“即興”は関係性の作り方? 大友良英と持田敦子が語る、YCAM新作展「即興!」の出発点

大友良英が山口情報芸術センター[YCAM]で18年ぶりの展覧会「大友良英+YCAM 新作展『即興!』」を開催。会期は10月17日から2027年3月1日まで

大友良英と持田敦子 撮影:灰咲光那

音楽家の大友良英が、山口情報芸術センター[YCAM]で18年ぶりとなる展覧会「大友良英+YCAM 新作展『即興!』」を開催する。会期は10月17日から2027年3月1日までの136日間。

大友は1959年横浜生まれ。実験的な音楽からジャズ、ポップスまでを横断し、2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』のオープニングテーマでも知られる。震災後に福島の現状を伝えるために立ち上げられた「プロジェクトFUKUSHIMA!」や、知的障害者と即興演奏家によるグループ「音遊びの会」との20年にわたる活動など、その実践は音楽の外にも広がってきた。

本展は、大友の創作の基軸であり、アンサンブルの根底にある「即興」をテーマに、大友とYCAM、そして多様なジャンルのアーティスト5名とのコラボレーションによって制作される展覧会だ。2005年から続く、ポータブル・レコードプレイヤーを使用した《without records》は7月24日から先行展示が始まっており、10月からは坂本龍一へのトリビュート作品《Duo》、サインウェーブ奏者・即興演奏家・作曲家のSachiko Mと大友のユニットFilamentによる野外のサウンド・インスタレーション《Filaments Outside》、そして美術家・持田敦子とのインスタレーション《Dance》が加わる。

持田は1989年生まれ、長野県を拠点とする作家だ。既存の建物に壁や階段といった異物を挿入し、空間の意味を変えてしまう作品で知られる。長野県飯田市で家屋の解体そのものを作品化した《解体》(2021〜23)など、建築を素材とする大がかりなインスタレーションを手がけてきた。その持田と大友が組み、現在はYCAMの技術チームとともに制作を進めている。

7月23日、先行展示の開幕を翌日に控えたYCAMで、ふたりに話を聞いた。作品はまだ完成していない。それどころか、まだ「入り口」の段階だという。だからこそ、ふたりが何を手がかりに、何をめぐって議論しているのかが、そのまま言葉になった。

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即興という原点に立ち戻る

──本展のタイトルは、ずばり「即興!」です。この言葉を選んだ理由を聞かせてください。

大友良英(以下、大友) タイトルはいつもなかなか決まりませんね。というより、僕はタイトルから作品を作らないです。ただ今回は、いくつもの作品を同時に展示します。それが自分にとっての集大成になるのなら、創作の根幹は何かと考えざるをえない。そうして出てきた答えが、「即興」でした。

原点をもうひとつ挙げるなら、「アンサンブル」です。ただそれはずっと背景にあるものなので、今回はあえて言わなくても良いと思いました。アンサンブルを組み立てる根幹にあるのが、僕にとってはやはり即興演奏なのですから。

──持田さんも、この「即興」という言葉から一緒に考えていったのでしょうか。

持田敦子(以下、持田) 大友さんからの依頼が「これに合うものを作ってください」ではなく、「一緒にやりましょう」だったんです。ですからスクラッチから一緒に作っていきました。

私はいままで即興をテーマに活動してきたわけではないですが、誰かと一緒にプロジェクトを立ち上げることは、これまでずっとやってきました。音楽についてはまったくの門外漢で、自分のフィールドではないのですが、フィールドを切り分けることなく話し合い、アイデアを出し合いながら進めていましたね。

大友良英+青山泰知+伊藤隆之 without records 2008-26 撮影:中村マユ(ToLoLo studio)

──ご自身の制作で、即興という手法そのものを使うのは初めてですか。

持田 「即興」という言い方はしてきませんでしたが、自分のアイデアが最初にあることを前提としたうえで、そのときの社会状況、私を受け入れてくれた人、一緒にやろうと言ってくれた人の技術や文脈、考えを受け止め、それにまた返していく作り方をずっとしてきました。

即興とは、相手との向き合い方だと思います。プロセスのなかで生まれたものに自分が投げ返し、それにまた投げ返される。その過程を楽しむことが即興なのかな、と。何が出てきてもポジティブに受け取ろうとする姿勢が、とても大事なのだと思います。だから今回は即興と言うのなら苦しくてはいけない。そういう感覚はありました。

大友 関係性の作り方が即興なのだと、僕も思っています。他人との関係性もあるし、僕であれば自分の楽器との関係性もあります。相手が出してきたものをどう受け入れ、どう反応するか。その絶えざる繰り返しのプロセスを、僕は即興と呼んでいるのかもしれない。だからこの展覧会が始まってからも、プロジェクトを進めながら「即興とは何か」を考え続けたいと思っています。

大友良英+青山泰知+伊藤隆之 without records 2008-26 撮影:中村マユ(ToLoLo studio)

──持田さんは以前から大友さんのことをご存じでしたか。どんな印象を持っていましたか。

持田 お会いしたことはなかったです。ただ、美術のフィールドでも活動されていますし、なにより『あまちゃん』が大きかったので、お名前と作品はもちろん知っていました。

実際にご一緒してみると、非常にオープンな方でした。私のような年下の人間を含め、あらゆる相手に対して開かれていようとする意識が伝わってきます。だから、私も「こんなことを言ったら失礼かしら」と考えるのをやめようと思いました。そのほうがきっと喜んでくださるだろうし、みんなが楽しくやれるように心を砕いている方なんだろう、と。好き勝手にやろうと決めました(笑)。

──分野を超えたコラボレーションで、世代も離れているおふたりですが、意見がぶつかることもありましたか。

持田 活動してきたジャンルは、重なりつつも、やはり違うものです。ですから当然ぶつかる。喧嘩はしませんが、意見が食い違う場面は出てきます。面白かったのは、コンセプトの段階から話し合いを重ねていたときのことです。大友さんが言ったことに対して、私が「なぜそう思うんですか」と返していたら、私よりさらに若い子から「喧嘩しているんじゃないか」と心配されて(笑)。

大友 そう言われたね(笑)。

持田 それだけ真剣に話していたんだと思います。違うということを前提に、一緒に作品を作り上げていきました。

持田敦子《Dance》制作の様子 2026  撮影:板倉勇人(YCAM)
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