キドプレスでは、このたび木戸涼子による新作展『お菓子なテンペラ』を開催いたします。
本展では、マーブルチョコレート、サイコロキャラメル、卵かけご飯など、日々の暮らしのなかで親しまれてきた身近な食べ物を主題としたテンペラ画を発表いたします。
作家は、ルネサンス初期の宗教画に用いられた金地テンペラの技法を手がかりに、日常のなかにある食べ物と、それらにまつわる記憶や感情を描き出します。中世以来、聖人や聖母、聖なる物語を描いてきた荘厳な絵画形式と、駄菓子や日常の食事という極めて身近な題材。その一見すると意外な組み合わせは、見る者にふと「おや?」という感覚を呼び起こし、身近なものを新たな眼差しで見つめる契機となります。
金地の画面のなかで、マーブルチョコレートは光輪を思わせる輝きをまとい、安価でささやかなお菓子もまた、金色の背景に置かれることで、日常の価値尺度から解き放たれ、特別な存在として立ち現れます。
そこには、身近なお菓子をあえて荘厳な絵画のなかに置くことで、その存在を慈しみ、愛情をもって見つめ直そうとする作家の眼差しがあります。いわば「安いお菓子をドレスアップする」ことによって、誰もが一度は手にした小さな甘味に、記憶や愛着という固有の価値を与えています。
一方、油彩とテンペラの混合技法で書かれた卵かけご飯やお茶漬けといった慎ましい食事やスイーツたちは単なる静物としてではなく、個人的な思いを宿すものとして描かれ、チョコレートパフェは祭壇に捧げられた供物のような姿を見せます。テンペラの持つマットで繊細な表情と、油彩の持つ豊かな色彩感を組み合わせることで、画面全体に味わい深い表情を生み出しています。
『お菓子なテンペラ』は、古典的な技法と現代の日常を交差させながら、誰もが持っている「大切なもの」の記憶を、静かにすくい上げる展覧会です。
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