公開日:2023年3月10日

重文作品の約80%が一堂に!「重要文化財の秘密」展で近代日本の美術史を辿る

「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」は3月17日から5月14日まで開催

初代宮川香山 褐釉蟹貼付台付鉢 重要文化財 1881(明治14) 東京国立博物館蔵 通期展示 Image:TNM Image Archives

重要文化財が示す歴史と作家たちのドラマとは?

重要文化財(略称「重文」)とは、1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀で日本の文化史上貴重なものとして定められたもの。そのうちとくに優れたものは、さらに「国宝」へとレベルアップ(?)して指定されることもある。それまで重文だったものが、研究の発達や時代的な価値づけの変化で国宝に指定されることもあり、美術ファン的には先んじてチェックしておくのも密かな楽しみだったりする。

展示風景より
高村光雲 老猿 1893(明治26) 東京国立博物館蔵 通期展示
初代宮川香山 褐釉蟹貼付台付鉢 重要文化財 1881(明治14) 東京国立博物館蔵 通期展示

東京国立近代美術館には、重文指定された明治以降の絵画・彫刻・工芸が多数所蔵されている。「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」では、2022年9月時点で66件ある重文のうち、同館コレクションを含めた約50点を結集。近代から現代へと変化していく日本の美術史の変遷を追う。会期は3月17日から5月14日まで。

狩野芳崖 悲母観音 重要文化財 1888(明治21) 東京藝術大学蔵 (展示期間:4月25日~5月8日)

重文には、作品のドラマと歴史のドラマが重なっていることも多い。狩野芳崖《悲母観音》に描かれた赤子は1882年に生まれた芳崖の初孫と言われているが、本作はこの絵を制作中に最愛の妻を亡くし、彼自身にとっても最後の作品になった。伝統的な仏画のなかには個人的な生と死のドラマが潜んでいるのかもしれない。そして本作は、近代絵画最初の重要文化財となった。

菱田春草 黒き猫 重要文化財 1910(明治43) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託) (展示期間:5月9日~5月14日)

菱田春草《黒き猫》は、猫モチーフとしてよく知られた一作だが、じつはわずか5日間で描き上げられた。そもそも春草は文展出品作として屏風の大作に挑んでいたが、どうしても納得がいかずに破棄。近所の焼き芋屋から借りてモデルにした猫を描いたのがこの作品だった。とはいえ、それまでの彼の研究の蓄積が凝縮された《黒き猫》には、写実と装飾の美がみごとに一致している。

上村松園 母子 重要文化財 1934(昭和9) 東京国立近代美術館蔵 (展示期間:4月18日~5月14日)

「美人画」という言葉には、男性から女性への欲望の混じった視線が様々に漂う。しかし義理の娘と孫を描いた上村松園《母子》には、それとは異なる空気がある。本作には制作年と同じ年に亡くなった松園の母への哀惜・感謝の気持ちも込められていると言われ、女性が女性とその周辺を作品に描くことの意味を考えさせるだろう。

高橋由一 鮭 重要文化財 1877(明治10)頃 東京藝術大学蔵 (通期展示)
原田直次郎 騎龍観音 重要文化財 1890(明治23) 護国寺蔵(東京国立近代美術館寄託) (通期展示)

重文には様々なドラマがあり、それらが制作された動機や示された表象には、美術概念の変化、社会状況が強く反映されていることも多い。その意味でこの展覧会は単に名品展であるだけでなく時代ごとに新しい表現を打ち立てた「問題作」でもあった作品を通して評価の変遷・時代の変遷を見る機会でもある。

重文は保護の観点から貸出や公開が限られ、まとめて見ることのできる機会は稀だ。第一級の作品を通して、日本の近代美術の魅力を再発見したい。

黒田清輝 湖畔 重要文化財 1897(明治30) 東京国立博物館蔵 (展示期間:4月11日~5月14日)
岸田劉生 麗子微笑 重要文化財 1921(大正10) 東京国立博物館蔵 (展示期間:4月4日~5月14日) Image:TNM Image Archives

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