ARTDYNEこの度、ARTDYNEでは、土井沙織個展「春と稀人」を開催いたします。土井沙織は愛知県に生まれ、神奈川、東京で育ち、2010年に東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻日本画領域を修了。現在は山形を拠点に制作を行い、絵画を中心に立体、壁画、インスタレーションなど多様な表現を横断しながら、国内外で発表を続けています。
土井の作品は、現代において希薄になりつつある土俗的な感覚や、民俗的想像力の領域を、絵画という形式のなかに呼び戻す試みとして捉えることができます。木製パネルに寒冷紗を張り、石膏で塗り固めた支持体に、岩絵具や顔料、弁柄、水干を幾層にも重ねていくその手法は、画面に強い物質性をもたらすと同時に、触覚的な記憶を喚起します。そのざらついた表層は、単なるマチエールにとどまらず、時間の堆積や風土の痕跡を孕んだ「地層」のようにも見えてきます。
制作の過程において、イメージはあらかじめ定められた構図に従うのではなく、幾度もの修正と反復を経て変容していきます。そこには、思考と身体、意図と偶然がせめぎ合う、きわめて有機的な生成のプロセスが存在しています。こうして立ち現れる像は、動物や人間、植物といった具体的な形をとりながらも、どこか名付けがたく、神話や伝承の断片を思わせる気配を帯びています。
本展タイトルにある「稀人」は、外部から訪れ、共同体に祝福や災厄をもたらす存在として、古くから民俗的想像力の中に位置づけられてきました。一方で「春」は、生命の再生と更新の季節であると同時に、内と外、此岸と彼岸の境界がゆるやかに揺らぐ時間でもあります。土井の作品において描かれる存在たちは、そうした境界の揺らぎのなかで現れ、私たちの知覚の外縁に立ち上がります。そこに見出されるのは、単なるモチーフの再現ではなく、生と死、自然と人間、可視と不可視といった二項を横断する力の気配です。土井は、それらを説明することなく、しかし確かにそこに在るものとして提示します。そのとき絵画は、イメージの表象であると同時に、何かを呼び寄せる場として機能し始めるのかもしれません。本展では新作を中心に十数点の作品を発表いたします。土井沙織の作品に宿る、古代から現代へ開かれた感覚の在処を、この機会にぜひご高覧ください。
まだコメントはありません