マキエマキ10周年記念イヤーの締めくくりとなる本展は、架空の写真愛好家「為蔵」が遺した“秘密のアルバム”を軸に展開する物語です。2018年から2025年にかけて制作した作品に、本展のために撮り下ろした新作を加え、時間の流れを感じるように構成しました。マキエマキの作品は、「male gaze(男性のまなざし)」を自身の身体で表現するセルフポートレートです。作品の中で「為蔵の恋人」として写るマキエマキは、架空の撮影者である為蔵の支配欲や承認欲求を満たす存在として現れます。ファインダーを覗く為蔵のエロティックな視線を受け入れ、カメラの前で肌をさらすその姿には、昭和の男たちが性的に消費してきた女性像が色濃く投影されています。鑑賞者は、「為蔵の恋人」が見せる恥じらいや戸惑い、そしてカメラに向けられた視線を通して、為蔵の欲望を追体験すると同時に、自らの視線のあり方を意識することになるでしょう。しかし、その世界はすべて、作者であるマキエマキがセルフポートレートという手法によって構築したフィクションです。一人の身体が「撮る者」と「撮られる者」の両方の役割を果たすことで、作者、被写体、そして架空の撮影者という複数の主体が入れ子構造のように重なり合うのです。鑑賞者が見るのは為蔵の視線なのか、それとも自身の欲望なのか。あるいは、そのすべてを設計した作家の視線なのか。「為蔵の恋人」をサディスティックな男性のまなざしで支配しているつもりの鑑賞者は、知らぬ間に、マキエマキが仕掛けた視線の構造に取り込まれているのです。
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