公開日:2023年6月19日

現代アートが熱い!韓国・ソウル最新アートガイド(3)リウム美術館などで知られるイテウォン〜アックジョンエリア(全3回)

韓国と日本で活躍する批評家・紺野優希が、ソウルのアートめぐりを徹底ガイド(全3回)。主要な美術館だけでなく、活況を呈する韓国の現代アートシーンを肌で体感できる多数の新興スペースまで、周り方も含めてお伝えする。第3回は、リウム美術館などで知られるイテウォン~アックジョンエリア。

リウムミュージアム View of LEEUM Museum of Art Photo: Kyung Sub Shin

第1回「シチョン〜ホンデ〜ウルジロ」エリア第2回「チョンノ~アングク~キョンボックン」エリアは以下

ソウルの中心、地下鉄6号線ルートを中心に

シチョン〜ホンデ〜ウルジロ(第1回)、チョンノ〜アングク〜キョンボックン(第2回)と、これまで紹介したエリアのアートスペースは、いずれも江北(カンブッ、강북)、つまりハンガン(漢江=川)より北のエリアである。ソウル市のアートスペースをスムーズに周りたい方は、このハンガンより北の地域を中心にコースを組むことをオススメしたい。

そのなかでも今回は地理的にはソウルの中心、南山を囲む地下鉄6号線のルートを中心に見てみよう。第2回でとりあげたアングク・キョンボックンの一帯では北に山が見えると紹介した。反対方向には、南山がある。かつては「南山タワー」、現在は「Nソウルタワー」と今風に名称を変えたタワーが目印の山だ。地理的に言えばソウル駅と近い位置に山があり、東京とは地理がまったく異なっている。その山の周りにもアートスペースが点在している。第1回と第2回で取り上げたエリアとうまくつなげながら訪れてみて、余裕もあれば江南方面に足を運んでみよう。

無音山房(ムウンサンバン)

第1回で紹介したホンデ(弘大入口、홍대입구)から1駅、ハプチョン(合井、합정)から6号線に乗って川沿いのルートへ向かってみよう。反対方向に乗って、SeMAストレージ(公式サイト)やSPACE55(公式サイト)、スペース・ファングミャン(公式サイト)などにも時間があれば足を運ぶのもよし。ホンデ〜ハプチョン〜サンスは歩いていけないこともないので、第1回で紹介したスペースを周りながら、サンス駅(上水、상수)から乗るのもありだ。サンス駅近くのポスト・テリトリー・ウジョングク(公式サイト)に寄って、デフン駅(大興、대흥)で降りて無音山房(ムウンサンバン、公式サイト)に足を運んでみよう。ひなびた街のなかを歩いてゆけば、ガラス張りの入口が見える。「小さくても、大きな芸術家」を積極的に紹介するこの会場では、誰もが気軽に展示に足を運べる場所となっている。若手のアーティストがより実験的な試みが行える場所として、注目の会場だ。

無音山房 外観 提供:無音山房
無音山房 会場風景 提供:無音山房

AVP Lab(シチョンガク・ラボ)

デフン駅から今度はヒョチャン公園前駅(孝昌公園アプ、효창공원앞)に移動しよう。かつてキョンボックン駅近くのトンイン市場のすぐ近くにあったAudio Visual Pavilion(以下AVP)が、2020年に名前を「AVP Lab」(公式サイトPadograph)に変えてここへ移転した。企画者や書き手として活動していたヒョン・シウォンとアン・イニョンが、展示だけでなく出版や執筆の可能性を問い続けて2013年11月にオープンしたのがAVPだ。それから2020年4月に移転して、アーティスト・作品・展示についてともに学ぶ場として、オフィスのかたちをとり場所を構えたのが、AVP Labだ。韓国の伝統家屋の形態的・歴史的特徴を踏まえた展示が印象的だったAVPからAVP Labへ活動の場が移り、これからの動向も気になるところだ。公式サイトや発行している『季刊AVP』からも活動が伺えるのでぜひともチェックしていただきたい。

AVP Lab Sasa[44]、ホン・スンへ「クロスチェック」(2021) 撮影:김상태 提供:AVP

近くには、イニスフリーや雪花秀で知られている化粧品会社「アモーレパシフィック」の建てたアモーレパシフィック美術館(公式サイト)やキム・セジュン美術館(公式サイト)、ウルジロにもあるサンオプ・ギャラリーのヨンサン分館(公式サイト)、キュー・アーカイヴ(公式サイト)、今年の5月に開館したシリンダー2(公式サイトPadograph)、公演芸術も行われるウィンドミル(公式サイトPadograph)など、ほかのスペースもある。時間に余裕があれば合わせて行ってみよう。

