楽部などを紹介する。また、版画コレクションの中核となる前田藤四郎の作品群も、面白く見応え抜群だ。

山沢英子の展示、左より《What I am doing(73)》《What I am doing(64)》《What I am doing(9)》(すべて1982)
会場風景
前田藤四郎 屋上運動 1931

戦後美術のパートには、関西を拠点に新たな表現を模索した美術グループのメンバーらの作品が並ぶ。

会場風景
左が野村仁《Dryice》(1961)、右が福岡道雄《ピンクバルーン》(1967-68)

とくに1954年に結成された「具体美術協会(具体)」は、戦後美術史上もっとも重要視されるグループのひとつだ。本展は具体の絶対的リーダーであった吉原治良と、また具体と関わりを持ちながら国際的に活躍した今井俊満に焦点を当てて紹介。両作家のコレクションは本館が国内最大級を誇り、「吉原作品を800点収蔵しており、一部購入だが大半は遺族からの寄贈。また今井作品約220点は作家から寄贈」(高柳)だという。これらの作品が展示された展示室は、黒い壁がひときわ目を引く。かつて中之島にあった具体の私設展示施設「グタイピナコテカ」に黒い壁があったことにちなんだものだ。

吉原治良の展示、左より《作品(White Circle on Red)》(1963)、《作品》(1965)、《作品》(1965)
今井俊満 New York(C) 1981
今井俊満の展示

じつは10月22日から、本館と国立国際美術館が合同で行う展覧会「すべて未知の世界へ―GUTAI」が控えており、ほかの具体の作家の作品は、この秋の展覧会で披露される予定だという。

著名作家の作品がついにホームに!

「第2章 Hello! Super Stars」では、アメデオ・モディリアーニからバスキア草間彌生まで、近代・現代美術の目玉と言える代表的な作品が一堂に会する。

アメデオ・モディリアーニ 髪をほどいた横たわる裸婦  1917

膨大なコレクションから厳選された25作家の作品。学芸員の高柳は「セレクトは迷ったが、特にこれまで国内外の美術館に度々貸し出してきた作品を中心に選んだ」と語る。実際に、国内をはじめニューヨーク近代美術館やポンピドゥー・センターなどの企画展にも度々出品されるなど、国際的な評価も高い西洋美術の名品が並ぶ。美術ファンにとっては、「あ、これも⼤阪中之島美術館のコレクションだったんだ!」と、見覚えのある作品も多いかもしれない。これまで世界各地で鑑賞されてきた作品が、いよいよホームに凱旋したというわけだ。

ルネ・マグリット レディ・メイドの花束  1957
モーリス・ルイス オミクロン 1960

第2章冒頭には、本館の海外作家作品購入第一号となったモディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(1917)が象徴的に展示されている。そして、マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、アルベルト・ジャコメッティ、マーク・ロスコ、フランク・ステラ、ゲルハルト・リヒター、森村泰昌、やなぎみわ、杉本博司ほか、錚々たる作家の作品が鑑賞者を出迎える。

左が三木富雄《バラの耳》(1962)、右がジャン・フォートリエ《永遠の幸福》(1958)
森村泰昌の展示、左より《美術史の娘(劇場A)》《美術史の娘(劇場B)》(ともに1989)
やなぎみわ 案内嬢の部屋 B2 1997

それにしてもなぜ、これほど充実したコレクションを築くことができたのだろうか。そこには、長い準備期間に開館まで紆余曲折を経ながら、建設よりもまずは充実したコレクションを築くことを大方針に掲げてきた本館の歩みがある。

山本發次郎コレクションが寄贈され、大阪市制100周年記念事業基本構想のひとつとして近代美術館の建設が謳われた1983年は、まさにバブル前夜。そして平成初期に20世紀の名品を多く購入した。それらはいずれも現在では評価額が高騰し、入手が困難な作家の作品だ。その後、バブルの崩壊や市の財政難など美術館建設は何度も白紙となったが、当時の収集が⼤阪中之島美術館の価値を築く貴重な財産となっている。

大充実のデザイン・コレクション

「第3章 Hello! Super Vision」は、本館コレクションのもうひとつの柱であるデザインに注力した内容。約 200 点のグラフィック作品と、家具作品などが展示される。

会場風景
ウィーン分離派のポスターの展示風景

本館はウィーン・ゼセッション(分離派)の作家たちの作品を起点に、デザイン・コレクションを始めたという。本章ではその希少なオリジナル家具コレクションのほか、1859 年製造のミヒャエル・トーネットの椅子からアール・ヌーヴォー、未来派、デ・ステイル、バウハウス、ロシア構成主義、アール・デコ、北欧デザイン、スイス・デザイン、イタリア・デザイン、オリンピック・ポスター、ポストモダンのデザインなどが並び、19世紀後半から1980年代までのデザイン史をたどることができる。

