公開日:2021年12月11日

世界に羽ばたくアーティスト5名のいま。「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」が寺田倉庫で開幕

12月10日開幕。川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈、持田敦子、山内祥太のファイナリスト5名には各審査員賞が授与された。

審査員とファイナリストたち。上段左から真鍋大度、鷲田めるろ、片岡真実、金島隆弘。下段左から川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈、持田敦子、山内祥太 Photo by Haruo Wanibe

新進アーティストの支援を目的とした現代アートのアウォード「TERRADA ART AWARD 2021」。

国内外1346組のアーティストの応募から、審査員の片岡真実(森美術館 館長、国際芸術祭「あいち2022」 芸術監督)、金島隆弘(ACKプログラムディレクター、京都芸術大学客員教授)、寺瀬由紀(前サザビーズ シニア・ディレクター/コンテンポラリーアート部門 アジア地区統括)、真鍋大度(Rhizomatiks ファウンダー、アーティスト、DJ)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館 館長)の選考によって、ファイナリストが選ばれた。

選ばれたファイナリストは川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈、持田敦子、山内祥太の5名。この5名が、12月10日から~23日にかけ寺田倉庫イベントスペースで開催する「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」にて最新作を発表。初日には、各審査員賞の発表が行われた。

寺田倉庫イベントスペースの外観

片岡真実賞は持田敦子

仮設的な素材からなる即興的に組み上げた階段で空間を埋め尽くし、作品内をめぐる様々なルートを設定したインスタレーション作品《Steps》(2021)。2013年よりこうして継続的に階段がモチーフの作品を手がけてきた持田敦子は片岡真実賞を受賞した。

本作について片岡は「工事現場などで見られる素材を使って都市の風景を彫刻に変換している。先行きの見えなさ、不確実性、どこにいくかわからない現在の気分を象徴している作品だと思います」と評価。コロナ禍においてフィジカルな体験ができること、作品のダイナミックさも良い点だと言及した。

会場風景より、持田敦子《Steps》(2021)

金島隆弘賞は山内祥太

金島隆弘賞を受賞したのは、パフォーマンスインスタレーション《舞姫》(2021)を通して「人間とテクノロジーの恋愛模様」を見事に描いた山内祥太。

金島は「デジタルネイティブだがテクノロジーに冷静に向き合っている」「パフォーマーや人間の感情を組み合わせて絶妙な作品を立ち上げている」と、作家の客観性に加えシュールさと強さを併せ持つ絶妙な作品世界を評価した。

展覧会会期中には13:00〜、15:00〜、17:00〜、18:00〜の1日4回、30分間のパフォーマンス上演が行われる(*時間は予告なく変更の可能性あり)。

会場風景より、山内祥太《舞姫》(2021)のパフォーマンスインスタレーション風景

寺瀬由紀賞は川内理香子

食への関心を起点に、身体と思考、自己や他者、それらの相互関係の不明瞭さを問い続けてきた川内理香子は、寺瀬由紀賞を受賞。

川内は本展で、内と外の境界のなさが暗喩される神話をモチーフに、自然、動物、身体が入り混じる世界を描いた油彩画、針金の半立体、ネオン管の彫刻を通して様々な線のあり方を見せる。

寺瀬は川内について「一つひとつの作品とボクシングをするかのように向き合い、衝動性と無意識のなかで制作している」と語る。そして「初の試みが見られる本展で川内が紡ぎ出す生の集合体が“ダイアログ”を持つ術を見つけたことで、今後どのような展開を見せるか楽しみです」と期待も見せた。

会場風景より、川内理香子の展示室

真鍋大度賞は久保ガエタン

展示を行う場所の過去や知られざる歴史など、綿密なリサーチにもとづくフィジカルな作品を手がけてきた久保ガエタンは、真鍋大度賞を受賞。

久保は本展で、天王洲、クジラ、リアルタイム、会場の上を飛ぶ航空機、海のリアルタイムな音などを複合した《来るべきものの予感》(2021)、《家の海》(2017/2021)、《クジラ呼び》(2021)の3作品で空間を構成した。

真鍋は「天王洲というお題からスタートし、膨大なリサーチをもとに通常では考えられない物語を見せている。その物語を分解し、複雑なネットワークとして可視化したのも素晴らしいと思いました。自分はふだん自らにバイアスをかけて狭い考えにとどまっているのではないか、そしてもっと物事を自由に関連づけても良いのではないかと思えました」とコメントした。

会場風景より、久保ガエタンの展示室

鷲田めるろ賞はスクリプカリウ落合安奈

日本とルーマニアという2つの母国に根を下ろす方法の模索をきっかけに「土地と人の結びつき」という一貫したテーマのもとで作品を手がけてきたスクリプカリウ落合安奈は、鷲田めるろ賞を受賞した。

スクリプカリウ落合は、江戸時代の鎖国政策に翻弄されながらベトナムの地で人生を終えた、あるひとりの日本人の墓と出会ったことで2019年より制作をスタートした「3部作」とも言える一連のヴィデオインスタレーションの第3章を発表している。

本作《骨を、うめる─one's final home》(2019-21)について鷲田は「人と人と隔てるものでありながら、人と人をつなげる役割を持つ海をテーマにしたインスタレーション」と表現。ベトナムの映像、長崎・平戸の映像が海の映像によって隔てられるが、「作品を見るためにはその中間地点に身を置かなければ全体を見ることができない構造。作家自身のアイデンティティの問題を出発点としながらも、普遍的な問題へと広がりが見える」とコメント。シンプルでありながらまとまりのある空間構成がもたらす効果についても評価した。

会場風景より、スクリプカリウ落合安奈《骨を、うめる─one's final home》(2019-21)

気鋭のアーティスト5名の最新作が見られる絶好の機会となる本展。来場者の投票によってオーディエンス賞も決定するため、ぜひ訪れた際には投票を。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

Editor in Chief