会場風景より、伏木庸平《オク》(2011〜)
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東京・上野に位置する東京都美術館では、布地などに針で糸を刺し、縫い重ねる手法「刺繍」に焦点を当てた展覧会「上野アーティストプロジェクト2025 刺繍―針がすくいだす世界」が開催中だ。会期は11月18日〜2026年1月8日。
「上野アーティストプロジェクト」は「公募展のふるさと」と称される同館の歴史の継承と未来への発展を図るため、公募展に関わる作家を積極的に紹介する展覧会シリーズ。2017年より毎年異なるテーマを設けて開催しており、本年で9回目の開催となる。絵画や書、工芸などはこれまで紹介されてきたが、刺繍作品に光が当たるのは今回が初めてだ。
会場には大正時代末期から現代にかけて、国内で活躍する刺し手の作品が集結。それぞれが手を動かし、布の上にすくい上げた「かたち」と向き合うことで、針と糸というシンプルな道具とともに続けられてきたこの営みの意味と可能性について考えを深めるような機会となった。
展覧会の冒頭を飾るのは、近世以来の刺繍職人の家に生まれ、伝統的な技法に基づきながら革新的な表現を追い求めた平野利太郎。本展では戦後に制作された作品を中心に、日々の生活の中で目にとまった、野菜や花、虫などをモチーフとした作品が紹介される。
西洋刺繍の知識を土台に、羊毛を用いた躍動感ある絵画的な刺繍作品を発表し、日本手芸普及協会の会長も務めた尾上雅野。尾上はもともとアマチュアの刺し手であったが、数々の手芸展での受賞を経て、晩年は後身の育成にも努めた人物である。
絵や映像を介して目にし、記憶した風景や事物を、自由なステッチで画面上につくり上げていく岡田美佳。生まれつき他者とのコミュニケーションに困難さを感じていた岡田にとって、刺繍は大切な表現手段のひとつだった。本展では、母と過ごした食卓や森の風景をモチーフにした50点の作品が一堂に会する。
展示室でひときわ存在感を放つのは、伏木庸平が2011年から継続的に制作を進めている大作《オク》だ。伏木は作品をつくることをめざすのではなく、自分の奥底に流れる時間や感覚を確かめるかのように、日々糸を刺し続け、刺繍という行為そのものを通じて自身の内面と向き合うことを試みている。
ベンガル地方の女性たちのあいだで古布再生や祈りの思いから生まれ継承されてきた「カンタ」と呼ばれる針仕事に共鳴した望月真理。インドを旅行で訪れた際に、初めて出会ったカンタの精神性に共感した望月は、独学でその制作方法を習得し、独自の表現へと昇華させた。
刺繍という手法は共通しているものの、その表現はじつに多様。細やかな縫い目の一つひとつや、そこに込められた思いを感じながら展覧会を楽しんでみてほしい。また、現在同館では「刺繍がうまれるとき―東京都コレクションにみる日本近現代の糸と針と布による造形」も開催中(会期:11月18日〜2026年1月8日)。こちらもぜひチェックしてみてほしい。