
松たか子 撮影:灰咲光那
深田晃司監督・脚本による映画『ナギダイアリー』が、9月25日より全国公開される。舞台は、自然豊かな町「ナギ」。この地でひとり創作に打ち込む彫刻家・寄子(松たか子)のもとを、弟の元妻であり、東京と台湾で活動する建築家・友梨(石橋静河)が数日間の休暇をとって訪れる。寄子の彫刻のモデルを務めながら、ともに時間を過ごすふたり。妻を亡くした寄子の幼なじみ・好浩や、その息子の春樹、親友の圭太らとの交流を通して、穏やかだったナギの日常にも少しずつ揺らぎが生まれていく。

本作は、平田オリザの代表作『東京ノート』に着想を得て、深田がオリジナル脚本を執筆し、企画の立ち上げから9年をかけて完成させた作品。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも正式出品された。
劇中では、寄子が手がける彫刻をはじめ、美術作品が人の感情や記憶を引き出す重要な存在としてたびたび登場する。作品を「作る」ことと、俳優として役を「作る」こと。長く残る彫刻と、その場で生まれては消えていく舞台。そして、セクシュアルマイノリティであることを特別な物語として際立たせるのではなく、ひとりの人間の生活を構成する要素のひとつとして描くこと。
松たか子に、美術との距離、演技と創作、そして寄子という人物について聞いた。
『ナギダイアリー』では、彫刻をはじめとするアートが物語の重要な要素になっている。では、松自身は普段どのようにアートと関わっているのだろうか。まずは、美術館との付き合い方について聞いた。
「そんなにこまめではないんですけど、美術館に行くのは好きで、たまにふらっとひとりで行くこともあります。最近だと三菱一号館美術館にも行きました。たしかTokyo Art Beatで情報を見たんじゃないかな。建築にも興味があるので、展覧会だけでなく、建物を見たくて足を運ぶこともあります」
劇中で寄子は、人の姿を写し取るだけでなく、その人の「人柄」をつかもうとしながら彫刻を作っていく。撮影にあたり、松は実際に彫刻家のアトリエを訪れ、デッサンから粘土、木彫へと進んでいく制作の過程を見せてもらったという。彫刻を作ることと、俳優として人物を演じることに、共通する部分はあるかについて訊ねた。

「アトリエに伺ったとき、最初にデッサンをして、粘土でかたちを作り、そこから木に彫っていく過程を見せていただきました。私は、彫刻は最初から細部を緻密に作っていくものだと思っていたんです。でも実際はもっと大胆で、『骨格をとらえる』『面でとらえる』と教えていただきました。どうしても髪の毛一本一本のような細部に目が向いてしまうけれど、まず面でとらえて粘土をつけ、そこから人物を浮かび上がらせていく。その作業がとても面白かったです」
その感覚は、松自身が役を作るときのアプローチにも通じているという。
「私もお芝居では、最初に受け取った直感や大まかな印象を大事にしています。動きや服装といった細部ももちろん大切ですが、最初から細かく決めるより、その人の全体像や、人との距離感をつかむところから入るほうが自分には合っているんです」

役を演じるなかで生まれる違和感も、人物を考える手がかりになるそうだ。
「演じていると、『この役ならこれはしないだろう』と思うことがあります。そのいっぽうで、人間は日常でも矛盾した行動をしたり、居心地の悪さを抱えたりしますよね。だから、すべてをきれいにつなげようとは思っていません。その違和感が役にとって必要なのか、そうではないのかを見極めることは大切にしています」