サントリーポスターコレクションの展示風景

またサントリーミュージアム[天保山]が2010年に休館したことを受け、本館に約18000点ものサントリーポスターコレクションが寄託された。そのなかから選りすぐりの作品たちも今回出品されている。

ヨーゼフ・マリア・オルブリヒ バスルームセット 1908

ヨーゼフ・ホフマンの展示、左より《座るための機械》(1905)、《椅子》(1904)
ダゴベルト・ペッヒェ チョコレートカップセット 1913

日本の美術館では絵画や彫刻と並んで工芸が収集されていることが多い。そのなかで近代デザインの収集に力を入れる本館の指針は、産業都市でもある大阪という地域の性格を反映した特徴的なものだ。

第3章を担当した本館主任学芸員の平井直子は、「1992年から、『生活のなかの芸術』が大阪に相応しいという考えのもと進められてきたのが家具作品のコレクションでした。本館にはその素晴らしい作品が揃っています。(デザインを中心とする第3章は)なるべく多くの作品を出品しようという気持ちが優って、たくさん展示しています」と熱っぽく解説。

アルヴァ・アアルトの展示
アルヴァ・アアルト パイミオアームチェア 1931-32

実際に、壁一面にポスターが並び、展示室中央には多くの家具が出し惜しみなく置かれ、その量には圧倒される。たとえばアルヴァ・アアルトの棚や椅子などがずらりと並ぶ展示にはうっとりさせられる。

ジュゼッペ・アルチンボルド ソムリエ(ウェイター) 1574

ちょっと意外で嬉しいコレクションがこちら。ジュゼッペ・アルチンボルド《ソムリエ(ウェイター)》(1574)だ。アルチンボルドは16世紀に活躍した画家で、静物を組み合わせて作った風変わりな寄せ絵として人物を描いた。この傑出した画家のコレクションは日本では本館のみだと思われるという。なぜルネサンス後期の画家の作品を収蔵しているかというと、もとは「ふれあい港館ワインミュージアム」が、 ワインをモチーフとした本作を収蔵していた。その後2008年に閉館を経て、大阪中之島美術館の収蔵となったのだ。

ロシア構成主義を代表する作家、グスタフ・クルーツィスの展示
ベルリンダダの作品も。左がハンナ・ヘッヒ《マイスター》(1925)、右がラウール・ハウスマン《マックス・ルエスト博士》(1919)

そして最後の展示室には、倉俣史朗の家具が6点展示。倉俣は1960年代から活動し、世界的に傑出した才能として高く評価されるデザイナーだ。赤いバラを閉じ込めた椅子で代表作と言える《ミス・ブランチ》、そして木製家具が、目を大いに喜ばせてくれる。

倉俣史朗 ミス・ブランチ デザイン1988(製造1989)
倉俣史朗 引き出しの家具 1967

40年間蓄えてきたエネルギーと至高のコレクションを余すところなく見せようという本展は、とても1〜2時間では見切れないほどの充実ぶり。見終えると、心地よい疲労感が押し寄せてくる。(ひと休憩したら、おしゃれで素敵なプロダクトやアーティストとのコラボグッズを販売している、2階のミュージアムショップに立ち寄るのもオススメ!)

ミュージアムショップ dot to dot today

大きな窓から外を見ると、大阪の都市が広がる

4月9日からは特別展「モディリアーニ」、7月23日からは岡本太郎の展覧会、そして10月22日からは国立国際美術館と合同による具体の展覧会「すべて未知の世界へ―GUTAI」が控えている。また本展図録に掲載された菅谷館長のテキストによると「当館でのアーカイブ設置とともに、まだまだ国内美術館では数少ない本格的なアーカイブを普及させるための活動も私たちの役割だと思っている」という。この点も今後大いに期待したい。大阪、関西、そして世界に向けた文化芸術のハブとして、これからの⼤阪中之島美術館の活動が楽しみだ。

美術館前の広場に設置されたヤノベケンジ《SHIP'S CAT (Muse)》(2021)
外観

*なお、大阪中之島美術館や国立国際美術館など中之島に関わる14機関によるプロジェクト「クリエイティブアイランド中之島」は、本館開館にともないシンポジウムなどを開催予定。こちらも合わせてチェックしてほしい。
https://nakanoshimalab.jp/


福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て 、2021年10月より現職。