上杉菜乃は、微かな記憶や感情、人との関わりの積層を、色彩の重なりとして捉え、絵画を制作している。
その制作の根底には、大切なものを忘れたくないという思いがある。かつては、日常のなかにある何気ない風景や、その場に漂う空気を記録し、記憶として残すことを試みてきた。現在は、記憶そのものを保存することにとどまらず、時間や経験、人との出会いによって変化していくものとして捉えている。
画面には、幾層もの色彩が重ねられる。隣り合う色は互いに呼応し、混ざり合いながら、制作の過程で思いがけない色や動きを生み出していく。あらかじめ定められたイメージを描き出すのではなく、色を重ねる行為のなかで生まれる変化を受け取りながら、画面を形成していく。
こうした制作のあり方は、記憶や感情、人との関わりが時間のなかで積み重なり、ときに形を変えながら現在へと続いていくこととも重なる。一つひとつの色や筆致が重なり合うことで、作品ごとに異なる動きや「脈」が生まれていく。
本展では、これまでに制作した作品から新作までを展示するほか、初めて制作したドローイング作品を発表する。過去から現在へと重なってきた作品を通して、色彩の重なりの先に立ち現れる記憶や感情、関係性の変化を提示する。
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