二人は、今回の共同制作において、昨今注目を集める人工知能のための「大規模言語モデル(LLM - Large Language Model)」の学習過程でつくられる「意味空間」に着目しました。意味空間とはコンピュータのための辞書のようなものです。まず無数のテクストがコンピュータに取り込まれます。そして、そこにある無数の単語が自動的に超多次元の意味空間のなかへと位置付けられながら、単語同士の関係をベクトルとして保持することで大規模言語モデルはつくられていきます。二人は、そうした意味空間の多数の次元を削減して三次元空間へと写像(マッピング)することで、人間に知覚できる画像として出力することに興味を持ちました。そして「無数の単語が意味空間へとマッピングされる過程を逆走させたときに何が起きるのか」を考えるようになったと言います。二人は、自作のCGモデルが持つ様々な三次元情報をひとつの意味空間として、8点の平面作品と2000ページの本をつくりました。それらの作品は、ひとつの意味空間の異なる諸相を垣間見せるでしょう。二人が造形しようとするのは、数多の企業や国家が試みる、すべての人々のための汎用人工知能の対極に位置する「砂の本」なのです。