公開日:2022年9月16日

六本木にドラえもんが大集合。「六本木アートナイト2022」フォトレポート

村上隆を筆頭に、約70組のアーティストによるおよそ100のプログラムで、六本木の街にアートの魔法をかける

会場風景より、村上隆による「ドラえもん」

森美術館のある六本木ヒルズや21_21 DESIGN SIGHTなどが入る東京ミッドタウン、国立新美術館など、六本木の街を舞台に、「六本木アートナイト2022」が9月17日〜19日に開催される。コロナ禍によってたびたびのスケジュール変更を余儀なくされた本展の開催は、およそ2年半ぶり。今回のテーマは「マジカル大冒険 この街で、アートの不思議を探せ!」。本記事では、開催に先立ち行われたプレスプレビューの様子をお届けする。

会場風景より、六本木ヒルズアリーナでの村上隆と、村上による「ドラえもん」

メインプログラム・アーティストであり、キュレーションを担当したのは、村上隆。開催にあたり村上は、「ドラえもん」とコラボレーションすることの重要性について以下のようにコメントした。

『ドラえもん』は、日本とアジアにおいて、とても重要なコンテンツです。主人公がイケてなくて、モジモジしていて、 それを助ける耳の無いネコ型ロボットがいて、しかし、そのモジモジ君の問題が解決されることはない。けれども、取り敢えず、笑って生きていこう...。そういう、この作品の持つ、ある意味「ドリームズカムトゥルー」と真逆の人生哲学が、 いま、アジアの人々の心により強く沁み込んでいるのではないか。⾔うなれば、『ドラえもん』はアメリカのミッキーマウス的な、アジアのアイコン的なキャラクターです

囲み取材での村上隆

メインプログラムは、村上隆による「ドラえもん」と、村上がキュレーションしたアーティストによる「ドラえもん」。村上隆や細川雄太、くらやえみ、ob、村田森、青島千穂、T9G&ナカザワショーコ、Mr. 、大谷工作室、TENGAone、Kasing Lung、タカノ綾によるドラえもんが、六本木各所に並ぶ。以下では、先行展示プログラムとして公開されている作品を紹介していこう。

六本木ヒルズ

ノースタワー前にあるのは、TANGENTによる《INAHO》。夏の夕焼けを浴び、黄金色に輝く稲穂にインスピレーションを受けたフロアライトだ。人感センサーによって人が近づくと穂が揺れ始め、LEDに光が灯り、離れると光と揺れがゆっくりと止む。本展においては、作品はガラスケースに収められ、インスタレーションとして公開されている。

会場風景より、TANGENT《INAHO》

メトロハットの天井には、デイジーバルーン《Wave》が。スポーツ観戦の応援などで使用されているスティック型バルーンを、1万個以上使用し、巨大なインスタレーションを完成させた。

会場風景より、デイジーバルーン《Wave》

ウェストウォーク2階に展示されている作品を紹介しよう。自身が持つ障害から車椅子をモチーフにする檜皮一彦は、立体作品《HIWADROME TYPE ε》を出品。約60台の車椅子が5メートルほどの高さに積み上げられ、LEDや鉄の構造体が組み合わされている。

会場風景より、檜皮一彦《HIWADROME TYPE ε》

マイケル・リン《窓》は、台湾の伝統的な格子窓から流用したコイン模様がモチーフ。「見る」という体験を促すスクリーンとして機能する格子と、経済的な交換を意味するコインの模様によって、現代の視覚的消費文化を考察したものだという。

ローレンス・ウィナー 《HERE FOR A TIME THERE FOR A TIME & SOMEWHERE FOR A TIME》はストリートバーナやポスターとして、六本木ヒルズウェストウォーク2階や、ヒルサイド1階、ミッドタウン・ガーデンなどで展示される。日本語と英語でタイトルが描かれた本作は、言葉や文字のあいだに潜む、翻訳のしきれなさに注目した作品だ。

