北千住BUoYパンクは一般的に騒がしい音楽に派手なビジュアル、暴れる観客といったイメージを持たれていることが殆どですが、この系譜を辿るとみえてくるのが「相互扶助」「積極的自由」「自主管理」などの、他者および自己への倫理といった原理の通底です。現代アートとロックから派生したパンクは、音楽活動のみならず、独自の倫理的実践を通して社会に影響を与え、多様性といった人間性の回復をもたらしてきました。本展では、そうしたパンクがこれまで様々な社会問題に取り組んできた実践と批評性を捉えることで、現代アートとの親和性、さらには両者の相乗性について検討します。そして、現代の日常生活に対してパンクがどのように音楽を通じて自律空間を形成しているのか、さらには、それが、どのような意味をもっているのかも改めて振り返ります。
作家でジャーナリストであったカール・クラウスを起点とし、フランスの劇作家、アルフレッド・ジャリ、現代アートの初動としてのDADA、そこから派生したレトリスム、シチュアシオニスト・インターナショナル、キング・モブ、 ブラックマスク &アップ・アゲインスト・ザ・ウォール・マザーファッカーといった急進的な前衛芸術運動を紹介します。同時にセックス・ピストルズ以降に彼らと同じ軌道を描いたパンク・ロッカーたち、クラス、ライオット・ガール、クィアコア、アフロパンク、インドネシアン・パンクを参照していきます。また、経済学者の小倉利丸、美術評論家の杉田敦、昨年惜しくも急逝したアナキストで人類学者のデヴィッド・グレーバーが展覧会Zineの寄稿者として参加しています。
本展は、紙面・映像資料とドキュメンタリー映像作品によって構成されており、2021年6月に岡山県倉敷市で倉敷芸術科学大学 川上幸之介研究室により企画・開催されました。今回のノンクロン*主催による東京のBUoYへの巡回では、新たに2本のドキュメンタリー作品が追加され、同年11月には長崎のすみれ舎、12月には福岡のアートスペース・テトラへと巡ります。
*ノンクロン:美術批評家の粟田大輔、キャンプの井上文雄、アーティストの川上幸之介、芸術監督の岸本佳子、美術批評家の杉田敦、アーティストのバーバラ・ダーリン、による、アナルコ・フェミニズム・クィア・パンクバンド。
会場: BUoY 2F