PARCELかつてキロバイトは大きかった。それがメガになり、ギガになり、今やテラでさえ 「大きい」 かどうか実感を持って語れる人は少ない。単位は更新され続けているのに、 「巨大さ」 の感覚だけが静かに失われていく。giga という言葉はもはや大きさを意味せず、ただの日常単位として消費されている。コピーと増殖が自動化されたこの時代に、美やかたちをめぐる感覚にも同じ麻痺が起きている───彫刻家・森靖の新作個展 「giga」 は、そのような問いから出発しています。
森の制作の特徴のひとつは、即興性と物質への向き合い方にあります。⻄洋彫刻が身体を表現の「対象」として外側から取り出そうとし、東洋の仏像彫刻が身体を霊的な 「依り代」 として内側から立ち上げようとしてきたとすれば、森にとって身体はそのどちらでもなく、自然に残された形状や特徴に対して呼応することで初めて彫られ、現れるものです。素材の持つ形体や質量を出発点とし、予定調和を段階的にねじり転換させながら最終形へと向かうプロセスは、作品ごとに固有のかたちを生み出してきました。またこれまで手のひらに乗るサイズから 4 メートルに迫る大型作品まで、スケールそのものを問い続けてきました。森はこう語ります。 「あらゆる時代と人間との関係が"スケール"となって表れてきている。"スケール"は人の感覚と現代の世界を繋ぐ一つの要素である。」 2024 年には⻑野・碌山美術館での個展において 「巨大化宣言」 を打ち立て、現在 5 メートルを超える作品の制作にも着手しています。
本展では、これまでで最大となるこの作品を発表します。樹齢 100 年を超える木材を 20 本以上使用し、お台場に鎮座する自由の女神像に近い寸法で制作された新作は 「巨大化宣言」 を起点として展開されたシリーズの集大成です。公式、非公式に世界に複数存在する(米国型の)自由の女神は、冠・松明・足枷・宣言書によって 「自由」 を体現していますが、女神本人には名もなく、その顔は無表情のまま佇んでいます。コスチュームと記号を模倣すれば誰でも似せられるその像は、オリジナルとコピーの境界が溶けた時代における美の混乱を象徴しているとも言えます。そのあり方は、 「巨大化宣言」 を軸に造形の本質を問い続ける森靖の作風と、根底でつながっています。
木彫に加え、奇形樹・鍾乳石・鉛による金属作品など、素材それぞれが持つ 「コピーできない時間の堆積」 を主題とした新作群も同時に展示されます。画一的な美が存在せず、あらゆるかたちが無限に増殖するこの時代において、森は 「美とは何か、誰のためのものか、どのようにして示すのか」 を問い直します。
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