イテウォン周辺のアートスペース

ヒョチャン公園前駅を過ぎると、いよいよ山らしくなる。ドラマのタイトルでもおなじみのイテウォン(梨泰院、이태원)をはじめ、このエリア一帯のアートスペースまでの道のりはアップダウンがとても激しい。しかしそこには、ウルジロの雑居ビルやアングク・キョンボックンの観光名所とはまた違った雰囲気が感じられる。飲食店や住んでいる人も多国籍で、週末には若者が集い、坂を上った先に高級ホテルもあれば、急斜面に古くからの家が密集している街が見渡せる。ギャラリーなどアートスペースを周りながら、以前紹介したエリアとの違いを感じ取ってみるのもオススメだ。

ホイッスル

6号線は足腰を鍛えるのにちょうどいい。階段とエレベーターで地下から地上まで上がるのにも時間がかかるだけでなく、バスに乗れば酔いやすく、歩いていくには坂道が多く、アートスペースまで向かうのになかなかハードなエリア、それがノッサピョン~ハンガンジン駅周辺だ。目のくらむような縦に長いエスカレーターに乗ってノッサピョン駅(緑莎坪、녹사평)を出て、本格的な坂道(経理団通り、경리단길)に差し掛かる一歩手前にあるのが、ホイッスル(公式サイトPadograph)だ。ビルの階段を上がると、木の床がどことなく美術館を思わせる会場にたどり着く。2017年の6月に開廊したホイッスルでは、国内外を問わずアーティストを紹介している。前年のグループ展に参加したアーティストの個展が開催されたりと、ひとりの作家を長い目で見れる会場と言えるだろう。なお韓国語の発音だとフィスル。

ホイッスルのほかにも経理団通りを中心に、ギャラリーERD(公式サイト)、ギャラリーSP(公式サイト)、P21(公式サイト)、エディット・ハンナム(公式サイト)の展示に足を運んでみるのもオススメだ。だが地図上では近く見えても、登山とまではいかないがアップダウンが激しいので無理は禁物だ。

ホイッスル 外観 1・2階は別の店舗。3階が展示会場
ホイッスル 会場風景 © Kyoungtae Kim, Whistle Photo: Kyoungtae Kim

リウムミュージアム

P21の先、ボヘミアン・ギャラリー(公式サイト)のすぐ横にグランドハイアット・ホテルが見える。位置としてはこのホテルの敷地の裏手にあるのが、サムソン・リウムミュージアム(公式サイト)である。道のりとしては6号線のハンガンジン駅(漢江鎮、한강진)1番出口から徒歩5分の場所だ。大企業のサムソンが2004年に建てたこの美術館は、入口手前にそびえたつアニッシュ・カプーアの彫刻だけ見ても圧倒されてしまう。だが、ジャン・ヌーヴェルとレム・コールハース、マリオ・ボッタが建物をそれぞれ設計したという時点で、驚きを隠せない人も多いのではないか。オラファー・エリアソンやアニッシュ・カプーア、今年開催されたマウリツィオ・カテランをはじめとした海外有名アーティストの個展や企画展はもちろんだが、朝鮮時代の白磁をはじめとした古美術や、国内外の現代アートのコレクションも見逃せない。現在はホームページからの予約制で入場可能だ。人気の展示だと予約がすぐに埋まってしまうので、忘れずに!

リウムミュージアム View of LEEUM Museum of Art Photo: Kyung Sub Shin
リウムミュージアム マウリツィオ・カテラン「WE」会場風景 Courtesy of Maurizio Cattelan Photo: Kim Kyoungtae

アマド・アートスペース

ハンガンジン駅の近く、リウムとは反対の東側には、アマド・アートスペース(公式サイトPadograph)もある。2013年6月にオープンしたこのスペースは非営利で運営されており、企画展や個展を中心に展示が行われている。3階建ての建物をリフォームし、2階と半地下のような構造の2か所がメインの展示会場となっている。入口の横からはガラス越しに会場が見えるので、迷うことなくたどり着けるだろう。今年は開館10周年を記念した企画「Block Party」が開催され、展示のほかにワークショップやトークイベントが行われている。もし興味があればこちら(韓国語)から詳細を一度覗いてみよう。

