公開日:2024年3月6日

「遠距離現在 Universal / Remote」が国立新美術館で3月6日開幕。コロナ禍中に構想されたデジタル社会を映し出すグループ展

会場の様子をお届け。会期は、3月6日〜6月3日まで。

ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》(2019)展示風景 撮影:編集部

国立新美術館で、5年ぶりとなる現代美術のグループ展「遠距離現在 Universal / Remote」が、3月6日から6月3日に開催される。資本と情報が世界規模で移動する、今世紀の在り方に取り組んできた8名と1組の作品を、全世界規模の「Pan-」と、非対面の遠隔操作「リモート」の2つの視点から紹介する。2020年から約3年間のパンデミックの時期を、アジア、欧米、北欧など国際的に活躍しているアーティストたちの作品を通して振り返る展覧会だ。

キーヴィジュアル

展示構成は、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」「リモート化する個人」という2つの軸に分けられている。

まず「Pan- の規模で拡大し続ける社会」では、資本と情報の問題意識に着眼した作品が取り上げられる。井田大介(1987〜)は、現代社会に生きる人々の不安や欲望をメタファーを通して「彫刻」した映像作品を発表し、徐冰(シュ・ビン、1955〜)は初の映像作品《とんぼの眼》(2017)を上映。

井田大介の展示風景 撮影:編集部
徐冰《とんぼの眼》(2017)展示風景 撮影:編集部

トレヴァー・パグレン(1974〜)は、大陸間を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した〈上陸地点〉シリーズ、海に敷設されているケーブルを撮影した〈海底ケーブル〉シリーズ、パグレンが設計したAI エンジンが生成したイメージによる〈幻覚〉シリーズの3シリーズを展開する。

トレヴァー・パグレンの展示風景 撮影:編集部

これらの背景には、ポストコロナ社会の大きな課題として残った、感染を防ぎつつも人流を抑制するための国家権力の強化と監視システムの容認という問題がある。人々はかつて経験しなかったほどに、国家の力と国民の自由のバランス感覚が試されているといえる。

ヒト・シュタイエル(1966〜)はジョルジ・ガゴ・ガゴシツェとミロス・トラキロヴィチとともに、レクチャーパフォーマンスをもとにしたインスタレーションを展示。ファッションブランドのバレンシアガをキーワードに、ベルリンの壁崩壊からトランプ政権で揺れるアメリカまでの30年ほどに目を向け、資本主義の罪悪と政治、セレブリティのカルチャー、メディア環境の結びつきに批判的に迫る。

ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》(2019)展示風景 撮影:編集部

「リモート化する個人」では、「非接触」を前提に「遠隔化」される個人の働き方と居住について、作品を通して考えていく。エヴァン・ロス(1978〜)は、2021年から取り組んできた〈インターネット・キャッシュ自画像〉シリーズのうちのひとつ、《あなたが生まれてから》を展示する。

エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》(2023)展示風景 撮影:編集部

カメラで捉えた近郊の風景をもとに描く木浦奈津子(1985〜)は、《うみ》《こうえん》《やま》など身近な風景を通じて、私たちの生活の変わらない本質をとらえる。

木浦奈津子の展示風景 撮影:編集部

コロナ禍でもグローバル社会は世界規模で拡大を続け、そのいっぽうで個人のリモート化は進行するという状況が生まれていた。縁もなく、実際に見ることも訪れることもない世界へ向けて黙々と労働する姿は、どこか孤独で寂しくもあり、それは人間の心に大きな影響を与えるのではないだろうか。

地主麻衣子《遠いデュエット》(2016)展示風景  撮影:編集部

「Pan-」と「リモート」は、かけ離れているように見えるが、対立概念ではなくそれぞれがお互いを映し出す合わせ鏡のような存在だ。グローバル資本主義や社会のデジタル化といった、現代美術における従来のテーマを新たに捉えなおしていく本展示。ポストパンデミック社会と個人の在り方を、改めて読み解いてみたい。

ティナ・エングホフの展示風景 撮影:編集部
チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》(2013)展示風景 撮影:編集部

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