Nerhol Hidden Crevasse 2025 撮影:編集部(諸岡なつき)
埼玉県立近代美術館では、アーティストデュオNerhol(ネルホル)の個展「Nerhol:Misreading Righteousness 種蒔きと烏」が開催される。会期は7月12日〜10月13日。
Nerholは、グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太によって 2007年に結成されたアーティストデュオ。人物を連続撮影して出力した200枚の写真を重ね、彫り出すポートレイト作品で一躍注目を浴びた彼らは、その活動の領域を拡張させながら表現活動を深化させている。

2024年に千葉市美術館で開催された初の大規模回顧展「Nerhol 水平線を捲る」が、大きな反響を呼んだことも記憶に新しい。回顧展後初の新作展となる本展は、アーティストが辿り着いた新境地を、新作・未発表作含む約80点を通じて示すような機会となった。
タイトルの「種蒔きと烏 Misreading Righteousness」には、物事や行為の一義的な確かさに問いを投げかけ、そこに潜在する意味や覆い隠された関係を注視してきたふたりの一貫した姿勢が反映されている。蒔かれた種がその場で育つことと、鳥に運ばれどこか別の地で芽吹くことは、どちらもある面では正しく目的を遂げているようで、見方を変えれば失敗や過誤とも受け取れる。
本展で紹介される、珪化木(けいかぼく:地中に埋もれた樹木が長い年月をかけ石化したもの)やストーンペーパー(石灰石を原料とする高強度の紙)を素材とした作品群は、そのような両義的な世界を複雑なまま掬い上げようとする試みの結晶にほかならない。展示構成は、彼らの様々な素材へのアプローチから生まれた多層的表現が、呼応し合うように作品が並べられていた。
また、近年Nerholが関心を寄せるテーマのひとつである帰化植物(自生地から日本国内に持ち込まれ野生化した外来種の植物)をモチーフにしたインスタレーションも、本展の見どころのひとつだ。今回はハナミズキをテーマに、その歴史的背景や土地との関係へのリサーチを踏まえた、新たな制作手法にもチャレンジしたという。
積み上げた写真を彫るという彼らの原点から、素材や対話など制作の起点を見直し、アーティストとして新たな段階へと進みつつあるNerhol。その変容と探求の過程をぜひ目撃しに行って欲しい。