アマド・アートスペース 外観 ©︎ 아마도 예술공간
アマド・アートスペース  イ・ウニョン個展「A night boiled down」会場風景 2019 提供:아마도 예술공간

足腰に自信があれば、パイプギャラリー(公式サイト)、ウィンドウギャラリーのルントギャラリー(公式サイト)も寄ってみたいところだ。また、ハンガンジンはイテウォンとも歩けない距離ではないので、Lehmann Maupin(公式サイト)やPACE Gallery(公式サイト)といった海外のギャラリーを周りながら、Foundry Seoul(公式サイト)、ART & CHOI’S(公式サイト)、ニュー・スプリング・プロジェクト(公式サイト)なども一緒に周ってみよう。

ディスウィーケンドルーム

リウムミュージアムより北に向かって、ディスウィーケンドルーム(公式サイトPadograph)に足を運んでみよう。歩道橋を越えて少し歩いたところに、ディスウィーケンドルームが見えてくる。2015年の12月に江南区のチョンダムに開廊したこのスペースは、2021年の3月にいまの場所に移転して運営を続けている。移転後は若手ペインターの個展やグループ展が頻繁に開催されており、今年もルーカス・カイザー、チェ・ジウォン、キム・ジニ、パク・ジナと、ペインターの個展が続いている。なお、地理的にはユーモア感覚(公式サイト)やウィウェエジョハプ(=意外な組み合わせ、公式サイト)ともやや近いが、山の稜線に沿うように位置しているため、歩いていくのはなかなかハードだ。ディスウィーケンドルームはハンガンジン駅から、ユーモア感覚とウィウェエジョハプは3号線の東大入口駅(トンデイック、동대입구)から時間をかけて歩いていこう。

ディスウィーケンドルーム 外観 Courtesy of the artist and ThisWeekendRoom, Seoul
ディスウィーケンドルーム 会場風景 Courtesy of the artist and ThisWeekendRoom, Seoul

江南区エリアのアートスペース

第1回からここまで紹介したスペースは、いずれも江北にある。だからといって川より南、江南の地域にアートスペースが無いわけではない。第1回で少し触れたタンサン駅(堂山、당산)やヨンドゥンポ(永登浦、영등포)、ムンレ(文来、문래)も、川より南にあるので地理的には江南である。江南の中でも江南区と呼ばれる一帯は、観光ガイドでも比較的取り上げられており、ショッピングや美容整形外科クリニックのある場所として日本では知られているだろう。江南区とお隣のソンパ区(松坡区、송파구)やソチョ区(瑞草区、서초구)まであわせて、ここでは江南区エリアとしよう。江南区エリアはウルジロやアングク、キョンボックンとは異なり、展示を見るルートを組むのがなかなか容易ではない。ひとつの駅を拠点に絞って周れるほど密集しておらず、駅と駅の間隔は近くても会場が少し遠い位置にあったり、最寄り駅が他の路線と接続の悪い9号線やスイン・ブンダン線(水仁・盆唐、수인・분당)だったりと、アクセスが良くない。

そのせいもあってか活気がないようにも見えるが、江北と比べてしまうとそう見えるだけだ。美術館規模では、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計したソンウン(公式サイトPadograph)、同世代の韓国のアーティストの企画展を年に数回開いているハイトコレクション(公式サイトPadograph)、化粧品会社「コリアナ化粧品」が博物館と一緒に運営しているスペースC(公式サイト)などがある。また、エルメス財団のアトリエ・エルメス(公式サイト)でも地下のフロアを活用した展示が見られる。エルメスの立地からもわかるように、このエリアの街並みは、イテウォン周辺や第1回・第2回で紹介したエリアとも雰囲気がまた異なっている。道路も広く、どこか洗練された一帯である。余裕を持ちながら見に行ってもよし、カンナム駅の地下ショッピングセンターやチャムシル駅(蚕室、잠실)のロッテタワーモールでショッピングを楽しむ前に立ち寄るのもよし。

ペリジー・ギャラリー

アックジョンより少し南に向かってみよう。ハンガラム美術館(公式サイト)のブロックバスター展やソウル市立交響楽団のコンサート会場でおなじみの「芸術の殿堂(예술의전당)」(公式サイト)の最寄り駅、南部ターミナル駅(남부터미널)。ペリジー・ギャラリー(公式サイトPadograph)は芸術の殿堂に行く途中の道にある。室内楽の演奏も行われているペリジー・ホールの横に併設されたこのスペースでは、韓国で活動しているアーティストの個展を頻繁に開催している。会期ごとに立派な冊子も制作しており、無料で配布している。比較的中堅作家の個展が多いが、「ペリジー・ウィンターショー」と題した作品販売イベントや、若手作家を中心に企画が組まれる「Unfold」というグループ展も開催されている。

