s+arts(スプラスアーツ)より、大竹麟花と徳永博子による二人展「Before it becomes」の開催をご案内申し上げます。「それが何かになる前に」という意味合いを持つタイトルの本展は、世界や自己が何かとして確定する、そのひとつ手前の不確かな状態に目を向ける二人展です。
大竹麟花は、金属工芸技術の一つである、溶かした金属を型に流し込み形を作る鋳金を用いて、銅や真鍮などの金属で立体作品を制作しています。また、鋳金の制作過程で蝋型を作ることから、蝋を支持体としたペインティングや、七宝、インスタレーション等、多様な素材で表現します。朝起きてから眠るまで、または何かを作る場面における、意識の断続性や時間の感覚、幾度も立ち現れるイメージなどを、物体として表す試みを続けている作家です。
「左右を何度も確認してから渡った道路で轢かれそうになった時、前の人がした質問と全く同じ質問をしていた時、電車で電光掲示板を前の駅まで確認していたのに乗り過ごした時、そういう瞬間が積み重なる度に私は、一秒前の自分も決して信用してはならない、という気持ちを強固にしていく。人は気温や気圧、直近の出来事やその後の予定に至るまで、あらゆる周りの事象から影響を受けるせいで、一瞬たりとも同じ状態や感覚ではいられないのではないか。自分が考えていると思っていることは、確固たる意思のようでいて、時間の経過と共に何かに考えさせられていたり、気付かないうちに知らない場所へスライドしていたりする。蝋はそのような揺らぎや不安定さを自然に映す素材のようだ。金属の堅牢さとは対極にあるもののように感じるが、鋳金という技法の工程越しに眺めると、金属と蝋は親しい友人同士のような、前世で同じ人だったかのような、そんな近さがある。蝋と金属という物質を通して、今が新しく来る度、別人になる少し前の自分たちを、観察し、今と過去の間に想起されるイメージを形にする。」---大竹麟花
徳永博子は、透明なアクリル板を丁寧に削り重ね合わせることで、浮遊感を持った作品を発表しています。細やかな点と線の集まりは、氷の結晶のようにも感じられ、ストロークの「集積」と、その重なりから「知覚」されるものを制作のコンセプトとしています。世界は粒子でできているという構造的な観点から、物理的だけではなく概念的な面からも共通することに着目し、独自の視点から表現方法を模索しています。近年では、霧などの自然現象をモチーフにした作品や、インスタレーション、立体作品、写真作品など幅広い制作にも注力しており、国内外の展覧会やアートフェアを中心に新たな展開を見せています。
「かたちや意味が生まれる前、世界にはひとつの響きがあったという。目には見えないまま、確かにそこに在ったもの。私は、目に見えるものだけでなく、その背後にある現象や、ものを見ることで生まれる感覚に関心を持っている。これまで“集積と知覚”をテーマに、透明なアクリル板や金属、鏡などの素材を重ね、光や風景、周囲の環境との関係から生まれる変化を作品にしてきた。素材を透過し、反射する光は、見る位置や時間によって異なる表情を見せる。そうした変化を重ねることで、普段は意識されることのない現象や、目には見えないものの存在を浮かび上がらせたいと考えている。素材と光、空間と視線が関わり合うなかで生まれる現象を通して、見ることや感じることの意味を探っている。」---徳永博子
両者の作品に共通するのは、確かなものとして捉えていた自己や世界が、実は絶え間ない変化の中にあるという視点です。人それぞれの知覚を経て物事が存在すること、そして変わり続ける自己の輪郭を、異なる素材と表現を通して提示します。作品と向き合う時間の中で、鑑賞者自身の見ること、感じること、そして存在することの意味もまた、静かに揺らぎ始めるのかもしれません。これを機に、大竹麟花と徳永博子の二人展を是非お楽しみください
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