「トミノ見えざる手」はアダム・スミスの「神の見えざる手」のもじりで、スミスの「個々の利益の追求が、意図せずして公共の富をもたらす」という発想を、「個々の表現の追求が、意図せずして富野の影響下にある」状態を示し、本展はそれを様々な角度から検証していきます。 富野由悠季は「機動戦士ガンダム」「伝説巨神イデオン」「戦闘メカ ザブングル」、「聖戦士ダンバイン」「G のレコンギスタ」などに代表される数多くのロボットアニメを監督した TV アニメーション番組の名監督です。児童向け商業アニメーションの分野における富野氏の発意と工夫が数多くの富野チルドレンを生み、国内のみならず世界中に与えた影響は計り知れないものがあります。その制作手法はアニメーションをうごく紙「芝居」ととらえた画期的なものでした。そして、ここでもういちどアダム・スミスの『国富論』ー正式には『国の富に関する性質と要因の研究 An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』を振り返ってみると、国富論のキータームは、富野アニメに見られる登場人物たちの「社会分業」に描かれ、あるいは架空の政府に見られる「国防」「司法行政」「公共設備」などの問題点は、まさにガンダムの宇宙世紀などで描かれる世界の構造にあてはまります。本展は幼少期に期せずして監督に導かれたことによって、 振り返ってスミスの見えざる手までを感じ取る、視覚体験を通じて感得する展覧会となります。