ペリジー・ギャラリー 外観 KHVatecの立派な社屋、会場は階段を下りて地下1階にひっそりとある。
ペリジー・ギャラリー チョン・ミョンウン「私が抱えてる鏡」会場風景 2022 撮影:Eun Chun 提供:ペリジー・ギャラリー

江南エリア周辺にはほかにもレイ・プロジェクト(公式サイト)、White Noise(公式サイト)、THEO(公式サイト)、GCS(公式サイト)、The Great Collection(公式サイト)、シンハンギャラリー(公式サイト)、ブワットゥ(公式サイトPadograph)、ララエン(公式サイト)、OAOA(公式サイト)、ロイ・ギャラリー・チョンダム(公式サイトPadograph)、ロイ・ギャラリー・アックジョン(公式サイトPadograph)、エブアンドフロー(公式サイトPadograph)、ユーアートスペース(公式サイトPadograph)、オオン(公式サイト)などがある。またアックジョン方面から川を越えて北上したソンス駅(聖水、성수)からジーオーピー・ファクトリー(公式サイトPadograph)、ミラード・スフィア・ギャラリー(公式サイト)、ギャラリー・クジョ(公式サイト)へ、江南より少し南に行ってオシソン(公式サイト)やPROMPT PROJECT(公式サイト)、チャムシル駅方面からさらに南に行ってオクサンファクトリー(公式サイトPadograph)などなど、地理的な距離感を掴みながら足を運んでみていただきたい。

おわりに

ここ数年のあいだ、美術関係者だけでなく韓国への興味は多方面で沸き起こっている。文学作品が愛され、歌が国をわたる。日本から韓国へ行っても、翻訳機さえ見せればコミュニケーションに困らない時代になった。とはいえ、わかり合えないことも俄然多い。両国の関係性をある時代の歴史に集約することもできなければ、全部無視して平和の一言で解決することだってできない。良さやわかりやすさ、複雑さと史実が天秤にかけられるように動く時代のなか、美術作品を見に行くことは一体なんなのか。友達の展示に足を運ぶ感覚で見に行ってもよし、真面目なリサーチとして資料に目を通しながら鑑賞するのもよし。芸術作品は親しみやすさと真面目さを兼ね備えている以上、見に行く必要があるのだ。

これにて、韓国の現代美術という狭いシーンを歩き周り、展示を見て、文章を書き、批評活動を長年にわたって続けてきたいち鑑賞者による、韓国ソウルアートガイドの連載が終わる。ソウルという場所は首都ということもあって、アートシーンも同様に主流として見なされる。ソウルの大学を出て、留学したりソウル市内の大学院に進学し、ソウルのなかで多くの美術関係者(ギャラリーのオーナー、オルタナティブスペース運営者、批評家、キュレーター、グラフィック・デザイナー、コレクター、など)と関わってゆく。そのような生態系は活発であると同時に循環が早い。特定の話題やテーマが流行のようにあらゆる展示で言及され、知り合いの知り合いが何人もいて、若手アーティストが国立・市立の美術館の企画展にすぐさま紹介される。ときにはナイーブで単調な企画に溜息をついたり、人間関係の深さと広さに嫌気が差したり、決まった解釈のされかたで企画展に呼ばれて制作に行き詰まることもある、それがソウルのアートシーンだ。そういったアーティストたちの作品に触れ、見て、書くにあたって、何ができるかと言ったら、展示に足を運ぶということしかないのだ。外国籍なのにソウルで中高大大学院まで通い、アーティストではなく批評家という、他者とも言い切れない異質な存在として、韓国のアートシーンを「熱さ」と「冷静さ」を以て見続けていきたい。

紺野優希

紺野優希

こんの・ゆうき 콘노 유키 主に韓国で活動している美術批評家。「アフター・10.12」(Audio Visual Pavilion・2018)、「韓国画と東洋画と」(gallery TOWED, FINCH ARTS, Jungganjijeom II・2022)などを企画。日本と韓国の展覧会・イベント情報を紹介するポータルサイト「Padograph」(https://padograph.com/ja)の韓国担当。GRAVITY EFFECT 2019 美術批評コンクール次席。レビュー・プロジェクト記録集「朝鮮通信使月報」刊行予定(2024)。