会場風景より、左がマイケル・リン《窓》、右がローレンス・ウィナー 《HERE FOR A TIME THERE FOR A TIME & SOMEWHERE FOR A TIME》(六本木ヒルズウェストウォーク2階公開作品)

六本木ヒルズ内の消毒液のディスペンサーをよく見ると、映像が流れていることに気付くだろう。ノラ・デザインコレクティブ《つかの間》は、ディスペンサーをインターフェースとして直し、新たな映像再生装置として利用した。消毒液を使おうと、足元のペダルを踏むと、画面の中に映る男性が動作を真似ることに気づくが、私たちは彼と消毒の「つかの間」にしか関わることができず、彼が何者なのか、これがどういった作品なのか、気にせずにはいられないだろう。

会場風景より、ノラ・デザインコレクティブ《つかの間》

ヒルズカフェのスペースでは、NPO法人・虹色の風によるアール・ブリュット展「NO BORDERS ー画家松井守男とアートな仲間たち」が開催。光を題材とする松井守男の作品や、子供たちの絵画作品が展示されている。自身の心をとらえたものを描き出した彼らの作品を通じて、感動する心があらゆる垣根を越え、多様な共存の形を提案できることを示す。

NPO法人・虹色の風によるアール・ブリュット展「NO BORDERS ー画家松井守男とアートな仲間たち」会場風景より
NPO法人・虹色の風によるアール・ブリュット展「NO BORDERS ー画家松井守男とアートな仲間たち」会場風景より、平山亮「モンスター大戦記ハカイオウ」シリーズ

東京ミッドタウン

続いて、東京ミッドタウンへ。まず目に入るのは、入り口前に配されたドラえもんバルーンだろう。これは村上隆によるもので、比較的柄が少なく、ドラえもんの青色が目立つ作品だ。

会場風景より、村上隆による「ドラえもん」

プラザ1階の屋外に展示されるmagma《ROCK'N》は、アニメやゲームに登場するグッズやキャラクターを思わせるアイテムを組み合わせたもの。第六感をテーマにしたシンボリックなコラージュ作品だ。

同じくプラザ1階に展示されている、異質な黒さを示すオブジェは、キムスージャ《演繹的なもの》。街中の風景をまったく反射していないようにすら見えるほど、漆黒のオブジェは、土台の鏡を通して周りを移動しながら鑑賞してみても面白いだろう。

会場風景より、magma《ROCK'N》
会場風景より、キムスージャ《演繹的なもの》

サントリー美術館では、「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」展が、21_21 DESIGN SIGHTでは、「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」展と、ミッドタウン内のアートスペースで開催されている展覧会も合わせて見ておきたい。

21_21 DESIGN SIGHTでの「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」展示風景より

国立新美術館

李禹煥の大規模個展や、ドイツのルートヴィヒ美術館展が開催されている国立新美術館でも、企画が満載。屋外には、Mr.、大谷工作室、TENGAone、Kasing Lung、タカノ綾によるドラえもんが、5体並んで展示されている。それぞれ作風の異なるドラえもんが、ライトアップされている。

会場風景より、左から大谷工作室、TENGAone、Kasing Lung、タカノ綾による「ドラえもん」
会場風景より、左からMr.と大谷工作室による「ドラえもん」
「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」展示風景より

同じく1階ロビーでは、既存の空間を見知らぬ風景に変容させる玉山拓郎の新作インスタレーション《NACT View 01》も公開されている。コーンの形状をモチーフとした本作は、光の演出によって空間全体にまで意識を促す。

会場風景より、玉山拓郎《Museum Static Lights: The The National Art Center, Tokyo》

17日からは、さらに多数の作品が公開される。残念ながら今年はオールナイトでの開催ではないが、日中なら近隣のギャラリーを合わせて巡ってみるのも良いだろう(六本木ギャラリーガイドをチェック)。シルバーウィークの始まり、六本木へアートを見に行ってはいかがだろうか。

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。